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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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18/117

Review18 本人確認

 午後十時三十一分。


 藤原は。


 スマートフォンを握ったまま。


 動けずにいた。



『私は、


桐谷です。』



「……」


 画面。


 知らない番号。


 でも。


 名前だけは。


 知っている。


 いや。


 知っていたはずの人。


 高瀬が忘れた人。


 藤原自身も。


 いつの間にか。


 深く考えることをやめていた人。


「……桐谷先生」


 口にすると。


 現実味が増した。


 指が。


 すぐに高瀬の名前へ向かう。


 グループ通話。


 発信。


 一回。


 二回。


 高瀬。


 真壁。


 両方。


 出た。


『どうした』


 高瀬。


『寝てないじゃん』


 真壁。


「今それどころじゃないです」


『何』


「来ました」


『何が』


「SMS」


『誰から』


 藤原は。


 一度。


 息を吸う。


「桐谷先生」


 沈黙。


『……は?』


 高瀬。


『本当に?』


 真壁。


「分かりません」


『内容』


「今送ります」


 スクリーンショット。


 グループへ。


 三人。


 数秒。


 誰も喋らない。


『……桐谷』


 高瀬の声。


 少し。


 震えていた。


「高瀬先生」


『うん』


「まだ本人って決まってません」


『分かってる』


『絶対分かってない声』


 真壁。


『分かってるって』


『今すぐ電話しそう』


『……』


『図星』


「高瀬先生」


『はい』


「電話しない」


『……はい』


「真壁先生」


『何ですか』


「止めてください」


『俺が?』


「高瀬先生を」


『面倒』


『お前』


 藤原が。


 少しだけ笑った。


 でも。


 すぐに。


 画面へ戻る。


「まず」


『うん』


「本人確認します」


『どうやって』


『本人しか知らないこと』


 真壁。


「そうです」


『でも』


 高瀬。


『俺』


 一度。


 言葉が止まる。


『桐谷のこと』


『ほとんど覚えてない』


「……」


『何聞けばいいんだよ』


 声。


 さっきより。


 少し小さかった。


 藤原も。


 すぐには返せなかった。


 真壁が。


 静かに言う。


『じゃあ』


『高瀬先生が知らないことじゃなくて』


『今の高瀬先生が思い出せないこと』


『聞けばいい』


『……同じじゃない?』


『違う』


『藤原先生』


「はい」


『桐谷先生との』


『具体的なエピソード』


「あります」


『高瀬先生が覚えてないやつ』


「……あります」


『それ聞きましょう』


 高瀬が。


 少し黙る。


『俺だけ答え知らないテストみたい』


『嫌?』


 真壁。


『……ちょっと』


「でも」


 藤原。


「必要です」


『分かってる』


 一度。


 高瀬が息を吐く。


『やろう』


◇


 藤原は。


 SMSへ。


 文字を打つ。



『本人確認をしたいです。


 桐谷先生しか知らないことを

 いくつか質問します。』



 送信。


 数秒。


 返信。



『当然です。』



「……」


『反応早いな』


 高瀬。


『待ってた?』


 真壁。


「かもしれません」


 藤原。


 第一問。



『去年の九月。


 高瀬先生と私と桐谷先生で

 職員室に最後まで残った日。


 桐谷先生が高瀬先生に

 何を買ってきたか覚えていますか?』



 送信。


 高瀬が。


『これ俺分からない』


「黙っててください」


『はい』


 返信。


 すぐ。



『缶コーヒー。


 微糖。


 高瀬はブラックだと言い張っていたが、


 一口飲んで


 「苦っ」と言った。』



「……」


 藤原が。


 思わず口元を押さえた。


『合ってる?』


 真壁。


「……はい」


『マジ?』


 高瀬。


「高瀬先生」


『何』


「ブラック飲めるふりしてたんですか」


『そこ!?』


「覚えてます」


『本人は覚えてないのに』


『悲しいな』


 真壁。


『お前笑ってるだろ』


『少し』


「次いきます」


◇


 第二問。



『高瀬先生が一度だけ、


 職員室で本気で怒ったことがあります。


 原因は何でしたか?』



 高瀬が。


『俺そんな怒った?』


「怒りました」


『何で』


「だから今聞いてます」


『……』


 返信。


 少し時間がかかった。


 三十秒。


 一分。


『遅い』


 高瀬。


『考えてるんでしょ』


 真壁。


 一分十七秒。


 返信。



『生徒の提出物を


 別の教師が勝手に捨てた時。』



 藤原の表情が。


 止まる。


『合ってる?』


 真壁。


「……はい」


 高瀬。


『……俺』


『そんなことあった?』


「ありました」


『誰の提出物』


「今はそこじゃないです」


『いや気になる』


『後で』


 真壁。


 藤原が。


 もう一つ。


 打つ。


◇


 第三問。



『桐谷先生が、


 高瀬先生に言った言葉。


 「全部自分でやらないと――」


 この続きは?』



 送信。


 今度は。


 返信が。


 早かった。



『死ぬ病気?』



「……」


 高瀬が。


 息を止める。


『……それ』


「昨日思い出したやつですよね」


『うん』


『高瀬先生』


 真壁。


『このSMSの相手』


『少なくとも』


『かなり詳しい』


『……』


「でも」


 藤原。


「本人確定ではないです」


『分かってる』


 高瀬。


『じゃあ』


『最後』


『俺から聞いていい?』


「何を」


『分からない』


『……』


『でも』


 一度。


 声が低くなる。


『なんか』


『聞かなきゃいけない気がする』


 真壁。


『勘』


『……』


『ごめん』


『いや』


 真壁の声も。


 少し柔らかくなる。


『今回は』


『聞いてみれば』


 藤原が。


 少し笑う。


「珍しい」


『何が』


「真壁先生が勘を許した」


『本人確認の最後くらい』


『いいでしょ』


『ありがと』


 高瀬が。


 自分のスマートフォンを握る。


 そして。


 藤原へ。



『送って』


「はい」


『高瀬先生』


「何ですか」


『質問』


「言ってください」


 高瀬は。


 少し。


 迷う。


『俺』


『桐谷に』


『一番最後』


『何て言った?』


 藤原の指が。


 止まった。


「……高瀬先生」


『何』


「それ」


『うん』


「私も知りません」


『……』


 真壁。


『なら』


『良い質問かも』


「送ります」


◇


 文字。



『高瀬先生から質問です。


 あなたと最後に会った時。


 高瀬先生は、


 あなたに何と言いましたか?』



 送信。


 一分。


 二分。


 返信が。


 来ない。


『遅いな』


 高瀬。


『今までより明らかに』


 真壁。


 三分。


 藤原が。


「……逃げた?」


『かも』


 真壁。


『いや』


 高瀬。


『待つ』


 声。


 妙に。


 確信があった。


『待とう』


 四分。


 五分。


 そして。


 画面が。


 震えた。


 返信。


 短い。



『それは、


言えません。』



「……」


 高瀬の表情が。


 変わる。


『何でだよ』


 すぐ。


 藤原。


「待って」


『でも』


「今聞きます」


 返信。



『なぜですか?』



 数秒。



『思い出したら、


また高瀬が倒れるから。』



「……」


 三人。


 誰も。


 喋れなかった。


 高瀬が。


 小さく。



『俺が倒れたこと』


『知ってる?』


 藤原が。


 そのまま送る。


 返信。



『知っています。』



『何で』


『見ていたから。』



 高瀬の背中が。


 冷たくなる。


『どこで』


 返信。



『病院ではありません。』



「……?」


 真壁。


『どういう意味』


 藤原が。


 送る前に。


 次のSMS。



『Reviewを通して。』



「……」


 高瀬。


『桐谷も』


『Review見れるの?』


 返信。



『見られる、ではありません。』



 次。



『見せられています。』



「……」


 真壁の声。


『受動的』


「はい」


『自分で見てるんじゃない』


「そう読めます」


 高瀬。


『桐谷』


『今どこにいる』


 藤原。


「高瀬先生」


『分かってる』


「でも聞く?」


『うん』


 送信。



『今、どこにいますか?』



 返信。


 少し遅い。



『場所を教えることはできません。』



『理由は?』



『あなたたちが来るから。』



 高瀬。


『行くよ』


『高瀬先生』


 真壁。


『それ本人に言うな』


『でも行くだろ』


『行くかどうかは』


『場所聞いてから』


『合理的』


『でしょうね』


 藤原が。


 思わず笑いそうになって。


 やめた。


 次のSMSが来た。



『高瀬。』



 名前だけ。


 初めて。


 藤原ではなく。


 高瀬へ。


 直接話しかけるような文。


 高瀬の顔が。


 変わる。



『何』



 藤原が。


 高瀬の言葉を打つ。



『お前は昔から、


人が困っていると、


理由を聞く前に走ってくる。』



 高瀬。


『……』


 続き。



『それで何度も助けられた。』



 次。



『何度も、


迷惑だった。』



「……」


 高瀬が。


 少しだけ笑った。


『なんか』


『知ってる奴っぽい』


 真壁。


『それで本人認定しない』


『分かってる』


 さらに。



『今だけは、


来ないでくれ。』



 高瀬の笑顔が。


 消えた。



『何で』



『お前が来たら、


また同じ選択をする。』



 高瀬。


『何の選択』



 返信が。


 止まる。


 一分。


 二分。


 ようやく。



『俺を助ける。』



 高瀬の。


 呼吸が。


 止まった。



『それがダメなのか』



『ダメだ。』



『何で』



『一回目に、


それでお前は死んだ。』



「……」


 高瀬は。


 何も言えなかった。


 藤原も。


 真壁も。


 沈黙。



『LOOP1?』


 真壁が。


 小さく聞く。


 藤原が。


 文字にする。



『「一回目」とは


LOOP 1のことですか?』



 返信。



『そうだ。』



「……」


 高瀬。


『じゃあ』


『俺』


 一度。


 言葉が止まる。


『桐谷を助けようとして』


『死んだ?』


 返信。



『正確には違う。』



「違う?」


 藤原。



『高瀬は、


俺を助けるために


「選んだ」。』



 次。



『その選択の結果、


高瀬は消された。』



「……消された?」


 高瀬。



『死んだんじゃないのか』



 返信。



『SYSTEM上では、


死亡扱い。』



『現実では?』



 長い。


 返信が。


 来ない。


 高瀬が。


 画面を睨む。


『桐谷』


『現実では俺はどうなった』



 ようやく。


 返事。



『それを思い出したら、


今度こそ戻れなくなる。』



「……」


 藤原。


「戻れない?」


 真壁。


『何から』


 藤原が送る。


 返信。



『今の高瀬から。』



 沈黙。



 その直後。



 三人のスマートフォンが。



 同時に。



 激しく震えた。



━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


不正通信を検出。


━━━━━━━━━━━━



「……来た」


 真壁。


 次。



━━━━━━━━━━━━


通信対象


DELETED:桐谷


━━━━━━━━━━━━



 高瀬の指が。


 止まる。



━━━━━━━━━━━━


遮断処理を開始します。


━━━━━━━━━━━━



『桐谷!』


 高瀬が。


 声を上げる。


 藤原が。


 急いでSMSを打つ。



『桐谷先生!


聞こえますか?』



 送信。


 未送信。


「……!」


 もう一度。


 未送信。


 画面。


 圏外ではない。


 他の通信は。


 生きている。


「桐谷だけ」


 真壁。


「切られた?」


 その瞬間。


 SMS。


 最後の一通。


 届いた。



『星を返すな。』



 続けて。



『俺を助けるな。』



 そして。



『次は、


自分を選べ。』



「……」



 高瀬は。



 最後の文章を。



 何度も。



 読み返した。



『次は、


自分を選べ。』



 一回目。



 自分は。



 何を選んだ?



 桐谷を。



 助けた。



 その結果。



 SYSTEM上では。



 死亡。



 そして今。



 二回目。



 同じ選択が。



 また。



 目の前へ。



 近付いている。



 高瀬は。



 まだ。



 知らなかった。



 桐谷の最後の言葉が。



 やがて。



 この人生で。



 一番難しい問いになることを。

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