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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第二章 あなたは、誰の採点者ですか

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103/122

Review29「昨日の続きに、今日はない」

「『いつ』って」


藤原が。


高瀬のスマートフォンを見る。


「どういう意味ですか」


「分からない」


高瀬は答えた。


「でも」


画面には。


もう何も表示されていない。


去年十月。


同じ日。


同じ時刻。


入館した高瀬。


退館した高瀬。


そして。


確定できない日付。


「場所じゃない」


高瀬が言う。


「もう一人の俺が、どこにいるかじゃなくて」


「いつにいるか」


真壁が続ける。


「……そういうこと?」


「そう読める」


「でも」


藤原が。


眉を寄せる。


「それだと」


ホワイトボード。


二人の佐伯。


「佐伯先生は?」


三人。


黙る。


今。


同じ時間に。


二人いる。


学校にいる佐伯。


自宅にいる佐伯。


高瀬とは。


違う。


「同じ現象じゃない?」


高瀬が言う。


「可能性はある」


真壁。


「DUPLICATEDは同じなのに?」


「同じ表示だから、同じ原因とは限らない」


「……確かに」


高瀬は。


椅子へ座った。


一度。


全部を。


頭の中から追い出す。


そして。


最初から。


考える。


「去年」


「うん」


「俺は三日間休んだ」


藤原が頷く。


「でも夜は学校に来てた」


「記録上は」


「そのあと」


高瀬は。


一度。


止まる。


「桐谷が消えた」


空気が。


変わる。


「Review Logでは」


藤原が言う。


「桐谷先生はDELETED」


「削除実行者は」


真壁が。


高瀬を見る。


「お前」


「……うん」


高瀬は。


自分の手を見る。


何も。


覚えていない。


それでも。


記録は。


自分を指している。


「それと」


藤原が。


続ける。


「Review000」


「対象者は俺」


「状態は?」


高瀬が。


少し考える。


「最初に見た時は」


記憶を辿る。


「対象No.001」


「そのあと」


「DELETED」


「で」


真壁。


「今は?」


高瀬が。


スマートフォンを見る。


「分からない」


「なら確認する」


「どうやって?」


「検索できたんだろ」


「勝手に出ただけ」


「聞け」


「Reviewに?」


「他に誰がいる」


「態度悪いな」


「お前にだけは言われたくない」


藤原が。


二人を見る。


「仲良しですね」


「違います」


二人同時。


藤原が。


少し笑った。


ほんの数秒。


普通の空気。


その普通が。


今は。


ありがたかった。



◇



高瀬は。


スマートフォンを開く。


何もない。


アプリも。


履歴も。


いつものこと。


「Review」


声に出す。


反応なし。


「Review000について教えてくれ」


何もない。


「対象者は俺なのか?」


無反応。


「……機嫌悪い?」


「機械に機嫌を求めないでください」


藤原。


「でもこいつ結構無視するよ」


「高瀬が質問下手なんじゃないか」


真壁。


「腹立つな」


高瀬は。


一度。


息を吐いた。


質問を。


変える。


今まで。


何度も。


そうだった。


聞き方。


問い。


そこに。


意味がある。


「Review000は」


一度。


止まる。


「いつの俺だ?」


――ブッ。


三人。


同時に。


画面を見る。


「……当たり」


真壁が言った。


「クイズじゃないんだけど」


表示。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


質問を

確認しました。


━━━━━━━━━━━━


次。


━━━━━━━━━━━━


回答には、


基準日時の指定が

必要です。


━━━━━━━━━━━━


「基準日時?」


藤原。


「今でいいだろ」


高瀬が言う。


「今日」


日付。


時刻。


現在。


指定する。


画面。


数秒。


━━━━━━━━━━━━


基準日時を

確認しました。


━━━━━━━━━━━━


そして。


━━━━━━━━━━━━


Review000


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


対象者


高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━


次。


高瀬は。


無意識に。


息を止める。


━━━━━━━━━━━━


基準日時から


348日前


━━━━━━━━━━━━


「……」


藤原が。


スマートフォンを出す。


日付を計算する。


そして。


止まった。


「高瀬先生」


「何」


藤原が。


画面を見せる。


「去年の」


一拍。


「十月です」


高瀬の胸が。


重くなる。


やっぱり。


そこだ。


三日間の欠勤。


夜の出勤。


桐谷。


Review000。


全部。


同じ時期。


「日にちは?」


真壁が聞く。


藤原が答える。


高瀬は。


その日付を見た。


欠勤。


二日目。


「……二日目」


「夜の入館記録もある日ですね」


「うん」


真壁が。


腕を組む。


「Review000は」


「去年の俺」


「少なくとも、その日の高瀬」


高瀬は。


画面を見る。


「じゃあ」


質問する。


「Review000の俺は」


一度。


喉が詰まる。


「今の俺と」


同じ人間なのか。


表示。


━━━━━━━━━━━━


回答できません。


━━━━━━━━━━━━


「また?」


次。


━━━━━━━━━━━━


質問に、


定義されていない語が

含まれています。


━━━━━━━━━━━━


「何が?」


━━━━━━━━━━━━


『同じ』


━━━━━━━━━━━━


三人。


黙った。


昨日。


同じ佐伯か。


今日の佐伯か。


どちらが本人か。


そして。


今。


同じ高瀬か。


「……そこからか」


高瀬が呟く。


真壁が。


ホワイトボードを見る。


「顔が同じ」


「記憶も」


藤原。


「名前も」


高瀬。


「でも」


真壁が。


言う。


「選択が違う」


沈黙。


高瀬は。


その言葉を。


何度も。


頭の中で繰り返した。


選択。


Reviewが。


最初から。


見ているもの。


評価しているもの。



◇



放課後。


管理職の許可が。


下りた。


去年十月。


旧校舎。


電子錠の履歴。


「残ってるんですね」


高瀬が。


パソコンを見る。


「全部ではないみたいです」


藤原が答える。


古いシステム。


保存されたログ。


一部。


欠損。


それでも。


検索はできる。


【高瀬悠介】


入力。


期間。


去年十月。


検索。


三件。


「……あった」


一件目。


欠勤一日目。


20時14分。


【旧校舎二階 資料室】


二件目。


欠勤二日目。


21時03分。


【旧校舎二階 資料室】


三件目。


欠勤三日目。


「……」


高瀬の指が。


止まる。


【旧校舎二階 資料室】


18時47分。


三日とも。


同じ場所。


「資料室」


藤原が言う。


「何がある?」


高瀬。


「今はほぼ使ってない」


真壁が答える。


「去年は?」


「同じ」


「じゃあ何しに」


「行けば分かる」


真壁が。


立ち上がる。


高瀬も。


立つ。


「待って」


藤原。


二人が見る。


「一人で行かない」


「三人いるよ」


高瀬。


「確認です」


「成長を信用されてない」


「前科がありますから」


「またそれ」


三人で。


旧校舎へ向かった。



◇



渡り廊下。


新校舎と。


旧校舎を繋ぐ。


境目。


一歩進むごとに。


音が。


変わる。


生徒の声が。


遠くなる。


床の軋み。


古い壁。


窓から差す。


夕方の光。


「……なんか」


高瀬が言う。


「怖いですね」


藤原。


「藤原先生が言う?」


「怖いものは怖いです」


「真壁は?」


「帰りたい」


「一番正直」


二階。


廊下の奥。


資料室。


電子錠。


管理職から借りたカードを。


藤原がかざす。


ピッ。


解錠。


高瀬が。


扉へ手をかける。


一瞬。


頭の奥が。


痛んだ。


「……」


手が。


止まる。


「高瀬先生?」


「ここ」


「?」


「来たことある」


「記録では三回」


「そうじゃなくて」


高瀬は。


扉を見る。


知っている。


この取っ手。


この傷。


この。


扉を開ける前の。


嫌な感覚。


「覚えてる?」


真壁。


「……分からない」


「無理するな」


「うん」


高瀬は。


一歩下がる。


「藤原先生」


「はい」


「開けてもらっていい?」


藤原が。


少しだけ。


驚いた。


そして。


笑う。


「もちろん」


扉。


開く。



◇



埃。


古い教材。


段ボール。


壊れた机。


何も。


特別には見えない。


「普通」


高瀬。


「普通ですね」


藤原。


「探すぞ」


真壁。


「切り替え早」


三人で。


部屋を見る。


棚。


机。


床。


壁。


高瀬は。


奥へ進む。


何か。


ある。


そう思っているから。


全部が怪しく見える。


それでも。


一箇所。


足が止まった。


窓際。


古い机。


その端。


小さな。


円形の跡。


「……これ」


「何です?」


藤原が近付く。


高瀬は。


指で触れる。


缶。


何度も置いたような。


薄い輪。


そして。


その横。


黒い。


小さな染み。


コーヒー。


頭。


痛み。


『まだ帰らないの?』


「っ……」


「高瀬先生」


桐谷。


声。


夜。


資料室。


違う。


職員室じゃない。


ここだ。


『何でこんなとこ呼び出すんだよ』


桐谷の声。


『見せたいものがある』


自分。


『何を』


何か。


机の上。


紙。


いや。


スマートフォン。


画面。


★★★★★。


「……!」


高瀬が。


机へ手をつく。


「高瀬!」


真壁が。


肩を支える。


藤原が。


すぐ横へ。


「座ってください」


「待って」


「無理しない」


「今」


高瀬は。


目を閉じる。


「桐谷がいた」


二人が。


止まる。


「ここに?」


「うん」


「いつ?」


「去年」


断片。


もう一度。


声。


『これ』


自分が。


桐谷へ。


スマートフォンを見せている。


『何だよ、それ』


『俺にも分からない』


『レビュー?』


『昨日から出る』


「……昨日から?」


高瀬が。


呟く。


藤原が。


聞き返す。


「何です?」


「俺」


目を開ける。


「去年も」


息が。


震える。


「Reviewを見てた」


誰も。


言葉を発さない。


Reviewは。


三日前から。


始まった。


そう。


思っていた。


でも。


違う。


去年。


すでに。


高瀬は。


Reviewを知っていた。


そして。


桐谷に。


見せていた。


「……じゃあ」


藤原が。


ゆっくり言う。


「今が」


その先を。


言えない。


高瀬の頭に。


一つ。


浮かぶ。


LOOP。


2。


「二回目」


高瀬が。


呟いた。


その時。


スマートフォンが。


震えた。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


記憶復元


9% → 12%


━━━━━━━━━━━━


次。


━━━━━━━━━━━━


関連人物


桐谷


━━━━━━━━━━━━


そして。


━━━━━━━━━━━━


記録を

一件復元しました。


━━━━━━━━━━━━


「記録?」


高瀬が。


画面を見る。


動画。


一本。


撮影日時。


去年十月。


欠勤二日目。


21時11分。


「……ここだ」


場所。


この資料室。


藤原が。


高瀬を見る。


「再生します?」


高瀬は。


迷った。


頭痛。


昨日。


記憶復元で。


死にかけた。


「……」


以前なら。


押した。


一人で。


何も考えず。


でも。


「二人とも」


高瀬が言う。


「ここにいて」


藤原が。


頷く。


「はい」


真壁も。


「最初からそのつもり」


高瀬は。


再生を押した。


画面。


暗い。


揺れる。


机。


そして。


声。


『撮れてる?』


桐谷。


『多分』


高瀬。


映像の中。


去年の高瀬が。


カメラの前へ座る。


隣。


桐谷。


生きている。


笑っている。


『何か言う?』


桐谷が聞く。


『何で』


『記念』


『何の』


『高瀬がおかしくなった記念』


『消すぞ』


『怖』


今の高瀬は。


声を失った。


藤原も。


真壁も。


画面を見ている。


去年の自分。


去年の桐谷。


映像の高瀬が。


笑わなくなる。


『……じゃあ』


桐谷も。


表情を変える。


『始めるか』


『うん』


『確認』


桐谷が言う。


『昨日と同じなら』


高瀬が。


答える。


『また来る』


『何時』


『零時十三分』


現在の高瀬の。


呼吸が止まった。


午前零時十三分。


その時刻。


知っている。


第1話。


最初。


暗い部屋。


★★★★★。


床に。


誰かが。


倒れていた。


映像の桐谷が。


カメラを見る。


そして。


言った。


『これを見てる高瀬』


「……」


『もし』


桐谷の顔から。


完全に。


笑みが消える。


『俺のことを覚えてないなら』


一拍。


『絶対に』


映像が。


乱れる。


ノイズ。


それでも。


声だけ。


残る。


『Review000を――』


途切れた。


「……何?」


高瀬が。


スマートフォンへ近付く。


「何て言った?」


映像。


戻らない。


最後。


数秒。


真っ暗。


そして。


桐谷ではない。


もう一人。


声。


高瀬自身の声だった。


『桐谷』


現在の高瀬が。


固まる。


映像の中の自分が。


言う。


『次は』


一拍。


『俺を信じるな』


動画。


終了。


誰も。


動かなかった。


藤原が。


ゆっくり。


高瀬を見る。


真壁も。


見る。


高瀬は。


真っ暗になった画面に。


映る自分を見る。


去年の自分が。


残した言葉。


桐谷を。


忘れた未来の。


自分へ。


『俺を信じるな』


その瞬間。


新しい通知。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


過去のあなたから、


評価が届いています。


━━━━━━━━━━━━


高瀬は。


画面を見る。


━━━━━━━━━━━━


評価者


高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━


そして。


レビュー本文。


たった。


一行。


━━━━━━━━━━━━


「次の俺へ。


 また間違えたら、ごめん」


【End】


━━━━━━━━━━━━

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