↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第二章 あなたは、誰の採点者ですか

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/121

Review36「先生の先生」

午前零時十四分。



一分。



たった一分しか。


経っていない。



それなのに。



高瀬は。



しばらく。


時計を見ていた。



━━━━━━━━━━━━


記憶復元率


99.01%


━━━━━━━━━━━━



「……細か」



思わず。


声が出る。



99から。


100。



あと1。



なのに。



0.01。



この調子なら。



「百日かかるぞ」



笑えない。



もう一度。



桐谷から届いた写真を見る。



夜の旧校舎。



桐谷。



少年。



自分。



そして。



奥に立つ。



顔の見えない教師。



メッセージ。



『お前が忘れたのは、


俺でも、


あいつでもない。』



『最初から


一人だけ、


数えてない。』



Review。



━━━━━━━━━━━━


未復元記憶


1件


━━━━━━━━━━━━



対象者。



高瀬悠介。



対象者との関係。



――担任。



「……俺の、担任」



口にしてみる。



違和感。



高瀬にも。



当然。



担任はいた。



小学校。



中学校。



高校。



何人も。



名前だって。



何人かは。



覚えている。



なのに。



この。



「先生」だけ。



何も。



浮かばない。



顔。



声。



名前。



性別すら。



分からない。



「……いや」



高瀬は。



写真を。



拡大する。



体格。



服装。



立ち方。



少なくとも。



男に見える。



なのに。



懐かしいという感覚だけは。



ある。



知らない。



でも。



知っている。



その矛盾が。



気持ち悪かった。



高瀬は。



ノートを開く。



一行。



書く。



『俺の担任は、誰だった?』



その下。



もう一行。



『何で桐谷が知っている?』



ペンが。



止まる。



さらに。



書く。



『何で、その人が去年の旧校舎にいる?』



「……これだよな」



昔の担任。



それだけなら。



まだ分かる。



問題は。



写真。



去年。



旧校舎。



高瀬。



桐谷。



少年。



そして。



高瀬の。



昔の担任。



全員が。



同じ場所にいる。



「何の同窓会だよ……」



呟く。



少しだけ。



笑う。



怖い時ほど。



くだらないことを。



言いたくなる。



それも。



自分だ。



高瀬は。



スマートフォンを。



伏せた。



今日は。



もう。



触らない。



一人で。



掘らない。



明日。



二人に。



話す。



そう決めて。



布団へ。



入った。




◇




翌朝。



午前七時四十八分。



「……で?」



真壁が。



写真を。



睨んでいる。



「これが、お前の担任?」


「らしい」


「誰」


「知らん」


「担任だろ」


「だから困ってんだよ」



藤原が。



写真を。



拡大する。



「本当に先生なんですか?」



「Reviewでは」


「違います」



藤原が。



高瀬を見る。



「Reviewがどう言ってるかじゃなくて」


一拍。



「高瀬先生が、この人を先生だと思うかです」



高瀬は。



写真を見る。



顔は。



暗い。



分からない。



でも。



「……思う」



「どうして?」


「分からん」



真壁。



「一番面倒なやつだな」


「俺もそう思う」



高瀬は。



椅子へ。



座る。



「でも」


「この人見てると」


一拍。



「なんか」



胸の奥。



落ち着かない。



怖い。



とは。



少し違う。



怒り。



とも。



違う。



懐かしい。



だけでもない。



「……ちゃんとしなきゃって思う」



藤原が。



少し。



首を傾げる。



「ちゃんと?」


「姿勢直す感じ」


「先生ですね」


「だろ?」



真壁。



「お前が怒られまくってただけじゃないのか」


「それもある」



藤原。



「あるんですか」


「多分」



三人。



少し。



笑う。



昨日まで。



人間が二人になったり。



日付を越えて電話したり。



死んだ自分が出てきたり。



そんな話を。



していた。



なのに。



今。



昔の担任に。



怒られていたかもしれない。



そんな話をしている。



高瀬は。



その普通さに。



少し。



救われた。




◇




「まず」



真壁が。



紙を出す。



「記憶を掘るな」


「はい」


「Reviewにも聞かない」


「はい」


「勝手に旧校舎にも行かない」


「はい」


「素直だな」


「学習した」



藤原。



「★★★★★」


「いらん」


「成長したのに」


「昨日採点しないって決めたばっかだろ」



真壁が。



紙に。



書く。



『記録』



「人間の記憶が信用できないなら」


「記録を見る」


「そう」



高瀬が。



頷く。



「卒業アルバム」


藤原。



「学校の記録」


真壁。



「実家」


高瀬。



二人が。



見る。



「何」


藤原。



「実家にありますよね?」


「多分」


「卒業アルバム」


「多分」



真壁。



「今日持ってこい」


「今日!?」


「実家近いんだろ」


「まあ」


「じゃあ今日」


「お前、人の休日の使い方雑じゃない?」


「命よりは丁寧に扱ってる」


「比較対象が重い」



藤原が。



笑う。



そして。



少しだけ。



表情を変えた。



「でも」


「ん?」


「一人で行かない方がいいかもしれません」



高瀬が。



止まる。



「実家だぞ?」


「実家だからです」



藤原。



「昔の物が一番多い場所ですよね」



記憶復元。



脳負荷。



一度。



死にかけた。



高瀬は。



反論を。



飲み込む。



「……確かに」



真壁。



「俺は仕事」


「俺も仕事なんだけど」


「お前は当事者」


「当事者休暇とかない?」


「ない」



藤原。



「私、行きます」


「え」


「放課後なら」


「いや」


高瀬が。



少し。



困る。



「実家に同僚連れてくの?」


「嫌なんですか」


「嫌というか」


「じゃあ一人で行きます?」


「……来てください」



真壁。



「早い」


「命が大事なので」


「成長したな」


「★★★★★」


藤原。



「いらんって」




◇




一時間目。



授業。



黒板。



高瀬は。



チョークを。



動かす。



いつも通り。



そのつもりだった。



「先生」



「ん?」



「そこ違う」



「……あ」



漢字。



一本。



線が。



足りない。



「惜しい」


生徒。



「あと一本」


「一点減点?」


別の生徒。



高瀬は。



黒板を。



見る。



昨日なら。



何か。



引っかかったかもしれない。



でも。



今日は。



「間違えたら?」


生徒たち。



何人かが。



答える。



「直せばいいー」



「正解」



線を。



一本。



足す。



「人生も?」


誰かが。



聞く。



高瀬は。



振り返る。



「知らん」



笑い。



「でも」


一拍。



「直せるとこは」


「直した方がいいんじゃない?」



女子生徒。



「直せないところは?」



高瀬が。



止まる。



少し。



考える。



「……覚えとく」



「何を?」


「間違えたこと」



教室が。



少し。



静かになる。



高瀬は。



続ける。



「無かったことにするより」


一拍。



「そっちの方が」


「次はマシになるかもしれん」



「先生今日真面目」


「いつも真面目」


「嘘」


「減点します」


「採点するじゃん!」


「これはする」



笑い。



授業が。



続く。



高瀬は。



思った。



教師になったのは。



誰かの。



影響だったのだろうか。



もし。



そうなら。



自分は。



その人を。



忘れている。



それなのに。



十三年。



教師を。



続けた。



人は。



名前を忘れても。



もらったものだけ。



残ることが。



あるのだろうか。




◇




放課後。



実家。



「……緊張します」


藤原が。



玄関前で言う。



「何で」


「同僚の実家ですよ」


「俺の方が緊張してる」


「自分の実家なのに?」


「同僚連れてきてるから」



藤原。



「帰ります?」


「帰ったら真壁に殺される」


「Reviewより怖い」


「割と」



高瀬が。



鍵を。



開ける。



家の中。



懐かしい。



匂い。



靴箱。



廊下。



昔から。



変わっていない。



部屋。



押し入れ。



「多分」


高瀬が。



しゃがむ。



「この辺」



段ボール。



一つ。



二つ。



三つ。



教科書。



ノート。



写真。



卒業証書。



「あった」



アルバム。



中学校。



高校。



高瀬が。



一度。



手を止める。



藤原。



「私が開きます?」



「……いや」



高瀬は。



首を振る。



「一緒に見る」



「はい」



開く。



ページ。



クラス写真。



一年。



担任。



知っている。



「ああ」


「覚えてます?」


「この先生は覚えてる」


「どんな人?」


「怖かった」


「そればっかり」


「俺、意外と怒られてたから」



二年。



担任。



これも。



覚えている。



「数学」


「名前も?」


「うん」



三年。



ページを。



めくる。



高瀬の。



指が。



止まった。



「……」



藤原も。



黙る。



集合写真。



生徒たち。



高瀬。



若い。



当然。



中学生。



そして。



担任。



男。



写真。



顔。



はっきり。



写っている。



「この人」



藤原が。



スマートフォンを。



出す。



昨日。



桐谷から。



届いた写真。



暗い。



旧校舎。



奥に立つ。



男。



並べる。



「……似てます」



高瀬は。



答えない。



似ている。



体格。



髪。



立ち方。



同じ。



ように。



見える。



「名前」


藤原が。



写真の下を。



見る。



担任名。



そこ。



高瀬も。



見る。



そして。



息が。



止まった。



「……え?」



名前が。



ない。



空白。



印刷ミス。



そんな。



空き方ではない。



担任。



その欄だけ。



綺麗に。



何も。



書かれていない。



「高瀬先生」


「……うん」



ページを。



めくる。



担任紹介。



ない。



学校行事。



男が。



何度も。



写っている。



体育祭。



文化祭。



修学旅行。



高瀬の。



すぐ近く。



いる。



でも。



どこにも。



名前が。



ない。



「……こんなこと」


藤原。



「ある?」



高瀬は。



答えられない。



写真を。



見る。



男。



顔。



見えている。



はずなのに。



見れば見るほど。



輪郭が。



曖昧になる。



頭が。



痛む。



「高瀬先生」



藤原が。



すぐ。



アルバムを。



閉じた。



「今日はここまで」



「でも」


「駄目です」



「まだ」


「一人でやらないって」


一拍。



「決めましたよね」



高瀬は。



黙る。



そして。



「……はい」



「★★★★★」


「だからいらんって」



藤原が。



少し笑う。



高瀬も。



息を吐く。



その時。



何かが。



床へ。



落ちた。



アルバムから。



一枚。



紙。



古い。



四つ折り。



「……何これ」



藤原が。



拾おうとする。



高瀬。



「待って」



紙。



表。



文字。



自分の。



字。



中学生ではない。



今の。



高瀬の字。



「……俺の字だ」



藤原が。



止まる。



「いつ書いたんですか」



「知らない」



高瀬が。



紙を。



開く。



中。



一行。



━━━━━━━━━━━━


先生を思い出すな。


━━━━━━━━━━━━



「……」



その下。



もう一行。



━━━━━━━━━━━━


思い出したら、


今度こそ


俺は教師を辞める。


━━━━━━━━━━━━



高瀬は。



動けなかった。



「……何で」



教師。



十三年。



辞めたいと思ったことは。



何度もある。



でも。



この文章は。



違う。



仕事が。



辛いからではない。



「先生を思い出したら」


高瀬が。



呟く。



「俺は」


一拍。



「教師を辞める?」



藤原が。



何も言わない。



高瀬は。



紙の。



裏を見る。



そこにも。



文字。



短い。



━━━━━━━━━━━━


藤原にも、


真壁にも、


話すな。


━━━━━━━━━━━━



二人。



沈黙。



藤原が。



ゆっくり。



高瀬を見る。



「……もう」


一拍。



「話しちゃいましたね」



高瀬も。



藤原を見る。



数秒。



そして。



「……だな」



二人。



同時に。



少しだけ。



笑う。



でも。



次の瞬間。



高瀬の。



スマートフォン。



――ブッ。



━━━━━━━━━━━━


【Review】


過去の指示への違反を

確認しました。


━━━━━━━━━━━━



高瀬の。



表情が。



変わる。



━━━━━━━━━━━━


高瀬悠介は、


藤原美咲へ


「先生」の存在を

開示しました。


━━━━━━━━━━━━



次。



━━━━━━━━━━━━


これにより、


過去の高瀬悠介が

回避した結果が


再発生する可能性があります。


━━━━━━━━━━━━



藤原。



「回避した結果……?」



高瀬は。



紙を見る。



先生を思い出すな。



藤原にも。



真壁にも。



話すな。



全部。



過去の。



自分が。



書いた。



「俺」


高瀬が。



小さく。



言う。



「知ってたんだ」



忘れたのではない。



少なくとも。



この紙を書いた時点では。



知っていた。



そして。



自分で。



決めた。



思い出さないと。



誰にも。



話さないと。



――ブッ。



Review。



━━━━━━━━━━━━


記憶復元率


99.01%


━━━━━━━━━━━━



数字が。



動く。



99.02。



99.03。



99.04。



止まらない。



「高瀬先生」



藤原が。



高瀬の腕を。



掴む。



「見ないで」



高瀬は。



画面を。



伏せた。



「……うん」



一人で。



見ない。



一人で。



背負わない。



過去の自分が。



何を。



恐れていたとしても。



今の自分は。



違う。



「真壁に」


高瀬。



「電話する」



藤原が。



頷く。



「はい」



高瀬が。



発信。



一回。



二回。



真壁。



『何』



「今、大丈夫?」


『内容による』


「俺の昔の担任が」


一拍。



「去年の旧校舎にいた」



沈黙。



『……どこにいる』



「実家」


『藤原は』


「いる」


『なら動くな』



「分かった」



『今から行く』



通話。



終了。



高瀬が。



少し。



笑う。



「怒られなかった」


藤原。



「成長が認められましたね」


「★★★★★?」


「★★★★★」


「いらん」



その時。



閉じた。



卒業アルバム。



中から。



――音。



カサ。



二人。



止まる。



「……今」


藤原。



「聞こえました?」



「うん」



アルバム。



誰も。



触れていない。



なのに。



ページが。



一枚。



開く。



三年。



クラス写真。



高瀬。



担任。



名前。



空白。



そこへ。



文字が。



浮かぶ。



インクではない。



Reviewでもない。



鉛筆。



誰かが。



今。



書いているように。



一文字ずつ。



担任名の。



空欄。



高瀬と。



藤原が。



見る。



一文字目。



高瀬の。



呼吸が。



止まる。



二文字目。



頭の奥。



声。



『高瀬』



三文字目。



黒板。



『間違えたら直せ』



四文字目。



夕方。



職員室。



いや。



これは。



中学校ではない。



今の。



学校。



『お前、本当に教師になったんだな』



高瀬が。



立ち上がる。



「……待て」



藤原。



「高瀬先生?」



「俺」


声が。



震える。



「この人」


一拍。



「中学の時だけじゃない」



最後の。



一文字。



書かれる。



名前。



完成。



その瞬間。



記憶復元率。



99.99%。



高瀬は。



その名前を。



読んだ。



今度は。



消えなかった。



そして。



理解した。



「……違う」



藤原。



「何がです?」



高瀬が。



写真を見る。



去年。



旧校舎。



奥に立つ。



男。



「この人」


一拍。



「去年」


声。



「俺の学校に来てる」



「どうして?」



高瀬は。



答えられない。



代わりに。



スマートフォン。



最後の。



0.01%。



━━━━━━━━━━━━


100%


━━━━━━━━━━━━



画面。



暗転。



数秒。



そして。



たった。



一文。



━━━━━━━━━━━━


記憶復元完了。


━━━━━━━━━━━━



次。



━━━━━━━━━━━━


高瀬悠介が、


教師になった理由を


復元します。


━━━━━━━━━━━━



高瀬の。



頭の中。



十五年前。



教室。



少年だった。



高瀬悠介。



目の前。



一人の教師。



そして。



その教師が。



最初に言った言葉。



『高瀬』



『お前』


一拍。



『先生になれ』



高瀬は。



息を止めた。



記憶の中。



自分が。



答える。



『絶対嫌です』



【End】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。