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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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13/117

Review13 固定

 午前九時四十一分。


「……二十三枚」


 高瀬は病室のベッドで、スマートフォンの写真フォルダを眺めていた。


「暇だな、俺」


 昨夜から撮ったスクリーンショット。


 二十三枚。


 高瀬。


 ★★★☆☆。


 ★★★★☆。


 ★★☆☆☆。


 また★★★★☆。


 藤原。


 ★★★★★。


 ★★★★☆。


 ★★★☆☆。


 そして。


 真壁。


 ★★★★★。


 ★★★★★。


 ★★★★★。


 二十三枚。


 一度も。


 変わっていない。


「……気味悪いな」


 星が五つある。


 普通なら。


 良い評価だ。


 少なくとも。


 高瀬は最初。


 ★★★★★をもらうと。


 少し嬉しかった。


 自分の選択は正しかった。


 そう言われたような気がして。


 でも。


 二十三枚並んだ★★★★★は。


 なぜか。


 褒め言葉には見えなかった。


 判子。


 そんな言葉が。


 一番近かった。


「……真壁」


 高瀬は。


 連絡しようとして。


 やめた。


 授業中かもしれない。


 スマートフォンを伏せる。


 五秒。


 もう一度取る。


「いや、でも気になる」


 メッセージを開く。


『今、星どう?』


 打つ。


 送ろうとして。


「……何だこのLINE」


 消す。


『生きてる?』


「俺が言うな」


 消す。


『暇』


「知らんがなだろ」


 消す。


 悩んで。


 結局。


『落ち着いたら連絡して』


 送った。


「……無難」


 教師らしい。


 そう思って。


 少しだけ満足した。


 十秒後。


 返信。


『今授業中です』


「……」


 高瀬は。


 スマートフォンを見つめた。


『じゃあ返信すんなよ』


 送る。


 すぐ既読。


『通知がうるさかったので』


「一通だろ!」


 病室で。


 一人。


 声が出た。


 隣のベッドから。


 カーテン越しに咳払い。


「……すみません」


 小声で謝った。


◇


 学校。


 四時間目。


「じゃあ、この問い」


 真壁は黒板へ向いた。


「分かる人」


 三人ほど手が挙がる。


「じゃあ吉川」


「えー」


「手挙げたでしょ」


「当てられると思わなかった」


「何のために挙げたの」


「参加してますアピール」


「正直でよろしい」


 教室に。


 小さな笑いが起きる。


「で、答えは」


「えーっと……」


 生徒が教科書を見る。


 真壁は待つ。


「三?」


「何が三?」


「答え」


「問題読んで」


「……」


「今から考えていいから」


「怒らない?」


「間違えただけでは怒らない」


「じゃあ四」


「考えてないでしょ」


 また笑い。


 真壁も。


 少しだけ口元を緩めた。


 授業。


 いつも通り。


 生徒も。


 いつも通り。


 なのに。


 机の上。


 伏せたスマートフォンだけが。


 どうしても気になった。


 ★★★★★。


 朝から。


 変わっていない。


「先生」


「ん?」


「今スマホ見た?」


「見てない」


「絶対見た」


「授業中に先生が見るわけないでしょ」


「目だけ動いた」


「よく見てるな」


「先生こそ人のことよく見てるじゃん」


「仕事だから」


「じゃあ俺も仕事」


「何の」


「真壁先生観察係」


「そんな係ありません」


 笑い声。


 真壁は。


 次の問題へ進もうとした。


 その時。


「先生」


 さっきの生徒が。


 小さく言った。


「最近ちょっと変ですよね」


「俺?」


「うん」


「どこが」


「なんか」


 考える。


「気にしてる」


「何を」


「それが分かんない」


 真壁は。


 返事をしなかった。


 生徒が。


 少しだけ首を傾げる。


「先生って」


「ん?」


「何でも気にしなさそうなのに」


「それ褒めてる?」


「半分」


「残り半分」


「怖い」


「……」


「嘘」


「おい」


 生徒が笑う。


 真壁も。


 少しだけ笑った。


「ほら、授業戻るぞ」


「はーい」


 チョークを持つ。


 黒板へ向き直る。


 でも。


 さっきの言葉が。


 ほんの少し。


 残った。


『気にしてる』


「……」


 気にしている。


 確かに。


 今。


 自分は。


 たかが五つの星を。


 気にしている。


◇


 昼休み。


「真壁先生」


 藤原が。


 職員室の入口から顔を出した。


「何ですか」


「ちょっといいですか」


「三分なら」


「高瀬先生みたいなこと言わないでください」


「嫌な比較」


「失礼」


 二人で。


 職員室の隅へ移動する。


「Review」


「変わってません」


「まだ?」


「まだ」


 真壁がスマートフォンを見せる。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「……」


 藤原は。


 数秒見つめた。


「やっぱり」


「はい」


「ずっと五つ」


「はい」


「何しても?」


「今のところ」


「朝、何しました?」


「仕事」


「それだけ?」


「藤原先生」


「はい」


「俺の日常に何を期待してるんですか」


「もっとあるでしょ」


「朝食」


「何食べました?」


「ヨーグルト」


「健康」


「あとコーヒー」


「昨日の?」


「違うやつ」


「そこ大事です」


「分かってます」


「学校来て」


「仕事」


「生徒と話して」


「仕事」


「昼ご飯は」


「これから」


「……」


 藤原が。


 少し困ったように笑う。


「本当に真壁先生の日常、仕事しかない」


「悪かったですね」


「悪いとは言ってないです」


「言ってる顔」


「そんな顔してます?」


「高瀬先生なら絶対言う」


「似てきました?」


「やめてください」


「こっちの台詞です」


 少し笑う。


 そして。


 藤原が真顔に戻った。


「一個」


「はい」


「試してみません?」


「何を」


「評価」


「……」


「意図的に」


 真壁の表情が。


 少し変わる。


「下げる?」


「そう」


「……」


「嫌?」


 真壁は。


 スマートフォンを見る。


 ★★★★★。


「……嫌じゃない」


 藤原が。


 少し驚く。


「むしろ」


「はい」


「下がってほしい」


「……」


「変ですか」


「少し」


「でしょうね」


「でも」


 藤原は。


 真壁を見る。


「何となく分かります」


「何が」


「ずっと五つって」


 少し考える。


「褒められてる感じしない」


「……」


「最初から」


 言葉を選ぶ。


「決められてる感じ」


 真壁の目が。


 少しだけ動いた。


「それ」


「はい」


「俺も思ってた」


「……そっか」


「だから」


 真壁は。


 画面を閉じる。


「試しましょう」


「でも」


「何」


「悪いことするのはなし」


「分かってます」


「生徒に冷たくするとか」


「しない」


「仕事サボるとか」


「嫌」


「そこ即答なんですね」


「自分が困る」


「真壁先生らしい」


「じゃあ何するんですか」


「……」


 二人。


 考える。


「嘘」


 藤原が言った。


「嘘?」


「Reviewって」


「はい」


「高瀬先生が本心隠した時に、評価変わってましたよね」


「……」


「じゃあ」


「俺も嘘つく」


「小さいやつ」


「誰に?」


「……私?」


「何を」


「そこから考えるの?」


「適当に嘘つけって無理ですよ」


「融通利かないなあ」


「褒め言葉?」


「半分」


「最近それ流行ってます?」


「高瀬先生のせいです」


「……」


「何ですか」


「いないのに話題に出る」


「寂しい?」


「違います」


「早い」


 藤原が笑った。


 真壁は。


 ため息。


「じゃあ」


 藤原が。


 少し考える。


「今から私が質問します」


「はい」


「嘘で答える」


「内容は」


「知らない」


「雑」


「いきます」


「もう?」


 藤原は。


 真壁を見る。


「今」


 一瞬。


 間を置いた。


「怖いですか?」


 真壁の顔が。


 止まった。


「……」


「真壁先生」


「質問変えません?」


「ダメ」


「何でそこ」


「今思い付いたから」


「雑すぎる」


「嘘で答えてください」


「……」


 真壁は。


 少し目を逸らした。


「怖くない」


 ポケット。


 スマートフォンが。


 震えた。


 二人。


 同時に見る。


「……来た」


「開いて」


 真壁が。


 画面を開く。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「……」


「変わらない」


「はい」


「じゃあ」


「待って」


「何」


 真壁は。


 画面を見つめる。


「今」


「はい」


「俺」


 自分の言葉を。


 確認するように。


「嘘ついた」


「……」


「怖いんですか?」


 藤原の声が。


 さっきより。


 少し柔らかくなる。


 真壁は。


 すぐには答えなかった。


「……分からない」


「分からない?」


「怖い」


「はい」


「でも」


「はい」


「何が怖いか」


 自分の胸元に。


 手を当てる。


「よく分からない」


「……」


「星なのか」


「Reviewなのか」


「自分なのか」


「……」


 真壁は。


 少し笑った。


「気持ち悪いですね」


「それ」


「何」


「高瀬先生が聞いたら」


 藤原も。


 少し笑う。


「めっちゃ人間らしいって言いますよ」


「嫌だな」


「何で」


「絶対ニヤニヤするから」


「しますね」


「でしょ」


 二人。


 ほんの少しだけ。


 笑った。


◇


「次」


 真壁が言う。


「まだやるんですか?」


「せっかくなので」


「急に研究者」


「藤原先生」


「はい」


「俺を怒らせて」


「……」


「何その顔」


「無茶言わないでください」


「怒ったら評価変わるかもしれない」


「怒らせるって」


「適当に」


「……」


 藤原が。


 考える。


「高瀬先生」


「はい」


「実は」


 一度。


 真壁を見る。


「今日退院するらしいです」


「え?」


「さっき連絡きました」


「本当に?」


「はい」


「俺には来てない」


「私だけです」


「……」


 真壁の眉が。


 少し寄る。


「何で?」


「さあ」


「俺にも連絡するって」


「忘れたんじゃないですか」


「……」


「高瀬先生ですし」


「……」


「真壁先生?」


「……ちょっとムカつく」


「お」


「でも」


「はい」


「高瀬先生ならあり得る」


「怒り弱い」


「何ですかこれ」


「私もやってて意味分からなくなってきました」


 二人で。


 吹き出す。


「もういいでしょ」


「そうですね」


「仕事戻ります」


「はい」


「じゃ」


 真壁が。


 歩き出す。


「真壁先生」


「何?」


「今の」


「はい」


「嘘です」


「……」


 真壁の足が。


 止まった。


「退院」


「はい」


「嘘?」


「はい」


「……」


「……」


「藤原先生」


「はい」


「今の実験で」


「はい」


「一番腹立った」


「すみません!」


「そういう嘘やめて」


「ごめんなさい!」


「高瀬先生の生死を実験に使わない」


「本当にごめんなさい」


「……」


「真壁先生」


「何」


「怒ってます?」


「少し」


「よかった」


「良くない」


 スマートフォンが。


 震えた。


 二人。


 止まる。


「……」


 真壁が。


 開く。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「……」


 怒った。


 嘘をついた。


 それでも。


 五つ。


「……変わらない」


 藤原が呟く。


「はい」


「何で」


「俺が聞きたい」


 そして。


 真壁は。


 初めて。


 画面へ向かって言った。


「おい」


「真壁先生?」


「何したら下がる?」


 藤原が。


 止めなかった。


「何を見てる?」


 真壁の声が。


 少し強くなる。


「俺の何を」


「★★★★★って言ってる?」


 画面は。


 何も返さない。


「答えろよ」


 数秒。


 文字。


━━━━━━━━━━━━


評価変更条件を


満たしていません。


━━━━━━━━━━━━


「条件?」


 藤原。


 真壁は。


 すぐに聞く。


「変更条件は?」


 画面。


━━━━━━━━━━━━


存在しません。


━━━━━━━━━━━━


「……」


 真壁の指が。


 止まった。


「存在しない?」


 藤原が。


 小さく言う。


 次。


━━━━━━━━━━━━


対象 真壁透


評価値


固定


━━━━━━━━━━━━


「……固定」


 真壁の顔から。


 笑みが消えた。


◇


 午後一時十三分。


 病院。


 高瀬は。


 昼食の蓋を開けていた。


「病院食って」


 一口。


「健康の味するな……」


 薄い。


 でも。


 文句を言えるくらい。


 元気だった。


「退院したらラーメン食いてえ」


 その時。


 スマートフォンが。


 震えた。


 真壁から。


『話せます?』


「珍しい」


『暇』


 返す。


 すぐ着信。


「もしもし」


『高瀬先生』


「何」


『俺』


「うん」


『★★★★★から』


「うん」


『変わらないらしいです』


「……」


『変わらないじゃなくて』


「うん」


『変えられない』


 高瀬の箸が。


 止まる。


「どういうこと」


『固定って出ました』


「……」


『俺の評価』


「うん」


『固定されてる』


 声。


 いつもの真壁より。


 少し低い。


「真壁」


『何』


「今どこ」


『学校』


「藤原いる?」


『います』


「そっか」


『……』


「一人じゃない?」


 数秒。


『はい』


「なら」


 高瀬は。


 少しだけ息を吐く。


「今日はそれでいい」


『……』


「分からないもの」


「すぐ全部分かろうとしなくていい」


『高瀬先生が言います?』


「俺も今思った」


『説得力ない』


「知ってる」


 電話の向こう。


 ほんの少し。


 真壁が笑った気がした。


『でも』


「うん」


『高瀬先生』


「何」


『もし』


 一度。


 止まる。


『人間に点数が付くとして』


「……」


『何しても』


「うん」


『同じ点数だったら』


「……」


『その人が何をするかって』


 声が。


 少しだけ揺れる。


『意味あるんですかね』


「……」


 高瀬は。


 すぐには答えられなかった。


 真壁が。


 こんなことを聞くのは。


 初めてだった。


『すみません』


「何で謝る」


『変なこと聞いた』


「変じゃない」


『……』


「真壁」


『はい』


「俺」


 一度。


 考える。


「★★★★★もらった日」


『はい』


「嬉しかったことある」


『……』


「逆に」


「星低くて」


「ちょっと落ち込んだこともある」


『はい』


「でも」


 高瀬は。


 窓の外を見る。


「結局」


「星とは関係なく」


「嬉しかったことも」


「後悔したことも」


「あるんだよ」


『……』


「だから」


「お前が何しても★★★★★なら」


『はい』


「もう」


 少し笑う。


「星無視すれば?」


 電話の向こう。


 沈黙。


『……雑』


「だろ?」


『結構悩んで聞いたんですけど』


「俺も真面目に答えた」


『嘘』


「本当」


『でも』


「うん」


『……少し』


「何」


『楽になった』


「……」


 高瀬は。


 少しだけ笑った。


「そっか」


『はい』


「なら★★★★★」


『やめて』


「何で!」


『今一番聞きたくない』


「ごめん」


『また』


「癖」


『直してください』


「努力します」


 通話が切れる。


 高瀬は。


 スマートフォンを置いた。


「……固定か」


 そして。


 自分が言った言葉を。


 もう一度。


 小さく口にした。


「星、無視すればいい」


 簡単だ。


 でも。


 それは。


 もしかすると。


 この世界にとって。


 簡単ではないのかもしれない。


◇


 午後二時二十六分。


 真壁は。


 授業へ向かう前。


 一人。


 手洗い場にいた。


 顔を洗う。


「……」


 鏡を見る。


 自分。


 いつもと。


 何も変わらない。


「星無視しろ、か」


 少し笑う。


「高瀬先生らしい」


 スマートフォンを。


 ポケットへ戻そうとした。


 その時。


 通知。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「……」


 真壁は。


 数秒。


 それを見る。


 そして。


 初めて。


 通知を。


 スワイプした。


「……知らない」


 消す。


 画面を閉じる。


 授業へ向かう。


 一歩。


 二歩。


 ポケットの中。


 スマートフォンが震える。


 無視。


 また。


 震える。


 無視。


 廊下。


 生徒が声を掛ける。


「真壁先生、お疲れー」


「お疲れ」


「今日機嫌いい?」


「普通」


「絶対いい」


「授業行って」


「はーい」


 生徒が走り出す。


「走らない」


「早歩き!」


「それ禁止にしようかな」


 生徒が笑う。


 真壁も。


 少し笑う。


 スマートフォン。


 また震える。


「……」


 今度も。


 見なかった。


 その瞬間。


 震えが。


 止まった。


「……?」


 数秒。


 何もない。


 真壁は。


 少しだけ。


 安心した。


 そして。


 教室へ向かった。


◇


 誰もいなくなった。


 職員室。


 真壁の机。


 パソコンの画面が。


 静かに。


 点灯した。


━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


対象 真壁透


評価応答


拒否


━━━━━━━━━━━━


 次。


━━━━━━━━━━━━


固定対象による


評価拒否を確認。


━━━━━━━━━━━━


 数秒。


 新しい文字。


━━━━━━━━━━━━


想定外行動


━━━━━━━━━━━━


 そして。


━━━━━━━━━━━━


再分類を開始します。


━━━━━━━━━━━━


 数字が。


 表示された。


━━━━━━━━━━━━


対象分類


No.004


━━━━━━━━━━━━


 数秒後。


 その画面は。


 何事もなかったように。


 元へ戻った。

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