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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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21/125

Review21 残っている人

 翌朝。


 高瀬は。


 珍しく。


 スマートフォンを見る前に。


 カーテンを開けた。


「……晴れ」


 それだけ。


 昨日なら。


 通知を確認して。


 Review。


 SYSTEM。


 数字。


 それから一日が始まっていた。


 今日は違う。


 歯を磨く。


 顔を洗う。


 朝食。


 コーヒー。


 テレビ。


 ニュース。


「……」


 普通。


 何でもない。


 でも。


 その普通が。


 少しだけ。


 新鮮だった。


 ようやく。


 スマートフォンを手に取る。


 通知。


 Review。


 一件。


「……」


 開こうとして。


 止めた。


「学校行ってからでいいか」


 ポケットへ入れる。


 そのまま。


 家を出た。


◇


「おはようございます」


 職員室。


 高瀬が入る。


 藤原。


 すでにいる。


 真壁。


 当然いる。


「高瀬先生」


「何」


 藤原が。


 こちらを見る。


「今日」


「うん」


「普通ですね」


「何その感想」


「昨日まで」


「何かしら死にそうな顔してたので」


「言い方!」


 真壁が。


 パソコンから目を離さず。


「今日は」


「昨日よりマシ」


「お前も顔評価すんな」


「事実」


「最近みんな俺の顔を資料みたいに読むな」


 藤原が。


 少し笑う。


「分かりやすいので」


「またそれ」


「便利な人」


「褒めてないだろ」


「半分」


「流行ってんな」


 真壁が。


 資料を一枚。


 高瀬へ渡す。


「これ」


「何」


「昨日の桐谷先生の件」


 高瀬の表情が。


 少しだけ変わる。


「調べた?」


「藤原先生と」


「昨日?」


「はい」


「俺帰ったあと?」


「はい」


「仲良くやってるじゃん」


「嫌です」


「嫌です」


「そこだけ息合うな!」


 藤原が。


 笑う。


「で」


 高瀬が。


 資料を見る。


「何分かった」


 真壁が。


 少し声を落とす。


「給与」


「うん」


「桐谷先生」


「退職後も」


「三月まで」


「通常給与が」


「出てた」


「そこまでは昨日」


「はい」


「で」


 真壁が。


 次の紙。


「四月」


「……」


「ゼロ」


「切れてる?」


「はい」


「三月まで」


「うん」


「在籍していたように」


「給与だけ」


「……」


 藤原が。


 少し眉を寄せる。


「でも」


「職員名簿では」


「十月退職」


「うん」


「人事記録も」


「十月」


「うん」


「給与だけ」


「三月」


「……」


 三人。


 黙る。


「期間」


 高瀬が。


 紙を見る。


「半年弱」


「はい」


「何か意味ある?」


「分からない」


 真壁。


「でも」


「一つ」


 藤原。


「気になったのがあります」


「何」


「三月末」


「うん」


「この学校」


「年度末」


「そりゃそうだ」


「つまり」


「はい」


「給与が止まったのが」


「人事上の退職日じゃなくて」


「年度の終わり」


「……」


 高瀬が。


 少し考える。


「残ってた?」


「何が」


 真壁。


「桐谷」


「記録上」


「年度が終わるまでは」


「どこかに」


「残ってた?」


 藤原が。


 ノートを開く。


「可能性」


「うん」


「確定じゃない」


「分かってる」


 高瀬が。


 少し笑う。


「最近ちゃんと保留できる」


「自分で褒める?」


 藤原。


「褒めてくれないから」


「めんどくさい」


「真壁まで!」


◇


「じゃあ」


 真壁が。


 少しだけ。


 椅子を近づける。


「次」


「うん」


「桐谷先生の」


「授業記録」


「何それ」


「学習記録」


「成績処理」


「テスト」


「コメント」


「そういうの」


「残ってる?」


「残ってます」


「普通に?」


「普通に」


「……」


「ただ」


 藤原が。


 言葉を継ぐ。


「十月十二日まで」


「……」


「十三日以降」


「ない」


「また十三」


 高瀬。


 真壁。


 藤原。


 三人とも。


 少しだけ。


 表情が硬くなる。


「十三日」


「高瀬先生が休み始めた日」


「桐谷先生の記録が」


「途切れた日」


「……」


 高瀬が。


 机に指を置く。


「その日」


「学校で何かあった?」


「そこ」


 藤原。


「調べました」


「何か出た?」


「会議記録」


「うん」


「生徒指導記録」


「うん」


「保健室」


「うん」


「事故」


「うん」


「大きなものは」


「何も」


「……」


「でも」


 真壁が。


 別の紙を出す。


「一件」


「何」


「校内放送の記録」


「放送?」


「はい」


「十月十三日」


「午後五時四十四分」


「……遅い時間」


「下校後」


「何が流れた?」


「そこが」


 真壁が。


 高瀬を見る。


「記録上」


「放送あり」


「内容」


「空欄」


「……」


「誰が放送した?」


「それも」


「空欄」


「……」


 高瀬が。


 少し嫌な顔をする。


「また空白」


「はい」


 藤原。


「録音」


「ない?」


「保管期間切れ」


「そっか」


「でも」


 真壁が。


 続ける。


「当時」


「残ってた教師」


「何人か」


「聞ける?」


「今日」


「いる人」


「いる」


「じゃあ」


 高瀬が。


 立ち上がりかける。


「待って」


 真壁。


「何」


「すぐ行かない」


「何で」


「今」


「授業前」


「……」


「あと」


「一人ずつ」


「聞く」


「三人で囲むと」


「圧」


「……」


「確かに」


 藤原が。


 少し笑う。


「高瀬先生」


「はい」


「昔なら」


「絶対今走ってた」


「成長」


「自分で言うな」


 三人。


 少し笑った。


◇


 昼休み。


 最初に話を聞いたのは。


 ベテランの男性教師だった。


「十月十三日?」


「はい」


 高瀬。


「去年」


「夕方」


「校内放送」


「……」


 男性教師は。


 少し考える。


「何かあったっけ」


「記録だけ」


「残ってるんです」


「内容空欄?」


「はい」


「……」


「先生」


 藤原が。


 ゆっくり聞く。


「覚えてること」


「何でもいいです」


「……」


 男性教師が。


 目を閉じる。


「夕方」


「うん」


「確か」


「職員室」


「俺と」


「何人か」


「残ってた」


「桐谷先生は?」


「……」


 少し。


 間。


「いた」


 三人。


 表情を変えない。


 でも。


 高瀬の指先が。


 少し動く。


「高瀬先生は?」


 真壁。


「……」


 男性教師が。


 高瀬を見る。


「お前も」


「……」


「いた?」


「いたよ」


「……」


 高瀬。


 何も言わない。


「高瀬先生」


 男性教師。


「覚えてない?」


「……すみません」


「全然?」


「全然」


「……」


 男性教師が。


 少しだけ。


 顔を曇らせる。


「そうか」


「で」


 高瀬。


「放送」


「何が流れたか」


 男性教師は。


 すぐには答えなかった。


「……変だった」


「何が」


「声」


「誰の?」


「分からない」


「男?」


「女?」


「……」


「それも」


「分からない」


「どういうこと」


「機械っぽい?」


 藤原。


「違う」


「じゃあ」


「……」


 男性教師が。


 少し。


 困った顔をする。


「人の声」


「なんだけど」


「うん」


「誰の声にも」


「聞こえなかった」


「……」


 三人。


 黙る。


「内容」


 真壁。


「覚えてます?」


「全部は」


「一部だけでも」


 男性教師が。


 ゆっくり。


 口を開く。


「確か」


「……」


「名前」


「呼んでた」


「誰の」


「……」


 視線。


 高瀬へ。


「お前」


「……俺?」


「高瀬」


「って」


「放送で」


「……」


 高瀬の喉が。


 鳴る。


「何て」


「……」


 男性教師が。


 少しだけ。


 眉を寄せる。


「『高瀬』」


「うん」


「『評価を終了します』」


「……」


 空気。


 一気に。


 冷たくなる。


「それだけ?」


「そのあと」


「何か」


「……」


「数字」


「何の」


「分からない」


「でも」


「カウント」


「してた」


「……」


「何から」


「……三」


 高瀬の指が。


 止まる。


「三?」


「うん」


「三」


「二」


「一」


「……」


「そのあと」


「何も」


「……」


 藤原が。


 静かに聞く。


「桐谷先生」


「その時」


「どうしてました?」


 男性教師の表情が。


 さらに。


 曇る。


「……走ってた」


「どこへ」


「職員室から」


「出て」


「……」


「高瀬を」


 一度。


 言葉を切る。


「追いかけた」


「……」


「俺を?」


「うん」


「俺」


「どこ行った?」


「……」


「それ」


 男性教師が。


 少し苦しそうに。


 頭を押さえる。


「分からない」


「思い出せない?」


「……」


「そう」


「変だな」


「何が」


「俺」


「この話」


「今まで」


「思い出そうとしたこと」


「なかった」


「……」


「今」


「聞かれて」


「急に」


「出てきた」


 三人。


 顔を見合わせる。


 記憶。


 また。


 人の中に。


 残っていた。


 完全には。


 消えていなかった。


◇


「もう一人」


 次。


 女性教師。


 同じ質問。


 十月十三日。


 放送。


「……覚えてます」


 三人の表情が。


 少し変わる。


「何て」


 藤原。


「高瀬先生」


 女性教師が。


 少し不安そうに。


 高瀬を見る。


「はい」


「本当に」


「聞いて大丈夫?」


「……」


「大丈夫」


「藤原」


「その言葉」


「禁止」


「あ」


 女性教師が。


 少し笑う。


「何それ」


「最近ルールできました」


「じゃあ」


 高瀬。


「聞きたいです」


「……」


「分かった」


「放送」


「内容」


「覚えてる範囲で」


「……」


 女性教師。


 ゆっくり。


「『対象』」


「うん」


「『高瀬』」


「うん」


「『最終評価』」


「……」


 高瀬の表情が。


 止まる。


 最終評価。


 No.001。


 空白。


 その言葉。


 まだ。


 そこまでは。


 出ていない。


「その後」


「……」


「星」


「星?」


「うん」


「五つ」


「……」


「でも」


「一個ずつ」


「消えた」


「……」


 高瀬。


 息を止める。


「五」


「四」


「三」


「二」


「一」


「……」


「ゼロ」


「……」


 真壁が。


 少しだけ。


 顔を強張らせる。


「ゼロ?」


「うん」


「そのあと」


 女性教師。


 小さく。


 言う。


「『採点不能』」


「……」


 三人。


 完全に。


 黙った。


 高瀬の胸。


 強く。


 鳴る。


「もう一回」


「何て」


「採点不能」


「……」


「確かに?」


「……多分」


「多分?」


「ごめん」


「一年前だから」


「でも」


「その言葉」


「聞いた時」


 女性教師が。


 少しだけ。


 腕をさする。


「すごく」


「嫌な感じがしたの」


「……」


「それだけ」


「妙に」


「覚えてる」


 高瀬。


 何も言わない。


 真壁。


 藤原。


 二人も。


 何も。


 言えなかった。


◇


 三人。


 空き教室。


 午後二時四十二分。


 ノート。


『10月13日』


『17:44 校内放送』


『対象:高瀬』


『評価終了』


『3→2→1』


『最終評価』


『★★★★★→0』


『採点不能』


『桐谷、高瀬を追う』


「……」


 高瀬が。


 ノートを見る。


「採点不能」


「はい」


 藤原。


「一年前に」


「もう」


「出てた?」


「証言上は」


 真壁。


「でも」


「記録」


「ない」


「……」


「覚えてたの」


「二人」


「はい」


「つまり」


 高瀬。


「人の中には」


「残ってた」


「……」


 藤原が。


 少しだけ。


 笑う。


「真壁先生」


「何」


「人を記録にする」


「……」


「当たってたかもしれません」


 真壁。


 少しだけ。


 目を伏せる。


「でも」


「全部」


「覚えてるわけじゃない」


「うん」


「断片」


「それでも」


 高瀬。


「ゼロよりいい」


「……」


 三人。


 少しだけ。


 黙る。


「桐谷」


 高瀬。


「俺を追った」


「うん」


「そのあと」


「三日」


「消えた」


「……」


「俺は」


「三日休んだ」


「……」


「十六日」


「桐谷退職」


「俺」


「普通に出勤」


「桐谷を」


「忘れてた」


「……」


「一回目」


 高瀬が。


 小さく言う。


「ここかもしれない」


「……」


 真壁。


「LOOP1」


「うん」


「でも」


「高瀬先生」


「何」


「一個」


「おかしい」


「何」


「もし」


「10月13日」


「高瀬先生が」


「採点不能になった」


「うん」


「それが」


「一回目の終わりなら」


「……」


「SYSTEM上」


「終了理由」


「対象死亡」


「……」


「なのに」


 真壁が。


 高瀬を見る。


「高瀬先生」


「十六日」


「普通に出勤してる」


「……」


 藤原。


 ゆっくり。


「死亡」


「してない」


「少なくとも」


「現実では」


「……」


 高瀬の表情が。


 変わる。


「じゃあ」


「SYSTEMの」


「死亡」


「……」


「死ぬって意味じゃない?」


 三人。


 黙る。


 桐谷のSMS。



『SYSTEM上では、死亡扱い。』



「……」


 高瀬。


「これ」


「桐谷が言ってた」


「うん」


「現実では」


「何が起きた」


「……」


 誰も。


 答えられない。


「でも」


 藤原。


「一個」


「分かりました」


「何」


「採点不能」


「うん」


「それ」


 ノートを指す。


「初めてじゃない」


「……」


「高瀬先生」


「一回」


「そこまで」


「行ってる」


 高瀬は。


 その言葉を。


 しばらく。


 見つめた。


「じゃあ」


「俺」


「また」


「そこに」


「近付いてる?」


 自己選択率。


 18%。


 評価精度。


 低下。


「……」


 真壁が。


 すぐ言う。


「だからって」


「止める?」


「……」


「高瀬先生」


「自分で選ぶの」


「止める?」


 高瀬は。


 少しだけ。


 笑った。


「嫌」


「……」


「俺」


「昨日」


「結構」


「いい日だった」


「……」


「採点されなくても」


「……」


「だから」


「止めたくない」


 藤原が。


 少しだけ。


 笑う。


「なら」


「続けましょう」


「うん」


「ただ」


 真壁。


「一年前」


「採点不能のあと」


「何が起きたか」


「そこ」


「先に調べる」


「……」


「賛成」


 三人。


 また。


 ノートへ。


 向き直る。


◇


 その日の夕方。


 高瀬は。


 教室。


 一人。


 黒板。


 今日の授業。


 消し残し。


「……採点不能」


 小さく。


 口にする。


 怖い。


 でも。


 どこか。


 懐かしい。


 そんな。


 変な感覚。


「俺」


「一回」


「ここまで来たんだな」


 その時。


「先生」


 後ろ。


「うわっ!」


「また!」


 女子生徒。


「もう驚かせるの趣味?」


「普通に来ただけ!」


「はいはい」


「先生」


「何」


「今日」


「何点?」


「またそれ?」


「大丈夫度」


「……」


 高瀬は。


 少し考える。


「今日は」


「点数なし」


「また?」


「うん」


「何で」


「いい日だったから」


「昨日も言ってた」


「今日も」


「じゃあ」


 女子生徒が。


 少し笑う。


「いい日が続いてる」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 止まる。


「そうだな」


「うん」


「結構」


「幸せじゃないですか」


「……」


 何でもない。


 言葉。


 でも。


 高瀬は。


 すぐ返せなかった。


「……幸せ」


「違います?」


「いや」


「……」


「そうかも」


 声。


 少しだけ。


 柔らかくなる。


「先生?」


「何」


「変な顔」


「どんな」


「泣きそう」


「泣かねえよ」


「嘘」


「最近嘘判定厳しいな」


「先生分かりやすいから」


「またそれ」


 二人。


 笑う。


 その時。


 高瀬のスマートフォン。


 ポケット。


 震える。


「……」


 生徒。


「見ないんですか?」


「うん」


「大事な連絡かも」


「後で」


「珍しい」


「今」


 高瀬が。


 教室を見る。


「こっち」


「大事だから」


「……」


 女子生徒が。


 少しだけ。


 笑う。


「先生」


「何」


「今」


「かなり先生っぽい」


「だからずっと先生!」


「はいはい」


「雑!」


 また。


 笑い声。


 スマートフォン。


 もう。


 震えなかった。


◇


 その夜。


 高瀬が。


 寝たあと。


 スマートフォン。


 静かに。


 点灯。



━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


対象 高瀬


評価不能時間


継続中


━━━━━━━━━━━━



 次。



━━━━━━━━━━━━


自己選択率


18%


 ↓


21%


━━━━━━━━━━━━



 そして。



━━━━━━━━━━━━


過去記録との


一致を確認。


━━━━━━━━━━━━



 表示。



━━━━━━━━━━━━


LOOP 1


自己選択率


21%時点


━━━━━━━━━━━━



 数秒。



 最後。



━━━━━━━━━━━━


同一地点へ到達。


━━━━━━━━━━━━



 画面は。



 暗くなる。



 高瀬は。



 眠っている。



 まだ。



 知らない。



 今。



 自分が。



 一年前の自分と。



 全く同じ場所へ。



 辿り着いたことを。

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