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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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16/118

Review16 返却

「……返却を要求します、か」


 高瀬は。


 テーブルの上に置かれた星形のキーホルダーを見つめていた。


 透明な樹脂。


 金色のラメ。


 裏面。


『001』


 ほんの少し前まで。


 ただの落とし物だった。


 今は。


 三人とも。


 触ることすら。


 少し躊躇している。


「で」


 真壁が言った。


「どうします?」


「返す」


 高瀬。


「早い」


 藤原。


「だって」


「誰にですか」


「No.001」


「どこにいるんですか」


「……それは」


「分からないですよね」


「だからSYSTEMに聞く」


「答えると思います?」


「聞くだけ聞く」


「高瀬先生」


「何」


「昨日まで何回それで危ない目に」


「……」


「学習」


「してる」


「今の即答でしてないの分かりました」


「厳しいなあ」


 真壁が。


 星を見ながら口を開く。


「俺はまだ返さない方がいいと思います」


「何で?」


「情報が少なすぎる」


「でも所有者って」


「SYSTEMが言っただけ」


「……」


「No.001本人が」


 真壁が高瀬を見る。


「返してって言ったわけじゃない」


 高瀬は。


 少し黙った。


「確かに」


 藤原が言う。


「それ」


「うん」


「かなり大事かも」


「SYSTEMが」


「所有者No.001」


「返却要求」


「って言ってるだけ」


「本人の意思は」


「分からない」


 三人。


 星を見る。


「じゃあ」


 高瀬が。


 少し身を乗り出す。


「No.001に直接聞けばいい」


「どうやって」


「Review」


「通じるんですか?」


「知らん」


「高瀬先生」


「何」


「今日」


「うん」


「『知らん』多いです」


「分からんもんは分からん」


「開き直った」


 真壁が。


 少しだけ笑う。


「でも」


「ん?」


「それは試してもいいと思う」


「お」


「ただし」


「はい」


「三人で」


「はい」


「記録しながら」


「はい」


「一個ずつ」


「分かった」


「本当に?」


「信用ないな俺」


「実績」


「ぐうの音も出ない」


 藤原が。


 ノートを開いた。


『Review16 検証』


「タイトルつけるんですか」


 真壁。


「後で見返しやすいので」


「なるほど」


「高瀬先生」


「はい」


「スマホ」


 高瀬が。


 テーブルの中央へ置く。


「じゃあ」


 藤原がペンを持つ。


「質問」


「No.001」


「うん」


「この星」


「うん」


「返してほしい?」


「それでいこう」


 高瀬が。


 スマートフォンへ話しかける。


「No.001」


 静か。


「聞こえてるなら」


 少し間を置く。


「この星」


「返してほしい?」


 無反応。


 三人。


 待つ。


 五秒。


 十秒。


「……何もない」


「もう一回?」


 高瀬。


「待って」


 真壁。


「同じ質問連打しても意味ない」


「じゃあ」


「言い方変える」


「どう変える?」


「所有者がNo.001なら」


 少し考える。


「この星を持ってることで」


「高瀬先生に危険はある?」


「なるほど」


 藤原が。


 ノートに書く。


「聞いてみましょう」


 高瀬。


「この星を持ってることで」


「俺に危険ある?」


 数秒。


 スマートフォンが。


 震えた。


「来た」


 三人。


 見る。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


回答不能。


━━━━━━━━━━━━


「不能?」


 高瀬。


 真壁が眉を寄せる。


「『回答しません』じゃない」


「うん」


「『回答不能』」


 藤原が。


 すぐノートに書く。


「違いありそう」


「続き」


 高瀬が画面を見る。


━━━━━━━━━━━━


質問権限が


不足しています。


━━━━━━━━━━━━


「質問権限?」


「また権限」


 真壁が。


 少し苛立った声を出す。


「何でも権限で止めるな」


「真壁」


「何」


「ちょっと高瀬化してる」


「嫌です」


「即答」


 藤原が笑う。


 真壁は。


 ため息。


「じゃあ」


「権限上げる方法聞く?」


 高瀬。


「それは」


 藤原が考える。


「あり」


「珍しく攻めるね」


「今は三人いるので」


「……」


 高瀬が。


 少しだけ嬉しそうな顔をした。


「何」


「いや」


「その顔」


「何」


「また褒める?」


「やめとく」


「それでいい」


 高瀬が。


 もう一度スマートフォンへ向く。


「質問権限」


「どうやったら上がる?」


 沈黙。


 数秒。


━━━━━━━━━━━━


条件。


━━━━━━━━━━━━


「お」


 高瀬。


 続く。


━━━━━━━━━━━━


対象との


接触。


━━━━━━━━━━━━


 三人。


 同時に止まる。


「対象」


 藤原。


「No.001?」


 真壁。


 次。


━━━━━━━━━━━━


No.001への


接触を確認した場合。


質問権限を


一段階解放します。


━━━━━━━━━━━━


「……会えってこと?」


 高瀬が呟く。


「接触」


 真壁。


「物理的とは限らない」


「どういうこと」


「Review上での接触」


「記憶」


「記録」


「直接会う」


「どれか分からない」


「確かに」


 藤原が。


 ノートへ。


『接触=未定義』


 と書く。


「でも」


 高瀬。


「少なくとも」


「No.001は」


「今どこかにいる」


 藤原が。


 すぐ返す。


「SYSTEMは『存在しています』って言っただけです」


「……」


「人として」


「いるとは限らない」


「……」


 高瀬が。


 少し嫌そうな顔をする。


「その言い方」


「怖い?」


「うん」


「私も」


「……」


 三人。


 また星を見る。


 金色。


 小さい。


 普通なら。


 可愛いだけのキーホルダー。


 今は。


 少し。


 怖い。


◇


「返すかどうか」


 真壁が言う。


「まだ決めない」


「賛成」


 藤原。


「……」


「高瀬先生」


「分かった」


「不満?」


「ちょっと」


「何で」


「進まないから」


「高瀬先生」


 真壁が。


 少し声を落とす。


「進むことと」


「うん」


「急ぐことは違う」


「……」


「それ」


 高瀬が。


 真壁を見る。


「お前が言うと腹立つな」


「何で」


「正論だから」


「それもう褒め言葉じゃないですよね」


「半分」


「また」


 藤原が笑う。


 高瀬も。


 少し笑う。


 空気が。


 少し軽くなった。


◇


「じゃあ」


 藤原が。


 星形キーホルダーを。


 透明な袋へ入れる。


「保管」


「どこ」


「私の家」


 高瀬。


「何で藤原?」


「高瀬先生の家だと」


「うん」


「絶対触る」


「触らない」


「触る」


「……」


「真壁先生は」


「俺でもいい」


「でも」


 藤原が。


 真壁を見る。


「今No.004関連で」


「……」


「何か起きてる可能性あるので」


「それは本人にまだ言ってないでしょ」


 高瀬。


「……あ」


「藤原」


「すみません」


 真壁が。


 眉を寄せる。


「No.004?」


「……」


 三人。


 一瞬。


 固まる。


「何」


 真壁。


「今」


「何て」


「いや」


 藤原。


「言い間違い」


「何の?」


「……」


 真壁が。


 高瀬を見る。


「知ってます?」


「……」


 高瀬は。


 迷った。


 13話。


 14話。


 SYSTEMが。


 真壁を。


 No.004として。


 分類していた。


 でも。


 本人には。


 まだ。


 何も言っていない。


「高瀬先生」


 真壁の声。


「言いたくないなら」


「……」


「聞かない」


 高瀬の胸が。


 少し痛む。


 何度。


 この人は。


 こちらの境界を守ってくれた?


「……いや」


 高瀬が。


 ゆっくり言う。


「話す」


 藤原が。


 少し驚く。


「今?」


「ああ」


「でも」


「本人のことなら」


「本人に話すべきだろ」


 真壁が。


 少しだけ。


 表情を変えた。


「俺のこと?」


「たぶん」


「たぶん?」


「SYSTEMが」


「うん」


「お前を」


 一度。


 言葉を止める。


「No.004って表示した」


 真壁は。


 動かなかった。


「……」


「真壁」


「いつ」


「昨日」


「何で今まで言わなかった」


「確定じゃなかったから」


「……」


「お前=No.004とは」


「まだ」


「決まってない」


「……」


 真壁は。


 机を見る。


 星。


 ノート。


 自分のスマートフォン。


「No.004」


 小さく。


 口にする。


「……四」


「うん」


「昨日」


 真壁の顔が。


 少し変わる。


「何か」


「思い出した?」


「違う」


「……」


「番号」


 額へ手を当てる。


「四」


「見た気がする」


 藤原と。


 高瀬。


 目が合う。


「紙から消えた時」


 藤原。


「うん」


「真壁先生」


「四って」


「言ってた」


「……」


「じゃあ」


 真壁が。


 ゆっくり顔を上げる。


「俺」


「一回」


「見てる?」


「たぶん」


「……」


「でも」


「忘れた」


 高瀬が。


 すぐに言う。


「だから」


「ノート」


「残す」


「うん」


 藤原が。


 書く。


『真壁透=No.004?』


『本人、番号「4」に既視感』


「……」


 真壁が。


 その文字を。


 しばらく見る。


「嫌だな」


「何が」


 高瀬。


「番号で呼ばれるの」


「……」


「俺」


「真壁透なのに」


 声が。


 少しだけ。


 低い。


「004って」


「何なんだろ」


 高瀬は。


 すぐには答えられなかった。


 その気持ちは。


 分かる。


 人を。


 番号にする。


 評価にする。


 星にする。


 この世界は。


 何でも。


 数字へ変えたがる。


「真壁」


「何」


「今は」


「うん」


「真壁でいいだろ」


「……」


「004とか」


「知らん」


「……」


「お前は真壁」


「俺は高瀬」


「藤原は藤原」


「それでいい」


 真壁が。


 少しだけ。


 笑った。


「雑」


「でも」


 藤原も。


 少し笑う。


「今はそれでいいと思います」


「……」


「二対一」


 高瀬。


「民主主義」


 真壁。


「それ前もやった」


 三人。


 ほんの少し。


 笑った。


◇


 夕方。


 星形キーホルダーは。


 藤原が保管することになった。


「絶対触らない?」


 高瀬。


「高瀬先生じゃないので」


「俺そんな信用ない?」


「ない」


「真壁まで」


「今までの実績」


「ぐう」


 藤原が。


 袋を鞄へ入れる。


「明日」


「学校で」


「また確認しましょう」


「了解」


「高瀬先生」


「何」


「今日は本当に休む」


「はい」


「調べない」


「……」


「高瀬先生」


「はい」


「Review開かない」


「それは」


「ダメ」


「……はい」


 真壁が。


 少し笑う。


「完全に生徒」


「最近俺の立場弱くない?」


「自業自得」


「はいはい」


 三人。


 別れる。


◇


 午後九時四十六分。


 藤原の自宅。


 鞄を。


 机の上へ置く。


「……」


 星。


 透明な袋。


 ちゃんと。


 入っている。


「触らない」


 自分へ言う。


 鞄を閉じる。


 シャワー。


 夕食。


 テレビ。


 普通の夜。


 それでも。


 何度も。


 鞄を見てしまう。


「……高瀬先生みたい」


 少し笑う。


 その時。


 スマートフォンが。


 震えた。


 藤原の。


 自分の端末。


「……?」


 Review。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「私?」


 最近。


 自分にも。


 評価が届くようになっている。


 続き。


━━━━━━━━━━━━


返却判断


保留。


━━━━━━━━━━━━


「……」


 星のこと。


「見てる」


 藤原が。


 鞄を見る。


 次。


━━━━━━━━━━━━


判断を評価します。


━━━━━━━━━━━━


 その下。


━━━━━━━━━━━━


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「……」


 藤原は。


 眉を寄せた。


「褒められても」


 少し。


 嫌な感じがした。


 真壁が。


 言っていた。


『正しいって言われるの、苦手になった』


「……分かるかも」


 藤原は。


 画面を閉じた。


 その瞬間。


 鞄の中から。


 カチ。


 小さな音。


「……?」


 藤原の身体が。


 止まる。


 鞄を見る。


「今……」


 聞こえた。


 確かに。


 星。


 何か。


 音がした。


 触らない。


 高瀬とも。


 真壁とも。


 そう決めた。


「……」


 でも。


 もし。


 壊れた?


 消えた?


 何か起きた?


「……見るだけ」


 鞄へ近付く。


 ゆっくり。


 開く。


 透明な袋。


 星は。


 ある。


「……」


 何も。


 変わっていない。


 そう思った。


 でも。


 袋の下。


 一枚の紙。


「……?」


 入れた覚えがない。


 小さく折り畳まれている。


 藤原は。


 手を止めた。


「触らない……」


 でも。


 紙。


 SYSTEM?


 Review?


 違う。


 ただの紙。


「……」


 藤原は。


 スマートフォンで。


 まず写真を撮った。


「学習した」


 小さく呟く。


 それから。


 紙を。


 そっと取り出す。


 開く。


「……」


 手書き。


 短い文章。


 たった。


 二行。


『返さないで。』


 藤原の呼吸が。


 止まる。


 その下。


『あれを返したら、


また最初からになる。』


「……最初から?」


 文字。


 人間の手書き。


 Reviewでも。


 SYSTEMでもない。


 そして。


 紙の一番下。


 小さく。


 名前が。


 書かれていた。


『001』


「……No.001」


 藤原は。


 初めて。


 SYSTEMでも。


 Reviewでもない。


 No.001自身の。


 言葉かもしれないものを。


 手にしていた。

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