Review12 同じ星
真壁は。
病院の売店の前で。
しばらく動けなかった。
━━━━━━━━━━━━
Review
あなたへの新しい評価があります。
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「……」
見間違い。
そう思った。
画面を消す。
もう一度点ける。
通知は。
消えていない。
「……高瀬先生のやつ?」
小さく呟く。
でも。
高瀬のスマートフォンではない。
自分の端末。
自分の通知。
「何で……」
指を近付ける。
止めた。
高瀬は。
これを押した。
そこから。
全てが始まった。
なら。
「……押さない方が」
いい。
そう思った。
でも。
通知の下。
新しい文字が浮かんだ。
━━━━━━━━━━━━
未確認
残り
00:59
━━━━━━━━━━━━
「……は?」
数字が。
減っている。
00:58。
00:57。
「時間制限?」
真壁の眉が寄る。
「意味分かんないだろ」
00:54。
押さなければ。
何が起きる?
高瀬なら。
押す。
いや。
高瀬だから押す。
あの人は。
こういう時。
考える前に踏み込む。
「……」
真壁は。
少しだけ笑った。
「俺まで似る必要ないだろ」
00:47。
それでも。
画面から目を離せない。
「お客様?」
店員の声。
「あ」
「お会計、こちらで大丈夫ですか?」
「はい」
真壁は。
急いでスマートフォンをポケットへ入れた。
ノート。
ペン。
水。
会計を済ませる。
レシートを受け取る。
「ありがとうございました」
「ありがとうございます」
店を出る。
すぐに。
スマートフォンを取り出す。
残り。
00:21。
「……」
真壁は。
立ち止まった。
病院の廊下。
人が行き交う。
看護師。
患者。
家族。
普通の朝。
自分だけ。
変なカウントダウンを見ている。
「……馬鹿らしい」
00:15。
「押さない」
00:12。
「知らない」
00:09。
「……」
00:06。
「……っ」
00:04。
真壁は。
画面をタップした。
━━━━━━━━━━━━
【Review】
★★★★★
━━━━━━━━━━━━
「……」
五つ。
「……何これ」
高瀬の画面で。
何度も見た。
星。
でも。
自分のスマートフォンに表示されると。
急に。
現実味が増した。
続き。
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初回評価
完了。
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「初回?」
さらに。
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対象
真壁透
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「……本当に俺だ」
画面を閉じようとする。
できない。
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本日の評価
★★★★★
━━━━━━━━━━━━
同じ。
さっきと。
変わらない。
「だから何を評価したんだよ」
返事はない。
「俺、朝から病院来ただけだけど」
無反応。
「高瀬先生の見張り?」
無反応。
「コーヒー?」
無反応。
「……」
真壁は。
少し苛立った。
「評価基準くらい出せよ」
数秒。
文字。
━━━━━━━━━━━━
評価基準は
既に満たされています。
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「……既に?」
真壁の眉が寄る。
「何を?」
新しい文字。
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あなたは、
正しい選択をしました。
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「……」
その言葉が。
妙に。
嫌だった。
「正しいって」
誰が決めた。
何を見て。
どう判断した。
「……気持ち悪い」
真壁は。
スマートフォンを閉じた。
今度は。
普通に消えた。
◇
「遅い」
病室へ戻ると。
高瀬が最初に言った。
「七分」
「数えてたんですか」
「暇だから」
「病人は寝てください」
「藤原にも言われた」
「でしょうね」
真壁は。
売店の袋を机へ置いた。
「ノート」
「お」
「ペン」
「ありがと」
「水」
「完璧」
「あと」
「何?」
真壁は。
一瞬。
迷った。
藤原も。
真壁の顔を見る。
「……何かあった?」
「何で」
「顔」
「また顔?」
高瀬が笑う。
「仲間だな」
「嬉しくないです」
「で?」
藤原が。
少し身を乗り出す。
「何があったんですか?」
真壁は。
自分のスマートフォンを取り出した。
画面を開く。
通知履歴。
「これ」
二人。
見る。
「……」
高瀬の表情が。
固まった。
「真壁」
「はい」
「これ」
「はい」
「お前の?」
「俺の」
「マジで?」
「マジです」
藤原も。
画面を見る。
「Review……」
「はい」
「いつ?」
「売店出たあと」
「押した?」
高瀬。
「押しました」
「何で」
「時間制限出たから」
「時間制限?」
「一分」
「それで押した?」
「押さないと何起きるか分からなかったので」
「……真壁」
「何」
「お前も割と踏み込むタイプじゃん」
「高瀬先生と一緒にしないでください」
「いや今のは結構」
「俺は考えました」
「俺も考えてる」
「考える前に走るでしょ」
「ぐっ」
藤原が。
思わず笑う。
「そこは真壁先生の勝ちですね」
「藤原まで」
「事実です」
少しだけ。
空気が和らぐ。
でも。
高瀬は。
すぐに真壁の画面へ視線を戻した。
「で」
「★★★★★でした」
「五つ?」
「はい」
「文章は?」
「『正しい選択をしました』」
「……」
高瀬が。
黙った。
藤原が気付く。
「何ですか?」
「いや」
「高瀬先生」
「……同じなんだよ」
「何が?」
「最初」
高瀬は。
自分のスマートフォンを見る。
「俺も」
Review。
星。
評価。
「正しいって」
「言われた」
真壁が。
眉を寄せる。
「じゃあ俺も同じ?」
「分からない」
「……」
「ただ」
高瀬は。
真壁を見る。
「一個違う」
「何?」
「俺は」
一度。
言葉を止める。
「そのあと星が下がった」
「……」
「★★★★」
「★★★」
「★★」
「……」
「行動で」
「変わった」
真壁は。
自分の画面を見る。
「じゃあ」
「うん」
「俺も変わる?」
「たぶん」
「たぶん?」
「俺にも分からん」
「……」
真壁は。
少しだけ考え込んだ。
◇
「よし」
高瀬が言った。
「記録しよう」
「今?」
「今」
「さっき俺が言ったやつ」
「そう」
「採用早いですね」
「いい案はすぐ使う」
「締切もそうして」
「今それ言う?」
真壁が。
ノートを開く。
藤原がペンを持つ。
「誰が書きます?」
「藤原」
高瀬。
「何で私?」
「字きれいそう」
「偏見」
「真壁?」
「俺は」
少し考える。
「高瀬先生よりはマシ」
「比較対象俺?」
「じゃあ藤原先生で」
「決定早」
藤原が。
ページの一番上へ。
日付を書く。
『記録①』
「名前ダサくないですか」
真壁。
「じゃあ考えて」
「記録帳」
「同じ」
「外部記録」
「固い」
「じゃあ高瀬先生」
「……生存ノート」
「ダサい」
二人同時。
「即答!?」
「じゃあ記録①でいいです」
「戻った!」
藤原が。
少し笑いながら書く。
『高瀬』
『藤原美咲』
『真壁透』
そして。
『Review』
『SYSTEM』
『桐谷――』
「待って」
高瀬。
藤原の手が止まる。
「……名前書く?」
真壁を見る。
真壁の表情が。
少し硬くなる。
「俺」
「うん」
「また忘れる?」
「分からない」
「……」
「でも」
高瀬は。
ゆっくり言った。
「だから書くんじゃない?」
真壁は。
しばらく黙っていた。
「……書いてください」
藤原が。
続きを書く。
『桐谷』
「……」
真壁は。
その文字を見つめる。
「変?」
藤原。
「……いや」
真壁の指が。
ほんの少し。
震えた。
「知ってる気がする」
「……」
「でも」
「思い出せない」
高瀬が。
真壁を見る。
「焦らなくていい」
「高瀬先生が言います?」
「言う」
「一番焦る人なのに」
「成長中」
「自己申告」
「いいだろ」
真壁が。
少しだけ笑った。
◇
「次」
藤原が言う。
「Reviewについて」
「うん」
「高瀬先生」
「はい」
「今まで星、どう変わりました?」
「えっと」
思い出す。
★★★★★。
★★★。
★★。
★★★★。
「結構変わってる」
「真壁先生は?」
「★★★★★だけ」
「じゃあ」
藤原が書く。
『真壁 ★★★★★』
「今後」
「うん」
「変動したら追記」
「いいね」
真壁が。
少しだけ眉を寄せる。
「……」
「何?」
高瀬。
「いや」
「気になる?」
「少し」
「星」
「まあ」
「意外」
「俺だって」
真壁が高瀬を見る。
「評価されたら気になる」
「そりゃそうか」
「ただ」
「うん」
「何を評価してるか分からないのが嫌」
「それは分かる」
「評価基準も」
「うん」
「基準満たしてるってだけ言われた」
「……」
高瀬の表情が変わる。
「基準?」
「はい」
「何て?」
「『既に満たされています』」
「……既に」
藤原も。
ペンを止める。
「高瀬先生」
「うん」
「それ、今まで出た?」
「ない」
「じゃあ」
藤原が。
書き足す。
『真壁:評価基準を既に満たしている』
「……嫌な書き方」
真壁。
「事実です」
「そうだけど」
高瀬が。
少し考える。
「お前」
「何」
「何した?」
「朝?」
「それ以前」
「……」
「Reviewが」
「既にって言うくらいだから」
「高瀬先生」
「うん」
「俺の人生全部説明しろって?」
「……」
「無理です」
「だよな」
「それに」
真壁が。
少し声を落とす。
「正しい選択って」
「うん」
「誰にとって?」
高瀬が。
顔を上げる。
「……」
「俺」
真壁は。
スマートフォンを机へ置く。
「正しいって言われて」
「うん」
「全然嬉しくなかった」
「……」
「むしろ」
「気持ち悪かった」
藤原が。
真壁を見る。
「何で?」
「決めつけられた感じがしたから」
「……」
「正しいかどうか」
真壁が続ける。
「自分で決めたい」
高瀬は。
その言葉を聞いて。
少しだけ笑った。
「何」
「いや」
「何ですか」
「お前」
「はい」
「思ったより」
真壁が。
嫌そうな顔をする。
「また褒める気?」
「やめとく」
「それでいいです」
「何で!」
藤原が。
また笑った。
◇
午前八時十三分。
検査結果。
大きな異常なし。
ただし。
原因不明の意識障害。
経過観察。
医師からは。
最低でも今日一日は入院を勧められた。
「学校」
「休んでください」
藤原。
「でも」
「休む」
真壁。
「二対一」
「卑怯」
「多数決」
「民主主義」
「俺の仕事なのに」
「高瀬先生」
真壁が。
淡々と言う。
「昨日死ぬ予定だった人が」
「うん」
「今日出勤したら」
「うん」
「俺でも怒ります」
「……」
「真壁でも?」
「『俺でも』って何ですか」
「いや」
「休んで」
「はい」
高瀬は。
諦めた。
「じゃあ」
「うん」
「今日の授業」
「代わります」
真壁。
「え?」
「空いてるところ調整する」
「でも」
「俺に頼る練習」
「……」
「昨日からテーマでしょ」
高瀬が。
思わず笑った。
「お前、聞いてた?」
「何を」
「いや」
「……」
「ありがと」
「はい」
「今のは受け取るんだ」
「仕事なので」
「照れるなよ」
「照れてない」
「分かりやすいですよ」
藤原。
「藤原先生まで!」
「最近みんな俺の顔見るなって言ってたの誰でしたっけ」
「高瀬先生」
「……」
「似てきましたね」
「やめてください」
三人。
笑った。
本当に。
少しずつ。
三人になっていた。
◇
午前九時二分。
真壁と藤原は。
学校へ戻ることになった。
「何かあったら」
藤原。
「連絡」
「分かった」
「Review来たら」
「スクショ」
真壁。
「了解」
「記録」
「する」
「勝手に出歩かない」
「はい」
「スマホ触りすぎない」
「はい」
「ちゃんと寝る」
「お母さん?」
「病人の扱いです」
「……」
高瀬は。
二人を見る。
「なあ」
「何ですか」
「昨日」
少しだけ。
言葉を選ぶ。
「本当にありがとな」
藤原が。
少し困った顔をする。
真壁は。
目を逸らす。
「高瀬先生」
「うん」
「それ」
真壁が言う。
「退院してから言って」
「藤原と同じこと言うな」
「被った」
「そこまた気にする?」
「何となく」
藤原が笑う。
「じゃあ」
病室の扉。
「行ってきます」
「おう」
「ちゃんといてくださいね」
「患者逃亡みたいに言うな」
「前科ありそうだから」
「ない!」
二人が出ていく。
扉が閉まる。
「……」
急に。
静かになった。
高瀬は。
さっきまで三人で書いていたノートを見る。
『高瀬』
『藤原美咲』
『真壁透』
『桐谷』
文字。
紙。
消えない。
「……外に残す」
真壁の案。
正しかった。
スマホなら。
消されるかもしれない。
記憶も。
消える。
なら。
「紙なら……」
高瀬が。
呟く。
その時。
スマートフォンが震えた。
「……」
約束通り。
スクリーンショット。
そう思って。
スマホを開く。
Review。
━━━━━━━━━━━━
【Review】
高瀬
★★★★☆
━━━━━━━━━━━━
「四つ」
続き。
━━━━━━━━━━━━
藤原美咲
★★★★★
━━━━━━━━━━━━
「藤原も」
そして。
━━━━━━━━━━━━
真壁透
★★★★★
━━━━━━━━━━━━
「……」
三人。
評価。
でも。
高瀬だけ四つ。
「何で俺だけ」
少し。
ムッとする。
「いや」
自分で。
すぐ笑った。
「何気にしてんだ」
スクリーンショットを撮る。
保存。
ノートにも。
書こうとする。
その時。
画面が更新された。
━━━━━━━━━━━━
藤原美咲
★★★★☆
━━━━━━━━━━━━
「……下がった?」
★★★★★から。
★★★★☆。
さらに。
━━━━━━━━━━━━
高瀬
★★★☆☆
━━━━━━━━━━━━
「俺も?」
変動。
リアルタイム。
そして。
真壁。
━━━━━━━━━━━━
真壁透
★★★★★
━━━━━━━━━━━━
「……」
変わらない。
数秒。
待つ。
藤原。
★★★☆☆。
高瀬。
★★★★☆。
また変わる。
真壁。
★★★★★。
「……」
何度。
画面が変わっても。
真壁だけ。
動かない。
「……おかしい」
高瀬は。
スクリーンショットを撮り続けた。
十枚。
二十枚。
高瀬。
上下する。
藤原。
上下する。
真壁。
★★★★★。
一度も。
動かない。
「……真壁」
その瞬間。
画面。
━━━━━━━━━━━━
【SYSTEM】
異常値を検出。
━━━━━━━━━━━━
「……異常値?」
続き。
━━━━━━━━━━━━
対象
真壁透
━━━━━━━━━━━━
高瀬の指が。
止まる。
━━━━━━━━━━━━
評価変動
0
━━━━━━━━━━━━
「……ゼロ」
そして。
━━━━━━━━━━━━
観測開始以来
変動なし。
━━━━━━━━━━━━
「……」
高瀬は。
息を止めた。
Reviewは。
人を。
採点する。
行動で。
星が変わる。
高瀬も。
藤原も。
なのに。
真壁だけ。
ずっと。
★★★★★。
「お前……」
高瀬は。
誰もいない病室で。
小さく。
呟いた。
「何なんだよ」
◇
同じ頃。
学校へ向かう車内。
「真壁先生」
藤原が。
助手席から声を掛けた。
「何ですか」
「さっきから」
「はい」
「何回スマホ見てるんですか」
「……」
「Review?」
「はい」
「変わりました?」
「……」
真壁は。
画面を見る。
━━━━━━━━━━━━
【Review】
★★★★★
━━━━━━━━━━━━
「ずっとこれ」
「五つ?」
「はい」
「さっきから?」
「はい」
「……変じゃないですか」
「俺も思ってます」
真壁は。
画面を閉じる。
窓の外を見る。
「藤原先生」
「はい」
「これ」
「何?」
「良い評価なんですよね」
「たぶん」
「……」
「どうしました?」
「じゃあ」
真壁は。
小さく言った。
「何でこんなに、
嫌なんだろう」
藤原は。
すぐには。
答えられなかった。
そして。
真壁自身も。
まだ知らなかった。
★★★★★が。
自分にとって。
最高評価ではないことを。




