Review30「選ばなかった方」
「次の俺へ」
高瀬は。
もう一度。
画面を見る。
「また間違えたら、ごめん」
去年の自分から。
今の自分へ。
送られたレビュー。
★★★★★。
なのに。
謝っている。
「……何で五つなんだ」
藤原が。
高瀬を見る。
「え?」
「間違えたって」
高瀬は言う。
「自分で書いてるのに」
画面を指す。
「何で満点なんだろう」
真壁が。
少し考える。
「結果を評価してるとは限らない」
「……どういうこと?」
「お前が今まで受けたReview」
真壁が言う。
「全部」
「全部?」
「正解した時だけ星が増えたか?」
高瀬は。
黙った。
違う。
事故。
指示を無視した。
それでも。
★★★★★だった。
誰かに頼った。
正直に話した。
怖いと認めた。
結果ではなく。
その時。
何を選んだか。
「……選択」
高瀬が呟く。
「またそれですね」
藤原。
高瀬は。
去年の動画を見る。
最後。
過去の自分。
『次は、俺を信じるな』
そして。
『また間違えたら、ごめん』
「去年の俺は」
高瀬が。
ゆっくり言う。
「間違えるって分かってて」
一度。
止まる。
「何かを選んだ?」
誰も。
答えられなかった。
◇
動画を。
もう一度。
再生した。
『Review000を――』
ノイズ。
途切れる。
巻き戻す。
再生。
『Review000を――』
ノイズ。
「駄目ですね」
藤原が言う。
「音声だけ抜けない?」
高瀬。
「テレビドラマじゃないんで」
「真壁なら何とか」
「俺を何だと思ってる」
「便利な人」
「帰るぞ」
「ごめん」
藤原が。
動画の情報を見る。
「欠損してるの」
「うん」
「ここだけじゃないですね」
「え?」
動画。
全体。
三分四十二秒。
ところどころ。
一秒。
二秒。
映像が飛んでいる。
「確かに」
「意図的?」
高瀬が聞く。
「分かりません」
藤原は。
すぐに答えた。
「データ破損かもしれません」
決めつけない。
最近。
三人が。
覚え始めたこと。
分からないものを。
分かったことにしない。
高瀬は。
スマートフォンを置いた。
「……佐伯先生」
「戻るか」
真壁が言う。
「うん」
去年の自分も。
気になる。
桐谷も。
Review000も。
でも。
今。
目の前で。
困っている人がいる。
佐伯。
二人。
「先に」
高瀬は立ち上がる。
「今の佐伯先生だ」
藤原が。
頷いた。
「はい」
真壁も。
何も言わず。
立った。
◇
学校にいる佐伯は。
保健室で休んでいた。
体調が悪いわけではない。
ただ。
自分と同じ声を聞いた。
自分と同じ名前の人間がいると。
知らされた。
授業どころではない。
当然だった。
「入っていいですか」
高瀬が。
扉を少し開ける。
佐伯は。
ベッドではなく。
椅子に座っていた。
「……どうぞ」
三人が入る。
「すみません」
高瀬が言う。
「何がです?」
「巻き込んで」
佐伯は。
少し笑った。
「俺の話ですよね」
「……そうですね」
「だったら」
佐伯は。
自分の手を見る。
「巻き込まれたの」
一拍。
「高瀬先生たちじゃないですか」
高瀬は。
何も言えなかった。
「向こうの俺」
佐伯が聞く。
「まだ家に?」
「はい」
「会っちゃ駄目なんですよね」
「……今は」
「Reviewがそう言ってる?」
高瀬が。
少し驚く。
「覚えてるんですか?」
「さっき聞きました」
「あ」
「大丈夫ですか?」
「最近情報が多くて」
佐伯が。
ほんの少し笑った。
それから。
真顔になる。
「高瀬先生」
「はい」
「向こうの俺は」
一度。
息を吸う。
「辞めたいんですよね」
「……はい」
「俺は」
「辞めたくない」
「はい」
佐伯は。
俯いた。
「どっちが」
声が。
小さくなる。
「本音なんでしょう」
高瀬は。
すぐには。
答えなかった。
昨日なら。
どちらかを。
探したかもしれない。
本当の気持ち。
正しい方。
本人。
でも。
今は。
少し違う。
「両方じゃないですか」
佐伯が。
顔を上げる。
「……え?」
「辞めたいのも」
高瀬は。
佐伯を見る。
「辞めたくないのも」
「……」
「両方」
一度。
止まる。
「佐伯先生だったんじゃないですか」
佐伯は。
黙っている。
「疲れた」
「……はい」
「逃げたい」
「……」
「でも」
高瀬は続ける。
「生徒は気になる」
佐伯の指が。
少し動く。
「途中で投げたくない」
「……」
「仕事が全部嫌いなわけでもない」
佐伯は。
ゆっくり。
目を伏せた。
「……そうですね」
「だから」
高瀬は。
少し笑う。
「どっちかが嘘じゃなくて」
「……」
「どっちも本音だった」
長い。
沈黙。
佐伯が。
息を吐く。
「それ」
「はい」
「一番困る答えですね」
「ですよね」
「どっちか嘘なら」
「楽だった」
「はい」
高瀬も。
分かる気がした。
人間は。
一つじゃない。
辞めたい。
続けたい。
怖い。
進みたい。
助けたい。
逃げたい。
矛盾したものを。
同時に抱えている。
それでも。
最後は。
一つを選ぶ。
「昨日」
高瀬が言う。
「向こうの佐伯先生は」
一度。
言葉を選ぶ。
「辞める方を選んだ」
佐伯が。
頷く。
「じゃあ俺は」
自分を見る。
「選ばなかった方?」
高瀬は。
答えられなかった。
その言葉。
妙に。
引っかかった。
◇
――ブッ。
高瀬のスマートフォン。
振動。
四人が。
見る。
━━━━━━━━━━━━
【Review】
質問を
確認しました。
━━━━━━━━━━━━
「してないけど」
高瀬が言う。
「心読まれてます?」
藤原。
「嫌だな、それ」
真壁。
次。
━━━━━━━━━━━━
対象
佐伯
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
本人確認を
再開します。
━━━━━━━━━━━━
高瀬が。
画面を見る。
昨日。
答えられなかった。
問い。
どちらが本人か。
でも。
表示された質問は。
違った。
━━━━━━━━━━━━
質問。
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
退職を選んだ佐伯と、
退職を選ばなかった佐伯。
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
どちらが、
本来存在するはずだった
佐伯ですか?
━━━━━━━━━━━━
YESも。
NOもない。
代わりに。
二つ。
━━━━━━━━━━━━
退職を選んだ佐伯
退職を選ばなかった佐伯
━━━━━━━━━━━━
佐伯が。
画面を見る。
「……選べってことですか」
高瀬は。
スマートフォンを。
伏せた。
「選ばない」
三人が。
高瀬を見る。
「高瀬先生?」
「これ」
高瀬は。
首を振る。
「俺が決めることじゃない」
Review。
反応なし。
「佐伯先生の人生だから」
学校にいる佐伯を見る。
「俺が」
そして。
スマートフォン。
電話の向こうにいる。
もう一人を思う。
「どっちを残すか決めるのは」
一度。
息を吸う。
「違う」
数秒。
沈黙。
――ブッ。
画面。
━━━━━━━━━━━━
【Review】
★★★★★
━━━━━━━━━━━━
藤原が。
小さく息を吐く。
次。
━━━━━━━━━━━━
回答を
確認しました。
━━━━━━━━━━━━
「回答してないけど」
高瀬。
真壁が。
画面を見る。
「したんだろ」
「……え?」
次。
━━━━━━━━━━━━
回答
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
「どちらも」
━━━━━━━━━━━━
佐伯が。
画面を見つめる。
そして。
次の表示。
━━━━━━━━━━━━
正解です。
━━━━━━━━━━━━
「……」
初めて。
だった。
Reviewが。
はっきり。
正解と言った。
高瀬は。
少しだけ。
安心した。
でも。
次の一文で。
消えた。
━━━━━━━━━━━━
そのため、
矛盾を解消します。
━━━━━━━━━━━━
「……待って」
高瀬が。
画面へ手を伸ばす。
━━━━━━━━━━━━
対象
佐伯
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
DUPLICATED
解除処理開始
━━━━━━━━━━━━
「解除?」
佐伯が。
立ち上がる。
「何が起きるんですか」
「分からない」
高瀬は。
すぐに電話を取り出す。
自宅の佐伯へ。
電話。
呼び出し。
一回。
二回。
繋がる。
『……高瀬先生』
「佐伯先生!」
『はい』
「今」
高瀬は。
息を整える。
「何か変わったことは?」
『変わったこと?』
「身体とか」
『いや』
「記憶」
『……特には』
学校の佐伯も。
自分の身体を確認している。
何も。
起きていない。
画面。
━━━━━━━━━━━━
解除率
10%
━━━━━━━━━━━━
20%。
30%。
「止められない?」
藤原。
「分からない」
高瀬は。
Reviewへ言う。
「待て」
反応なし。
40%。
「二人とも本人なんだろ!」
50%。
「だったら」
60%。
「片方消すなよ!」
表示。
止まった。
60%。
電話の向こう。
『高瀬先生』
「はい」
『大丈夫です』
「何が」
『多分』
声が。
穏やかだった。
『分かったから』
「何を」
『俺』
電話の佐伯が。
少し笑う。
『辞めたかったんじゃない』
「……え?」
学校の佐伯も。
電話の声を。
聞いている。
『辞めるしかないと思ってたんです』
高瀬は。
黙った。
『疲れて』
『もう無理で』
『でも』
一度。
息。
『辞めたいって思うことすら』
『自分で許してなかった』
学校の佐伯が。
目を閉じる。
『だから』
電話の佐伯。
『辞めるって決めた時』
『初めて』
声が。
少し震える。
『楽になった』
高瀬は。
何も言わなかった。
ただ。
聞いた。
『でも』
「はい」
『そっちの俺も』
学校の佐伯を見る。
『多分』
『嘘じゃない』
学校の佐伯が。
小さく。
「……うん」
電話越し。
同じ声。
『聞こえた』
「……」
「俺も」
学校の佐伯が言う。
「辞めたくないのは」
唇を噛む。
「本当だ」
二人。
同じ人間。
違う選択。
どちらも。
本音。
画面。
━━━━━━━━━━━━
解除率
61%
━━━━━━━━━━━━
動き出す。
「待て!」
高瀬が。
声を上げる。
でも。
電話の佐伯が。
『高瀬先生』
「何ですか」
『選ばないでくれて』
一拍。
『ありがとうございました』
「やめてください」
『え?』
「そういう」
高瀬は。
声を強くする。
「消える前みたいなこと言うの」
一瞬。
沈黙。
そして。
電話の向こうで。
笑った。
『確かに』
70%。
「佐伯先生」
『はい』
「一個だけ」
『何です?』
「明日」
一度。
息を吸う。
「何したいですか」
電話の向こう。
黙る。
学校の佐伯も。
黙る。
やがて。
二人が。
ほとんど。
同時に。
言った。
『休みたいです』
「休みたいです」
高瀬は。
目を丸くする。
藤原が。
吹き出した。
真壁が。
小さく。
「そこは同じなのか」
学校の佐伯が。
笑う。
電話の向こうも。
笑っている。
「じゃあ」
高瀬も。
笑った。
「休みましょう」
80%。
「辞めるかどうかは」
85%。
「そのあと考えればいい」
90%。
電話。
『……はい』
学校。
「はい」
95%。
高瀬は。
画面を見る。
怖い。
何が。
起きる。
100%。
━━━━━━━━━━━━
DUPLICATED
解除完了
━━━━━━━━━━━━
電話。
切れなかった。
学校の佐伯も。
消えなかった。
「……」
全員。
動けない。
「いる?」
高瀬が。
学校の佐伯へ。
「います」
電話。
「佐伯先生?」
『いますよ』
「……二人とも?」
『みたいですね』
高瀬は。
画面を見る。
「じゃあ解除って」
次。
━━━━━━━━━━━━
矛盾の解消が
完了しました。
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
二名を、
別個体として
登録します。
━━━━━━━━━━━━
「……え?」
佐伯が。
画面を見る。
━━━━━━━━━━━━
対象01
佐伯
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
対象02
佐伯
━━━━━━━━━━━━
そして。
それぞれ。
別の表示。
━━━━━━━━━━━━
対象01
継続
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
対象02
退職
━━━━━━━━━━━━
高瀬は。
息を止めた。
消すのではない。
戻すのでもない。
二人を。
二人として。
残した。
「そんなこと」
藤原が。
呟く。
「できるんですか」
誰にも。
分からない。
でも。
高瀬は。
別のことに。
気付いていた。
Reviewは。
今。
二つの選択を。
同時に。
残した。
選んだ未来と。
選ばなかった未来。
両方を。
「……選ばなかった方」
高瀬が。
呟く。
真壁が。
見る。
「何」
「佐伯先生は」
スマートフォンを見る。
「残った」
「そうだな」
「じゃあ」
高瀬の声が。
低くなる。
「去年の俺は?」
誰も。
答えない。
もし。
同じことが。
去年。
高瀬にも。
起きていたなら。
選んだ高瀬。
選ばなかった高瀬。
二人。
存在した。
そして。
今。
一人しか。
いない。
――ブッ。
スマートフォン。
━━━━━━━━━━━━
【Review Log】
検索結果
2件
━━━━━━━━━━━━
一件目。
━━━━━━━━━━━━
対象
高瀬悠介
状態
ACTIVE
━━━━━━━━━━━━
「……俺」
そして。
二件目。
━━━━━━━━━━━━
対象
高瀬悠介
状態
――
━━━━━━━━━━━━
文字が。
一瞬。
乱れる。
DELETED。
違う。
DUPLICATED。
違う。
UNKNOWN。
違う。
何度も。
表示が変わる。
そして。
止まった。
━━━━━━━━━━━━
対象
高瀬悠介
状態
UNSELECTED
━━━━━━━━━━━━
「……アンセレクテッド?」
藤原が。
呟く。
真壁が。
静かに訳す。
「選ばれなかった」
高瀬は。
画面を見た。
もう一人の自分。
それは。
偽物ではない。
消された自分でもない。
選ばなかった。
もう一つ。
━━━━━━━━━━━━
最終記録
昨年10月9日
00時13分
━━━━━━━━━━━━
午前零時十三分。
また。
その時刻。
そして。
最後。
━━━━━━━━━━━━
最終観測地点
高瀬悠介
自宅
━━━━━━━━━━━━
「……自宅?」
高瀬が。
呟く。
学校じゃない。
旧校舎でもない。
あの夜。
もう一人の自分は。
自宅にいた。
午前零時十三分。
高瀬の脳裏に。
最初の光景が。
蘇る。
暗い部屋。
スマートフォン。
★★★★★。
そして。
床に。
倒れていた。
誰か。
『最初に死んだのは、高瀬ではなかった。』
高瀬の呼吸が。
止まった。
「……待って」
藤原が。
高瀬を見る。
「どうしました?」
高瀬は。
答えられない。
今まで。
床に倒れていた人間を。
知らない誰かだと。
思っていた。
でも。
もし。
あの夜。
高瀬悠介が。
二人いたなら。
一人が。
立っていて。
もう一人が。
床に。
倒れていたなら。
「……俺だった?」
声が。
震えた。
「高瀬?」
真壁。
高瀬は。
画面を見る。
最後の通知。
━━━━━━━━━━━━
【Review】
質問を変更してください。
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
「最初に死んだのは誰か」
ではありません。
━━━━━━━━━━━━
一拍。
━━━━━━━━━━━━
「最初に死んだ高瀬は、
どちらの高瀬だったのか」
━━━━━━━━━━━━
高瀬は。
動けなかった。
最初に死んだのは。
高瀬ではなかった。
そう。
思っていた。
でも。
もし。
あの一文の。
意味そのものを。
自分が。
間違えていたとしたら。
画面。
最後の一行。
━━━━━━━━━━━━
Review000
死亡記録
1件
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
氏名
高瀬悠介
【End】
━━━━━━━━━━━━




