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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第二章 あなたは、誰の採点者ですか

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104/123

Review30「選ばなかった方」

「次の俺へ」


高瀬は。


もう一度。


画面を見る。


「また間違えたら、ごめん」


去年の自分から。


今の自分へ。


送られたレビュー。


★★★★★。


なのに。


謝っている。


「……何で五つなんだ」


藤原が。


高瀬を見る。


「え?」


「間違えたって」


高瀬は言う。


「自分で書いてるのに」


画面を指す。


「何で満点なんだろう」


真壁が。


少し考える。


「結果を評価してるとは限らない」


「……どういうこと?」


「お前が今まで受けたReview」


真壁が言う。


「全部」


「全部?」


「正解した時だけ星が増えたか?」


高瀬は。


黙った。


違う。


事故。


指示を無視した。


それでも。


★★★★★だった。


誰かに頼った。


正直に話した。


怖いと認めた。


結果ではなく。


その時。


何を選んだか。


「……選択」


高瀬が呟く。


「またそれですね」


藤原。


高瀬は。


去年の動画を見る。


最後。


過去の自分。


『次は、俺を信じるな』


そして。


『また間違えたら、ごめん』


「去年の俺は」


高瀬が。


ゆっくり言う。


「間違えるって分かってて」


一度。


止まる。


「何かを選んだ?」


誰も。


答えられなかった。



◇



動画を。


もう一度。


再生した。


『Review000を――』


ノイズ。


途切れる。


巻き戻す。


再生。


『Review000を――』


ノイズ。


「駄目ですね」


藤原が言う。


「音声だけ抜けない?」


高瀬。


「テレビドラマじゃないんで」


「真壁なら何とか」


「俺を何だと思ってる」


「便利な人」


「帰るぞ」


「ごめん」


藤原が。


動画の情報を見る。


「欠損してるの」


「うん」


「ここだけじゃないですね」


「え?」


動画。


全体。


三分四十二秒。


ところどころ。


一秒。


二秒。


映像が飛んでいる。


「確かに」


「意図的?」


高瀬が聞く。


「分かりません」


藤原は。


すぐに答えた。


「データ破損かもしれません」


決めつけない。


最近。


三人が。


覚え始めたこと。


分からないものを。


分かったことにしない。


高瀬は。


スマートフォンを置いた。


「……佐伯先生」


「戻るか」


真壁が言う。


「うん」


去年の自分も。


気になる。


桐谷も。


Review000も。


でも。


今。


目の前で。


困っている人がいる。


佐伯。


二人。


「先に」


高瀬は立ち上がる。


「今の佐伯先生だ」


藤原が。


頷いた。


「はい」


真壁も。


何も言わず。


立った。



◇



学校にいる佐伯は。


保健室で休んでいた。


体調が悪いわけではない。


ただ。


自分と同じ声を聞いた。


自分と同じ名前の人間がいると。


知らされた。


授業どころではない。


当然だった。


「入っていいですか」


高瀬が。


扉を少し開ける。


佐伯は。


ベッドではなく。


椅子に座っていた。


「……どうぞ」


三人が入る。


「すみません」


高瀬が言う。


「何がです?」


「巻き込んで」


佐伯は。


少し笑った。


「俺の話ですよね」


「……そうですね」


「だったら」


佐伯は。


自分の手を見る。


「巻き込まれたの」


一拍。


「高瀬先生たちじゃないですか」


高瀬は。


何も言えなかった。


「向こうの俺」


佐伯が聞く。


「まだ家に?」


「はい」


「会っちゃ駄目なんですよね」


「……今は」


「Reviewがそう言ってる?」


高瀬が。


少し驚く。


「覚えてるんですか?」


「さっき聞きました」


「あ」


「大丈夫ですか?」


「最近情報が多くて」


佐伯が。


ほんの少し笑った。


それから。


真顔になる。


「高瀬先生」


「はい」


「向こうの俺は」


一度。


息を吸う。


「辞めたいんですよね」


「……はい」


「俺は」


「辞めたくない」


「はい」


佐伯は。


俯いた。


「どっちが」


声が。


小さくなる。


「本音なんでしょう」


高瀬は。


すぐには。


答えなかった。


昨日なら。


どちらかを。


探したかもしれない。


本当の気持ち。


正しい方。


本人。


でも。


今は。


少し違う。


「両方じゃないですか」


佐伯が。


顔を上げる。


「……え?」


「辞めたいのも」


高瀬は。


佐伯を見る。


「辞めたくないのも」


「……」


「両方」


一度。


止まる。


「佐伯先生だったんじゃないですか」


佐伯は。


黙っている。


「疲れた」


「……はい」


「逃げたい」


「……」


「でも」


高瀬は続ける。


「生徒は気になる」


佐伯の指が。


少し動く。


「途中で投げたくない」


「……」


「仕事が全部嫌いなわけでもない」


佐伯は。


ゆっくり。


目を伏せた。


「……そうですね」


「だから」


高瀬は。


少し笑う。


「どっちかが嘘じゃなくて」


「……」


「どっちも本音だった」


長い。


沈黙。


佐伯が。


息を吐く。


「それ」


「はい」


「一番困る答えですね」


「ですよね」


「どっちか嘘なら」


「楽だった」


「はい」


高瀬も。


分かる気がした。


人間は。


一つじゃない。


辞めたい。


続けたい。


怖い。


進みたい。


助けたい。


逃げたい。


矛盾したものを。


同時に抱えている。


それでも。


最後は。


一つを選ぶ。


「昨日」


高瀬が言う。


「向こうの佐伯先生は」


一度。


言葉を選ぶ。


「辞める方を選んだ」


佐伯が。


頷く。


「じゃあ俺は」


自分を見る。


「選ばなかった方?」


高瀬は。


答えられなかった。


その言葉。


妙に。


引っかかった。



◇



――ブッ。


高瀬のスマートフォン。


振動。


四人が。


見る。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


質問を

確認しました。


━━━━━━━━━━━━


「してないけど」


高瀬が言う。


「心読まれてます?」


藤原。


「嫌だな、それ」


真壁。


次。


━━━━━━━━━━━━


対象


佐伯


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


本人確認を

再開します。


━━━━━━━━━━━━


高瀬が。


画面を見る。


昨日。


答えられなかった。


問い。


どちらが本人か。


でも。


表示された質問は。


違った。


━━━━━━━━━━━━


質問。


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


退職を選んだ佐伯と、


退職を選ばなかった佐伯。


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


どちらが、


本来存在するはずだった

佐伯ですか?


━━━━━━━━━━━━


YESも。


NOもない。


代わりに。


二つ。


━━━━━━━━━━━━


退職を選んだ佐伯


退職を選ばなかった佐伯


━━━━━━━━━━━━


佐伯が。


画面を見る。


「……選べってことですか」


高瀬は。


スマートフォンを。


伏せた。


「選ばない」


三人が。


高瀬を見る。


「高瀬先生?」


「これ」


高瀬は。


首を振る。


「俺が決めることじゃない」


Review。


反応なし。


「佐伯先生の人生だから」


学校にいる佐伯を見る。


「俺が」


そして。


スマートフォン。


電話の向こうにいる。


もう一人を思う。


「どっちを残すか決めるのは」


一度。


息を吸う。


「違う」


数秒。


沈黙。


――ブッ。


画面。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


藤原が。


小さく息を吐く。


次。


━━━━━━━━━━━━


回答を

確認しました。


━━━━━━━━━━━━


「回答してないけど」


高瀬。


真壁が。


画面を見る。


「したんだろ」


「……え?」


次。


━━━━━━━━━━━━


回答


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


「どちらも」


━━━━━━━━━━━━


佐伯が。


画面を見つめる。


そして。


次の表示。


━━━━━━━━━━━━


正解です。


━━━━━━━━━━━━


「……」


初めて。


だった。


Reviewが。


はっきり。


正解と言った。


高瀬は。


少しだけ。


安心した。


でも。


次の一文で。


消えた。


━━━━━━━━━━━━


そのため、


矛盾を解消します。


━━━━━━━━━━━━


「……待って」


高瀬が。


画面へ手を伸ばす。


━━━━━━━━━━━━


対象


佐伯


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


DUPLICATED


解除処理開始


━━━━━━━━━━━━


「解除?」


佐伯が。


立ち上がる。


「何が起きるんですか」


「分からない」


高瀬は。


すぐに電話を取り出す。


自宅の佐伯へ。


電話。


呼び出し。


一回。


二回。


繋がる。


『……高瀬先生』


「佐伯先生!」


『はい』


「今」


高瀬は。


息を整える。


「何か変わったことは?」


『変わったこと?』


「身体とか」


『いや』


「記憶」


『……特には』


学校の佐伯も。


自分の身体を確認している。


何も。


起きていない。


画面。


━━━━━━━━━━━━


解除率


10%


━━━━━━━━━━━━


20%。


30%。


「止められない?」


藤原。


「分からない」


高瀬は。


Reviewへ言う。


「待て」


反応なし。


40%。


「二人とも本人なんだろ!」


50%。


「だったら」


60%。


「片方消すなよ!」


表示。


止まった。


60%。


電話の向こう。


『高瀬先生』


「はい」


『大丈夫です』


「何が」


『多分』


声が。


穏やかだった。


『分かったから』


「何を」


『俺』


電話の佐伯が。


少し笑う。


『辞めたかったんじゃない』


「……え?」


学校の佐伯も。


電話の声を。


聞いている。


『辞めるしかないと思ってたんです』


高瀬は。


黙った。


『疲れて』


『もう無理で』


『でも』


一度。


息。


『辞めたいって思うことすら』


『自分で許してなかった』


学校の佐伯が。


目を閉じる。


『だから』


電話の佐伯。


『辞めるって決めた時』


『初めて』


声が。


少し震える。


『楽になった』


高瀬は。


何も言わなかった。


ただ。


聞いた。


『でも』


「はい」


『そっちの俺も』


学校の佐伯を見る。


『多分』


『嘘じゃない』


学校の佐伯が。


小さく。


「……うん」


電話越し。


同じ声。


『聞こえた』


「……」


「俺も」


学校の佐伯が言う。


「辞めたくないのは」


唇を噛む。


「本当だ」


二人。


同じ人間。


違う選択。


どちらも。


本音。


画面。


━━━━━━━━━━━━


解除率


61%


━━━━━━━━━━━━


動き出す。


「待て!」


高瀬が。


声を上げる。


でも。


電話の佐伯が。


『高瀬先生』


「何ですか」


『選ばないでくれて』


一拍。


『ありがとうございました』


「やめてください」


『え?』


「そういう」


高瀬は。


声を強くする。


「消える前みたいなこと言うの」


一瞬。


沈黙。


そして。


電話の向こうで。


笑った。


『確かに』


70%。


「佐伯先生」


『はい』


「一個だけ」


『何です?』


「明日」


一度。


息を吸う。


「何したいですか」


電話の向こう。


黙る。


学校の佐伯も。


黙る。


やがて。


二人が。


ほとんど。


同時に。


言った。


『休みたいです』


「休みたいです」


高瀬は。


目を丸くする。


藤原が。


吹き出した。


真壁が。


小さく。


「そこは同じなのか」


学校の佐伯が。


笑う。


電話の向こうも。


笑っている。


「じゃあ」


高瀬も。


笑った。


「休みましょう」


80%。


「辞めるかどうかは」


85%。


「そのあと考えればいい」


90%。


電話。


『……はい』


学校。


「はい」


95%。


高瀬は。


画面を見る。


怖い。


何が。


起きる。


100%。


━━━━━━━━━━━━


DUPLICATED


解除完了


━━━━━━━━━━━━


電話。


切れなかった。


学校の佐伯も。


消えなかった。


「……」


全員。


動けない。


「いる?」


高瀬が。


学校の佐伯へ。


「います」


電話。


「佐伯先生?」


『いますよ』


「……二人とも?」


『みたいですね』


高瀬は。


画面を見る。


「じゃあ解除って」


次。


━━━━━━━━━━━━


矛盾の解消が

完了しました。


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


二名を、


別個体として

登録します。


━━━━━━━━━━━━


「……え?」


佐伯が。


画面を見る。


━━━━━━━━━━━━


対象01


佐伯


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


対象02


佐伯


━━━━━━━━━━━━


そして。


それぞれ。


別の表示。


━━━━━━━━━━━━


対象01


継続


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


対象02


退職


━━━━━━━━━━━━


高瀬は。


息を止めた。


消すのではない。


戻すのでもない。


二人を。


二人として。


残した。


「そんなこと」


藤原が。


呟く。


「できるんですか」


誰にも。


分からない。


でも。


高瀬は。


別のことに。


気付いていた。


Reviewは。


今。


二つの選択を。


同時に。


残した。


選んだ未来と。


選ばなかった未来。


両方を。


「……選ばなかった方」


高瀬が。


呟く。


真壁が。


見る。


「何」


「佐伯先生は」


スマートフォンを見る。


「残った」


「そうだな」


「じゃあ」


高瀬の声が。


低くなる。


「去年の俺は?」


誰も。


答えない。


もし。


同じことが。


去年。


高瀬にも。


起きていたなら。


選んだ高瀬。


選ばなかった高瀬。


二人。


存在した。


そして。


今。


一人しか。


いない。


――ブッ。


スマートフォン。


━━━━━━━━━━━━


【Review Log】


検索結果


2件


━━━━━━━━━━━━


一件目。


━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬悠介


状態


ACTIVE


━━━━━━━━━━━━


「……俺」


そして。


二件目。


━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬悠介


状態


――


━━━━━━━━━━━━


文字が。


一瞬。


乱れる。


DELETED。


違う。


DUPLICATED。


違う。


UNKNOWN。


違う。


何度も。


表示が変わる。


そして。


止まった。


━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬悠介


状態


UNSELECTED


━━━━━━━━━━━━


「……アンセレクテッド?」


藤原が。


呟く。


真壁が。


静かに訳す。


「選ばれなかった」


高瀬は。


画面を見た。


もう一人の自分。


それは。


偽物ではない。


消された自分でもない。


選ばなかった。


もう一つ。


━━━━━━━━━━━━


最終記録


昨年10月9日


00時13分


━━━━━━━━━━━━


午前零時十三分。


また。


その時刻。


そして。


最後。


━━━━━━━━━━━━


最終観測地点


高瀬悠介


自宅


━━━━━━━━━━━━


「……自宅?」


高瀬が。


呟く。


学校じゃない。


旧校舎でもない。


あの夜。


もう一人の自分は。


自宅にいた。


午前零時十三分。


高瀬の脳裏に。


最初の光景が。


蘇る。


暗い部屋。


スマートフォン。


★★★★★。


そして。


床に。


倒れていた。


誰か。


『最初に死んだのは、高瀬ではなかった。』


高瀬の呼吸が。


止まった。


「……待って」


藤原が。


高瀬を見る。


「どうしました?」


高瀬は。


答えられない。


今まで。


床に倒れていた人間を。


知らない誰かだと。


思っていた。


でも。


もし。


あの夜。


高瀬悠介が。


二人いたなら。


一人が。


立っていて。


もう一人が。


床に。


倒れていたなら。


「……俺だった?」


声が。


震えた。


「高瀬?」


真壁。


高瀬は。


画面を見る。


最後の通知。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


質問を変更してください。


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


「最初に死んだのは誰か」


ではありません。


━━━━━━━━━━━━


一拍。


━━━━━━━━━━━━


「最初に死んだ高瀬は、


どちらの高瀬だったのか」


━━━━━━━━━━━━


高瀬は。


動けなかった。


最初に死んだのは。


高瀬ではなかった。


そう。


思っていた。


でも。


もし。


あの一文の。


意味そのものを。


自分が。


間違えていたとしたら。


画面。


最後の一行。


━━━━━━━━━━━━


Review000


死亡記録


1件


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


氏名


高瀬悠介


【End】


━━━━━━━━━━━━

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