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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第二章 あなたは、誰の採点者ですか

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109/120

Review35「この人生、採点中。」

「先生」


少年が。


笑った。



「やっと」


一拍。


「僕のこと、思い出しました?」



教室。



時間は。


止まっている。



藤原も。


真壁も。



窓の外を飛んでいた鳥さえ。



動かない。



動いているのは。



高瀬と。



三十七番目の席に座る。



少年だけ。



「……思い出した」



高瀬は。


そう答えた。



嘘ではない。



顔を見た瞬間。



何かが。


戻った。



笑い方。



声。



パンを食べながら。


くだらない話をしたこと。



『先生って、明日死ぬって分かったらどうします?』



そして。



もっと前。



別の教室。



答案用紙。



赤い数字。



69。



高瀬は。


息を呑んだ。




◇




教室。



今とは違う。



少し古い。



黒板の端に。


日直の名前。



窓の外。



夕焼け。



少年が。


答案用紙を持っている。



69点。



「惜しかったな」


過去の高瀬が言う。



「何がですか」


「あと一点」


「七十点になったら何か変わるんですか」


「まあ……」


「俺」


少年が。


答案を見る。



「一個賢くなる?」



「ならん」



「じゃあ何が変わるんですか」



高瀬は。


少し考える。



「気分?」



「適当」



少年が笑う。



その顔。



知っている。



高瀬は。



ずっと。


知っていた。



少年が。


答案を机へ置く。



「母親に見せたくないな」


「怒られる?」


「多分」


「六十九で?」


「七十取れって言われてるから」


「一点じゃん」


「その一点が大事なんだって」



少年は。



少しだけ。


笑った。



「先生もそう思います?」



高瀬は。


答案を見る。



69。



そして。



名前欄。



「いや」



指で。



69を隠す。



「一点増えても」


一拍。



「お前の価値は増えんだろ」



少年が。



高瀬を見る。



「じゃあ減ったら?」


「減らん」



「零点でも?」


「テストは怒る」


「結局怒るじゃん」


「でも」


高瀬は。



名前欄を。



指差す。



「零点でも」


一拍。



「ここは変わらん」



少年の名前。



高瀬は。



それを。



確かに。



読んでいる。



なのに。



音だけが。



聞こえない。




◇




現在。



高瀬は。



額を押さえた。



「……名前」


少年を見る。



「まだ」


一拍。



「そこだけ出てこない」



少年は。



少し笑った。



「先生らしいですね」


「どこが」


「大事なところで詰まる」



「うるさい」



懐かしい。



その返しまで。



知っている。



高瀬は。



少年の前まで歩く。



「お前」


「はい」


「俺の生徒だった」



「はい」



「今の学校じゃない」


「はい」



「なのに」


高瀬が。



教室を見る。



「何でここにいた」



少年は。



答えない。



「三十六人のクラスに」


「三十七人目として」


「何でいた」



少年の。



笑顔が。



消えた。



そして。



机の上。



指で。



何かを書く。



0。



0。



0。



高瀬の。



胸がざわつく。



「Review000……?」



少年が。



指を止めた。



高瀬。



「No.001」


一拍。



「お前なのか」



少年は。



ゆっくり。



首を振った。



「違います」



「じゃあ誰だ」



「先生です」



「……俺?」



少年が。



頷く。



「Review000の対象は」


一拍。



「高瀬悠介」



知っている。



ログで。



見た。



高瀬。



DUPLICATED。



Review000。



対象者名。



高瀬悠介。



「じゃあ」


高瀬は。



少年を見る。



「No.001は?」



少年は。



自分を指した。



「最初に」


一拍。



「先生を採点した人」




◇




記憶。



放課後。



教室。



少年。



高瀬。



答案。



69点。



少年が。



ふざけて。



言う。



『じゃあ先生は何点なんですか』



『俺?』



『はい』



『百点』



『うわ』



『何だよ』



『自分で言う人初めて見た』



『自己肯定感高めでやってます』



『じゃあ俺がつけます』



『何点』



少年は。



少し。



考える。



『七十八』



『低っ』



『授業長い』


『話脱線する』


『宿題多い』



『最後俺のせいじゃない』



少年が。



笑う。



『でも』


一拍。



『まあ』


『先生でよかったんで』



過去の高瀬が。



止まる。



『じゃあ』


少年。



『星五個』



『点数より上がってんじゃん』



『別枠です』



『何だそれ』



少年が。



笑う。



『レビュー』




◇




「……お前だったんだ」



高瀬が。



呟く。



最初の。



★★★★★。



少年が。



高瀬を。



見ている。



「完璧だったからじゃないですよ」



「分かってる」



「先生」


「何」


「結構」


一拍。



「ダメだったんで」



「おい」



少年が。



笑う。



高瀬も。



笑った。



なのに。



涙が。



出そうになる。



なぜ。



この少年を。



忘れた。



なぜ。



誰も。



覚えていない。



なぜ。



今。



ここにいる。



聞きたいことは。



山ほどある。



でも。



少年が。



先に。



口を開いた。



「先生」


「ん?」


「覚えてます?」


「何を」


「最初に」


一拍。



「聞いたこと」



高瀬は。



目を閉じる。



忘れるわけがない。



物語の。



最初。



昼休み。



『先生って、明日死ぬって分かったらどうします?』



「……学校休む」



少年が。



吹き出した。



「そこも覚えてるんだ」


「覚えてるわ」



「じゃあ」


少年。



「そのあと」



『真面目に』



『……謝るかな』



言えなかったこと。



言いすぎたこと。



助けられなかった生徒。



気付けなかった生徒。



少年。



『じゃあ先生だったら』


『誰のせいにします?』



高瀬。



『……俺だろうな』



静寂。



少年が。



今。



同じ質問をする。



「先生」



「もし」


一拍。



「明日死ぬって分かったら」



高瀬を見る。



「誰のせいにします?」



高瀬は。



答えなかった。



すぐには。



答えられなかった。



108話。



何度。



自分を。



責めた。



事故。



生徒。



桐谷。



佐伯。



忘れた記憶。



選ばなかった人生。



もう一人の自分。



正しい。



間違い。



★★★★★。



0点。



ずっと。



自分を。



採点していた。



そして。



ようやく。



気付いた。



「……誰のせいにも」


一拍。



「しないかな」



少年が。



少し。



目を見開く。



「多分」


高瀬。



「めちゃくちゃ怖いし」


「死にたくないし」


「何で俺なんだって思う」



少し。



笑う。



「でも」


一拍。



「最後まで」


「俺が悪かったって言い続けるのは」


首を振る。



「もういいかな」



少年は。



黙っている。



「反省するのと」


高瀬。



「自分に零点つけるの」


一拍。



「多分、違うわ」



少年の。



目が。



潤む。



「遅いですよ」



「知ってる」


「何話かかったと思ってるんですか」


「それは俺も知らん」



少年が。



笑った。



高瀬も。



笑う。




◇




――ブッ。



スマートフォン。



━━━━━━━━━━━━


【Review109】


最終質問。


━━━━━━━━━━━━



高瀬が。



画面を見る。



━━━━━━━━━━━━


あなたは、


あなたの人生を


何点だと思いますか?


━━━━━━━━━━━━



入力欄。



0。



から。



100。



高瀬は。



しばらく。



見ていた。



教師になった。



十三年。



笑った。



怒った。



泣いた。



感謝された。



嫌われた。



救えた。



救えなかった。



辞めたかった。



続けたかった。



間違えた。



謝った。



誰かを。



忘れた。



誰かに。



忘れられた。



それでも。



今日。



ここにいる。



高瀬は。



入力欄へ。



触れた。



少年が。



「何点?」



「つけない」



「え?」



高瀬は。



数字を。



消す。



「まだ」


一拍。



「途中だから」



少年が。



高瀬を見る。



「死ぬまで」


高瀬。



「上がるかもしれんし」


「下がるかもしれん」



「下がる前提あるんだ」



「人生だぞ」


「そりゃあるだろ」



高瀬は。



入力欄へ。



文字を。



入れた。



【採点中】



決定。



――ブッ。



画面。



━━━━━━━━━━━━


数値を

入力してください。


━━━━━━━━━━━━



「嫌だ」



━━━━━━━━━━━━


0から100の数値を

入力してください。


━━━━━━━━━━━━



「だから」


高瀬は。



画面を見る。



「まだ決められないって」



━━━━━━━━━━━━


回答形式が

正しくありません。


━━━━━━━━━━━━



「うるさいな」



少年が。



笑う。



「先生、機械と喧嘩してる」


「向こうが融通利かんからだろ」



もう一度。



【採点中】



送信。



━━━━━━━━━━━━


回答形式が

正しくありません。


━━━━━━━━━━━━



もう一度。



【採点中】



━━━━━━━━━━━━


回答形式が

正しくありません。


━━━━━━━━━━━━



「何回やるんですか」


「通るまで」


「先生そういうとこありますよね」


「知ってる」



四回目。



【採点中】



送信。



画面。



止まる。



一秒。



二秒。



三秒。



そして。



━━━━━━━━━━━━


……


━━━━━━━━━━━━



「……」



━━━━━━━━━━━━


回答を


受理しました。


━━━━━━━━━━━━



高瀬の。



表情が。



変わる。



少年も。



画面を見る。



次。



━━━━━━━━━━━━


評価対象


高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━


現在評価


――採点中


━━━━━━━━━━━━



高瀬は。



息を吐く。



「それでいい」



少年が。



笑う。



「タイトルみたいですね」



「何の」


「何でもないです」




◇




少年の。



身体が。



少しずつ。



薄くなる。



「待て」



高瀬が。



手を伸ばす。



「まだ聞いてない」



「何を」


「全部だよ」



なぜ。



消えた。



桐谷と。



何があった。



Reviewは。



なぜ。



未来を変える。



二人の高瀬。



違う日付。



削除された記憶。



佐伯。



そして。



少年自身。



「お前」


高瀬が。



言う。



「今」


一拍。



「生きてるのか」



少年は。



答えなかった。



それだけで。



胸が。



締め付けられる。



「おい」


「先生」


「答えろよ」


「まだ」


少年。



「思い出してないから」



「何を」


「一番大事なところ」



高瀬の。



眉が。



動く。



「だから」


少年は。



笑う。



「今日はここまで」



「ふざけんな」


「先生」


「何」


「明日も」


一拍。



「学校、来ます?」



第1話。



死ぬと。



分かったら。



学校を休むと。



言った。



高瀬は。



今度は。



迷わない。



「行くよ」



「何で?」



「仕事だから」



少年。



「普通」



「あと」


高瀬。



少し。



笑う。



「約束したから」



「誰と」


「いっぱい」



少年が。



笑った。



「雑だなあ」



「うるさい」



少年の。



輪郭が。



消えていく。



「先生」


「ん?」


「じゃあ」


笑う。



「また明日」



高瀬は。



その言葉を。



受け取る。



「おう」



一拍。



「また明日」



少年が。



消えた。




◇




時間が。



動き出した。



時計。



秒針。



カチ。



藤原が。



瞬きをする。



真壁が。



高瀬を見る。



「……高瀬?」



高瀬は。



教室に。



立っていた。



三十六席。



三十六人分。



三十七番目は。



ない。



「高瀬先生?」



藤原。



「大丈夫ですか」



高瀬は。



反射的に。



「大丈夫」



言いかけて。



止める。



第2話。



『大丈夫じゃない時に「大丈夫」って言うの、結構バレますよ』



高瀬は。



笑った。



「……大丈夫じゃない」



藤原の。



顔が。



少し緩む。



「はい」



「でも」


高瀬は。



息を吐く。



「今すぐ倒れる感じでもない」



真壁。



「七割くらい信用する」


「残り三割は?」


「お前だから」


「ひど」



高瀬は。



椅子へ。



座った。



ちゃんと。



人に。



囲まれて。




◇




数分後。



高瀬は。



二人に。



話した。



少年。



No.001。



69点。



最初の評価。



そして。



Review109。



自分の人生を。



何点だと思うか。



「で」


真壁。



「何点にした」



「採点中」



沈黙。



藤原が。



先に。



笑った。



「高瀬先生っぽい」



真壁。



「逃げたな」


「違う」


「何が」


「保留」


「それを逃げたと言う」


「人生の成績つけるにはまだ早いんだよ」



藤原が。



高瀬を見る。



「じゃあ」


「はい」


「長生きしないと」


一拍。



「最終点、出せませんね」



高瀬が。



止まる。



そして。



笑った。



「……確かに」



真壁。



「面倒な理由で長生きするな」


「理由なんて何でもいいだろ」



その時。



――ブッ。



三人。



同時に。



スマートフォンを見る。



高瀬の。



Review。



━━━━━━━━━━━━


【Review109】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━



「……五つ」



藤原が。



覗き込む。



━━━━━━━━━━━━


良かった点。


━━━━━━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━


あなたは、


自分の人生に


点数をつけませんでした。


━━━━━━━━━━━━



次。



━━━━━━━━━━━━


改善点。


━━━━━━━━━━━━



高瀬が。



待つ。



一秒。



二秒。



━━━━━━━━━━━━


未評価。


━━━━━━━━━━━━



「未評価?」



次。



━━━━━━━━━━━━


理由。


━━━━━━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━


あなたの人生は、


まだ終了していません。


━━━━━━━━━━━━



高瀬は。



しばらく。



画面を。



見ていた。



そして。



「……当たり前だろ」



笑った。



藤原も。



笑う。



真壁。



「書類も出してないしな」



「そこ?」



「明日締切」


「現実に戻すなよ」



三人の。



笑い声。



教室に。



残る。




◇




放課後。



高瀬は。



一人では。



帰らなかった。



藤原と。



真壁と。



昇降口まで。



歩く。



途中。



生徒に。



呼び止められる。



「先生!」



「ん?」



朝。



「先生がいいです」と。



言った。



あの女子生徒。



「明日」


「はい」


「小テスト返してくださいね」



「……忘れてた」


「先生!」


「嘘嘘」


「絶対ですよ」


「はいはい」


「絶対」


高瀬は。



少し。



笑う。



「分かった」



「じゃ」


女子生徒。



手を振る。



「また明日」



「おう」



高瀬も。



手を上げる。



「また明日」



今度は。



何の迷いも。



なかった。




◇




夜。



自宅。



午後十一時五十八分。



高瀬は。



机に。



座っていた。



ノート。



今日。



分かったことを。



書く。



・No.001は、過去に受け持った生徒。


・69点。


・最初に自分を評価した人物。


・Review000の対象は高瀬悠介。


・少年は現在の生死について答えなかった。


・「一番大事なところ」をまだ思い出していない。



最後。



高瀬は。



ペンを。



止める。



そして。



書く。



・人生――採点中。



「……ダサ」



自分で。



笑う。



でも。



消さなかった。



時計。



午前零時十三分。



――ブッ。



高瀬が。



スマートフォンを見る。



Reviewでは。



なかった。



写真。



一枚。



送信者。



――桐谷。



高瀬の。



表情から。



笑みが。



消える。



「……は?」



桐谷。



DELETED。



連絡先にも。



いない。



なのに。



写真が。



届いている。



高瀬が。



開く。



画像。



古い。



一年以上前。



夜。



旧校舎。



写っている。



桐谷。



高瀬。



そして。



今日。



教室に現れた。



あの少年。



三人。



高瀬は。



息を止める。



「……やっぱり」


一拍。



「一緒にいた」



写真。



しかし。



おかしい。



桐谷。



少年。



高瀬。



三人。



ではない。



奥。



暗い廊下。



もう一人。



人が。



立っている。



顔は。



暗くて。



見えない。



高瀬は。



画面を。



拡大する。



制服ではない。



教師。



男。



「……誰だ」



その瞬間。



写真の。



下。



メッセージ。



一件。



桐谷。



━━━━━━━━━━━━


高瀬。


━━━━━━━━━━━━



次。



━━━━━━━━━━━━


109まで来たなら、


そろそろ


気付いてるよな。


━━━━━━━━━━━━



高瀬の。



指が。



止まる。



「……何に」



次。



━━━━━━━━━━━━


お前が忘れたのは、


俺でも、


あいつでもない。


━━━━━━━━━━━━



高瀬が。



息を止める。



そして。



最後。



━━━━━━━━━━━━


最初から


一人だけ、


数えてない。


━━━━━━━━━━━━



「……一人?」



高瀬が。



写真を見る。



四人。



桐谷。



少年。



自分。



そして。



顔の見えない。



教師。



スマートフォン。



――ブッ。



【Review Log】



━━━━━━━━━━━━


Review109


完了。


━━━━━━━━━━━━



その下。



━━━━━━━━━━━━


記憶復元率


99%


━━━━━━━━━━━━



変わらない。



あと。



1%。



そして。



初めて。



表示される。



━━━━━━━━━━━━


未復元記憶


1件


━━━━━━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━


対象者


――高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━



高瀬の。



眉が。



動く。



「……俺?」



違う。



その下。



もう一行。



━━━━━━━━━━━━


対象者との関係


――担任


━━━━━━━━━━━━



高瀬は。



動けなくなった。



担任。



自分の。



担任。



生徒ではない。



桐谷でもない。



同僚でもない。



高瀬悠介が。



生徒だった頃。



自分を。



教えていた人間。



写真の奥。



顔の見えない。



教師。



画面。



最後。



━━━━━━━━━━━━


次回Review。


対象


「先生」


━━━━━━━━━━━━



高瀬は。



写真を。



見つめる。



自分は。



十三年間。



先生だった。



ずっと。



採点する側だと。



思っていた。



でも。



その前に。



自分も。



誰かの。



生徒だった。



「……先生」



午前零時十三分。



止まっていた。



最後の一%が。



動き始めた。



━━━━━━━━━━━━


記憶復元率


99.01%


━━━━━━━━━━━━



【End】

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