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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第二章 あなたは、誰の採点者ですか

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106/119

Review32「四分三十一秒」

翌朝。


高瀬は。


いつもより。


少し遅く学校へ来た。



午前七時五十八分。



「……寝た」


職員室へ入るなり。


藤原が。


高瀬を見る。



「何時間ですか」


「六時間」


「本当に?」


「六時間」


「盛ってません?」


「五時間四十分」


「盛ったじゃないですか」


「二十分くらい夢見させてよ」



隣。


真壁が。


書類から顔を上げる。



「上出来」


「真壁に褒められた」


「気持ち悪いからやめろ」


「そっちから褒めたんだろ」



昨日。


聞かなかった。



四分三十一秒。



過去の桐谷から。


一日後の高瀬へ。



かかってきた電話。



答えが。


そこにある。



それでも。


高瀬は。


帰った。



食べた。


風呂に入った。


寝た。



そして。


今日。



学校へ来た。



「聞きますか?」


藤原が聞く。



高瀬は。


鞄を机へ置いた。



「放課後」


「今じゃなくて?」


「授業あるし」


藤原が。


少しだけ。


笑った。



「はい」



真壁も。


何も言わなかった。



普通に。


一日を始める。



それが。


今の高瀬には。


必要だった。




◇




「先生」


「ん?」


「そこ間違ってる」


「……」


黒板。



高瀬は。


自分が書いた文字を見る。



生徒が。


指差す。



「ここ」


「……マジ?」


「マジ」


「先生なのに?」


別の生徒。



「先生も間違えるよ」


「じゃあ減点」


「誰が採点してんの」


「俺ら」


「立場逆転してない?」



教室に。


笑いが起きる。



高瀬は。


黒板消しを持った。



間違えた文字を。


消す。



そして。


書き直す。



たった。


それだけ。



なのに。



手が。


止まった。



間違えたら。



直せばいい。



昔。



自分が。


生徒に言った言葉。



「先生?」


「……いや」



高瀬は。


新しい答えを書く。



「間違えたから」


振り返る。



「直した」


「当たり前じゃん」


「そうなんだよな」


「何の話?」


「先生の人生」


「急に重い」


笑い。



高瀬も。


笑った。



でも。



胸の中に。



その言葉だけが。



残った。



間違えたら。



直せばいい。



もし。



去年の自分が。



間違えたなら。



今の自分が。



直しても。



いいはずだ。




◇




放課後。



昨日と。


同じ会議室。



三人。



机の中央。



高瀬のスマートフォン。



「じゃあ」


高瀬が言う。



「聞きます」


藤原が。


頷く。



真壁も。



「無理そうなら止めますからね」


「うん」


「本当に」


「分かってる」


「高瀬先生の『分かってる』は信用度低いです」


「最近上がってるよ」


「四十パーセントくらい」


「低っ」


真壁。



「始めろ」


「はいはい」



高瀬は。



再生ボタンを押した。




――ザッ。



雑音。



数秒。



そして。



桐谷の声。



『……高瀬?』



高瀬の身体が。



固まった。



昨日。



動画で聞いた。



同じ声。



でも。



今回は。



笑っていなかった。



『聞こえるか?』



次。



自分の声。



『聞こえてる』



去年の。



高瀬。



『今』


桐谷。


『何日だ?』



『十月十日』



沈黙。



『そっちは?』


高瀬が聞く。



『九日』



短い。



呼吸音。



『……本当に繋がった』


桐谷。



『みたいだな』



『笑えねえ』



『俺も』



現在の高瀬は。



机の下で。



拳を握った。



十月九日の桐谷。



十月十日の高瀬。



一日。



ずれた二人。



会話は。



続く。



『高瀬』


『何』


『明日の俺は?』



沈黙。



長い。



『高瀬?』



『……いない』



現在。



藤原の表情が。



変わった。



音声。



『どういう意味だ』



桐谷。



『十日』


高瀬。



『朝から学校に来てない』



『休み?』



『違う』



『電話は?』



『繋がらない』



『家は?』



『行った』



『いなかった』



桐谷が。



黙る。



そして。



小さく。



『……消えた?』



『多分』



『多分で言うなよ』



『じゃあ何て言えばいいんだよ!』



突然。



去年の高瀬の声が。



荒くなる。



『職員室の誰も、お前の話しねえんだぞ!』



現在の高瀬が。



息を止める。



『席はある』


『荷物もある』


『昨日までいた』


『なのに』



声が。



震える。



『誰も』


一拍。



『お前がいなくなったことを、おかしいと思ってない』



藤原が。



目を伏せる。



自分も。



そうだった。



桐谷が。


突然来なくなった。



なのに。



深く。



追わなかった。



音声。



桐谷が。



静かに聞く。



『お前は?』



『何』



『俺を覚えてる?』



『当たり前だろ』



『本当に?』



『桐谷』



高瀬の声。



『お前』


少し。



笑う。



『俺の友達だろ』



沈黙。



電話の向こう。



桐谷が。



息を吐いた。



『……そっか』



たった。



それだけ。



でも。



現在の高瀬には。



分かった。



桐谷は。



安心した。



『じゃあ』


桐谷。



『まだ間に合う』



『何が』



『聞け、高瀬』



声が。



変わる。



『今から俺が言うこと』


『絶対メモしろ』



『分かった』



『一つ目』



紙の音。



去年の高瀬が。



何かを。



書いている。



『Reviewは』


桐谷。



『未来を当ててるんじゃない』



現在。



三人。



動かない。



『……何?』


去年の高瀬。



『少なくとも』


桐谷。



『俺たちが思ってたものとは違う』



『何で分かる』



『明日のお前から電話が来てるからだよ』



沈黙。



『未来が一個なら』


桐谷が続ける。



『こんなこと起きないだろ』



『……』



『二つ目』



声。



『Reviewが出した答えを』


一拍。



『正解だと思うな』



現在の高瀬の。



目が。



わずかに動く。



『でも評価は』


去年の高瀬。



『評価と正解は違う』



桐谷が。



即答する。



『★★★★★でも』


『間違ってることはある』



高瀬は。



昨日の。



レビューを思い出す。



過去の自分から。



★★★★★。



『また間違えたら、ごめん』



「……これか」



高瀬が。



小さく呟く。



音声は。



続く。



『三つ目』



桐谷の声。



そこで。



少し。



止まった。



『高瀬』



『何』



『これだけは』


一度。



息。



『俺より先に』


『自分に聞け』



『……何を』



『お前』


桐谷が。



ゆっくり。



聞いた。



『何で』


一拍。



『三日後に死ぬって知ってる?』



現在。



高瀬の。



呼吸が。



止まった。



藤原が。



顔を上げる。



真壁も。



音声を。



見る。



去年。



去年だ。



死亡予告を受けたのは。



今から。



一年前。



だった。



はずなのに。



去年の桐谷は。



知っている。



『……何で知ってる』



音声の高瀬が。



聞く。



桐谷は。



答えた。



『お前が言ったからだよ』



『俺が?』



『昨日』



沈黙。



『昨日の俺が?』



『違う』



桐谷。



『もっと前のお前』



現在の高瀬が。



椅子から。



わずかに。



身を乗り出す。



『もっと前って何だよ』



『分からない』



『じゃあ』


去年の高瀬が。



苛立つ。



『何で俺だって分かった』



桐谷。



しばらく。



黙った。



そして。



『同じ顔だったから』



『……』



『同じ声だった』



『……』



『名前も』


『高瀬悠介だった』



現在。



藤原が。



高瀬を見る。



DUPLICATED。



もう一人の高瀬。



でも。



桐谷は。



続けた。



『ただ』



一拍。



『俺のことを知らなかった』



「……え?」



現在の高瀬から。



声が漏れた。



音声。



『俺が』


桐谷。



『桐谷だって言っても』



『あいつ』


声が。



少し震える。



『初めて会ったみたいな顔した』



高瀬の頭。



奥。



鈍い痛み。



『いつだ』



去年の高瀬。



『いつ会った』



桐谷。



答える。



『八日』



欠勤。



一日目。



『夜』


『旧校舎で』



『何してた』



『お前を探してた』



『俺は家にいた』



『知ってる』



『じゃあ』



『だから』


桐谷の声が。



強くなる。



『二人いたんだよ』



沈黙。



『家にいるお前と』



一拍。



『学校にいたお前』



現在。



三人。



誰も。



言葉を発さない。



『そいつは』


去年の高瀬。



『何て言った』



桐谷が。



答える。



『三日後』


一拍。



『高瀬悠介が死ぬ』



『……』



『止めたいなら』


雑音。



一瞬。



音が。



乱れる。



高瀬が。



スマートフォンへ。



近付く。



『何だよ』



去年の自分。



『何て言われた』



桐谷。



声。



途切れながら。



『――を――せ』



『聞こえない』



『Review000を――』



ノイズ。



「またそこ……!」



現在の高瀬が。



思わず。



声を出す。



動画と。



同じ。



Review000。



その先だけ。



消える。



音声。



『桐谷!』



『聞こえてる』



『もう一回言え!』



『Review000を――』



消える。



そして。



残り。



一分。



桐谷の声が。



遠くなる。



『……駄目だ』



『何が』



『多分』


桐谷。



『ここ』


『消される』



『何言って』



『高瀬』



『何』



『もし明日』


声。



『俺を覚えてなかったら』



『そんなこと』



『聞け』



強い。



声だった。



『もし』


桐谷。



『俺を忘れてたら』



一拍。



『思い出そうとするな』



現在。



高瀬の表情が。



止まる。



『……は?』



去年の高瀬。



『何で』



『分からない』



『分からないって』



『でも』



桐谷。



『お前』


声を。



震わせる。



『一回』


『それで死んでる』



「……」



現在。



時間が。



止まった。



藤原が。



高瀬を見る。



真壁も。



音声。



『俺が死んだ?』



『身体じゃない』



『じゃあ何が』



『分からない!』



桐谷が。



初めて。



叫んだ。



『俺だって分かんねえよ!』



荒い。



呼吸。



そして。



声が。



少し。



落ち着く。



『でも』


桐谷。



『目の前で見た』



『……何を』



長い。



沈黙。



『お前が』


一拍。



『俺を忘れた瞬間』



現在の高瀬の。



頭に。



痛み。



『その時』


桐谷。



『Reviewが出た』



『何て』



音声。



最後。



桐谷が。



言う。



『高瀬悠介』


一拍。



『死亡しました、って』



音声。



終了。



四分三十一秒。



誰も。



動かなかった。



会議室の。



時計だけが。



進んでいる。



高瀬は。



スマートフォンを。



見ていた。



「……俺」



声が。



掠れる。



「桐谷を忘れた時に」



藤原が。



何も言わず。



聞いている。



「死んだ?」



答えは。



ない。



でも。



一つ。



分かった。



医学的な死ではない。



法的な死でもない。



身体は。



生きていた。



それでも。



Reviewは。



死亡と。



記録した。



「本人」



真壁が。



小さく言う。



高瀬が。



見る。



「何?」



「さっきの話」



ホワイトボード。



身体。



記録。



選択。



本人。



「桐谷を忘れたことで」


真壁が言う。



「お前の何かが」


一度。



止まる。



「それまでのお前ではなくなった」



「……」



藤原が。



首を振る。



「でも」



二人が見る。



「人は忘れます」



静かに。



言う。



「友達のことを忘れたら、その人じゃなくなるんですか」



「……ならない」



高瀬。



「記憶を失ったら」


藤原。



「その人は死んだことになるんですか」



「ならない」



「だったら」



藤原は。



スマートフォンを見る。



「Reviewの『死亡』を」


一拍。



「私たちまで死亡だと思う必要はないです」



高瀬は。



何も言えなかった。



★★★★★でも。



間違っていることはある。



桐谷が。



言った。



評価と。



正解は。



違う。



「……そうだな」



高瀬は。



椅子へ。



深く座る。



「Reviewが」


画面を見る。



「俺を死んだって採点しただけかもしれない」



真壁が。



頷く。



「可能性はある」



「じゃあ」


高瀬は。



息を吐く。



「やっぱり」


少しだけ。



笑う。



「人間を採点するなよ」



藤原も。



小さく笑った。



「今さらですね」



「本当に」




◇




その日の帰り。



高瀬は。



一人ではなかった。



校門まで。



藤原と。



真壁。



三人。



「明日も?」


藤原が聞く。



「来ますよ」



「何点でも?」


「三十点なら」



「最低ラインですね」



「生きて来れば合格」



真壁が。



横から。



「甘い」



「人生くらい甘く採点させろよ」



「教師が言うな」



高瀬は。



笑った。



そして。



別れる。



「じゃあ」


藤原。



「また明日」



その言葉。



以前は。



怖かった。



約束できるか。



分からなかったから。



今は。



「また明日」



普通に。



返した。




◇




夜。



高瀬の部屋。



午後十一時五十二分。



高瀬は。



机に。



ノートを広げていた。



今日。



聞いたこと。



忘れないため。



手で。



書く。



・去年もReviewは存在した。


・高瀬は複数存在した。


・桐谷はそれを知っていた。


・Reviewの評価と正解は同じではない。


・「死亡」は身体の死とは限らない。


・Review000。



最後。



ペンが。



止まる。



Review000を。



何を。



すればいい。



そこだけ。



どうしても。



消えている。



高瀬は。



時計を見る。



23:58。



「……零時十三分」



何度も。



出てきた。



時刻。



第1話。



去年。



Review000。



死亡記録。



あと。



十五分。



高瀬は。



スマートフォンを。



机へ置いた。



待つ。



一分。



二分。



何も。



起きない。



午前零時。



日付が。



変わる。



0:05。



0:09。



0:12。



高瀬の。



心臓が。



少し。



速くなる。



0:13。



――ブッ。



スマートフォン。



点灯。



高瀬は。



息を止める。



━━━━━━━━━━━━


【Review000】


━━━━━━━━━━━━



初めて。



自分から。



現れた。



画面。



━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━



次。



━━━━━━━━━━━━


前回のReviewから


365日が経過しました。


━━━━━━━━━━━━



「……一年」



高瀬が。



呟く。



そして。



━━━━━━━━━━━━


再評価を

開始します。


━━━━━━━━━━━━



星。



一つ。



★☆☆☆☆



二つ。



★★☆☆☆



三つ。



★★★☆☆



四つ。



★★★★☆



最後。



★★★★★



高瀬は。



画面を見る。



去年。



自分は。



死んだ。



そう。



評価された。



なら。



今年は。



何を。



採点する。



表示。



━━━━━━━━━━━━


評価対象


この一年間の


高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━



「……俺の一年?」



次。



━━━━━━━━━━━━


評価項目


━━━━━━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━


あなたは、


昨年の自分より


正しい人間に

なりましたか?


━━━━━━━━━━━━



YES。



NO。



高瀬は。



しばらく。



それを見る。



そして。



笑った。



「知らねえよ」



押さない。



どちらも。



人間を。



そんな簡単に。



採点できるわけがない。



「正しくなったかなんて」



スマートフォンへ。



言う。



「俺が決めることでも」



一拍。



「お前が決めることでもないだろ」



画面。



変化なし。



高瀬は。



続けた。



「ただ」



今日。



教室で。



生徒と笑った。



藤原に。



頼った。



真壁と。



一緒に考えた。



佐伯の人生を。



勝手に選ばなかった。



去年。



何をしたのか。



まだ。



分からない。



それでも。



「去年より」



高瀬は。



少し。



考える。



「一人じゃなくなった」



――ブッ。



YES。



NO。



消えた。



星も。



消える。



そして。



━━━━━━━━━━━━


【Review000】


評価不能


━━━━━━━━━━━━



「……は?」



初めて。



見た。



評価不能。



次。



━━━━━━━━━━━━


理由


━━━━━━━━━━━━



数秒。



━━━━━━━━━━━━


評価者が


対象者を


正しく認識できません。


━━━━━━━━━━━━



高瀬の。



笑顔が。



消えた。



「……どういう意味」



━━━━━━━━━━━━


本人確認を

開始します。


━━━━━━━━━━━━



「また?」



表示。



━━━━━━━━━━━━


あなたは、


高瀬悠介ですか?


━━━━━━━━━━━━



YES。



NO。



高瀬は。



画面を見る。



答えようとして。



止まる。



前回。



佐伯。



どちらも本人だった。



高瀬も。



二人いた。



一人は。



ACTIVE。



一人は。



UNSELECTED。



なら。



この質問。



誰に。



聞いている。



「俺は」



高瀬が。



小さく。



言う。



「高瀬悠介だよ」



YESへ。



指を。



伸ばす。



その瞬間。



スマートフォンではなく。



背後から。



声がした。



「――違う」



高瀬の。



指が。



止まった。



ゆっくり。



振り返る。



誰も。



いない。



部屋。



静か。



「……」



聞き間違い。



そう。



思った。



次の瞬間。



また。



声。



今度は。



はっきり。



「それを押すな」



高瀬は。



動けなかった。



その声を。



知っている。



毎日。



聞いている。



自分の声だった。



スマートフォン。



表示。



━━━━━━━━━━━━


本人確認


保留


━━━━━━━━━━━━



そして。



最後。



━━━━━━━━━━━━


観測対象を


1名追加しました。


━━━━━━━━━━━━



高瀬は。



ゆっくり。



部屋の。



暗い窓を見る。



ガラスに。



自分が。



映っている。



一人。



そのはずだった。



でも。



高瀬が。



右手を上げても。



窓の中の高瀬は。



右手を。



上げなかった。



「……お前」



窓の中。



もう一人の高瀬が。



口を開く。



音は。



聞こえない。



ただ。



唇だけが。



動いた。



――思い出せ。



そして。



午前零時十三分。



高瀬の。



失われた一年が。



初めて。



こちら側を見た。



【End】

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