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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第二章 あなたは、誰の採点者ですか

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101/121

Review27「どちらも本人」

「……佐伯?」


電話を取った教師が。


もう一度。


受話器の向こうへ確認する。


「はい。少々お待ちください」


そして。


目の前の佐伯を見る。


「佐伯先生」


「……はい」


「お電話です」


誰も。


動かなかった。


高瀬。


藤原。


真壁。


そして。


佐伯本人。


四人とも。


受話器を見ていた。


「誰からですか」


佐伯が聞く。


教師は。


明らかに困っていた。


「だから」


一度。


言いにくそうに。


「佐伯先生から」


「……」


佐伯が笑った。


乾いた。


笑いだった。


「何ですか、それ」


「私も分からなくて」


「同姓の人じゃないですか?」


「フルネームで名乗ってます」


笑顔が。


消えた。


高瀬は。


ポケットの中のスマートフォンを見る。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


警告。


二人を、


会わせないでください。


【End】


━━━━━━━━━━━━


「……」


会わせない。


目の前の佐伯。


電話の向こうの佐伯。


つまり。


Reviewは。


電話の相手を。


少なくとも。


『佐伯』として認識している。


「高瀬先生」


藤原が。


小さな声で呼ぶ。


「はい」


「どうします?」


高瀬は。


受話器を見る。


そして。


目の前の佐伯を見る。


「佐伯先生」


「……はい」


「ここにいてください」


「え?」


「電話」


高瀬は言った。


「俺が出ます」


「何でですか」


「確認したいことがあります」


「俺の電話ですよ?」


「分かってます」


「だったら」


佐伯が。


受話器へ手を伸ばす。


「俺が――」


「駄目です」


高瀬は。


その手を止めた。


佐伯が。


高瀬を見る。


「……何で?」


答えられない。


『あなたが二人いるから』


そんなことを。


どう説明する。


「今は」


高瀬は。


佐伯を見る。


「俺に任せてください」


「……」


佐伯は。


明らかに納得していなかった。


それでも。


手を引いた。


高瀬は。


受話器を取る。


「代わりました」


数秒。


雑音。


そして。


『……高瀬先生?』


高瀬の指が。


受話器を強く握った。


声。


同じだった。


目の前の佐伯と。


「……はい」


『よかった』


電話の向こうで。


息を吐く音。


『高瀬先生』


「はい」


『今』


一拍。


『学校にいますか?』


「います」


『……佐伯は?』


高瀬は。


目の前の佐伯を見る。


佐伯も。


高瀬を見ている。


「……います」


電話の向こうが。


黙った。


長い。


沈黙。


『やっぱり』


「何がですか」


『出勤してるんですね』


「……」


知っている。


電話の相手は。


もう一人が学校にいる可能性を。


最初から。


知っていた。


「あなた」


高瀬は。


声を落とす。


「誰ですか」


『……』


「名前じゃなくて」


藤原と。


真壁が。


高瀬を見る。


「あなたは」


ゆっくり。


聞いた。


「昨日、何をしました?」


電話の向こう。


数秒。


そして。


『退職届を書きました』


高瀬の心臓が。


強く鳴った。


『高瀬先生の前で』


「……」


『自分で』


「はい」


『自分の意思で』


昨日。


確かに。


聞いた言葉。


『それから』


電話の声が。


少し震える。


『家に帰りました』


「そのあと?」


『寝ました』


「今日の朝は?」


沈黙。


『起きたら』


一度。


息を吸う音。


『職員室にいたんです』


「……何?」


『正確には』


声が。


震える。


『職員室にいる俺を、見ました』


高瀬は。


何も言えなかった。


「どこで?」


『家です』


「どうやって」


『分かりません』


「見たって」


『スマホです』


「……」


『写真が届いたんです』


高瀬の背中に。


冷たいものが走る。


「誰から?」


『俺からです』


「……は?」


『送信者が』


電話の向こうの佐伯が言う。


『俺の番号なんです』


高瀬は。


目の前の佐伯を見る。


「佐伯先生」


「……はい?」


「スマホ」


「え?」


「見せてもらえますか」


「何で」


「お願いします」


佐伯は。


困惑しながら。


スマートフォンを取り出した。


高瀬に渡す。


写真。


メッセージ。


履歴。


「……ない」


自分自身へ。


何かを送った記録は。


ない。


「高瀬先生?」


佐伯が聞く。


高瀬は答えず。


電話へ戻る。


「写真」


『はい』


「今もありますか?」


『あります』


「送ってください」


『どこに』


「俺に」


数秒後。


高瀬のスマートフォンが震えた。


メッセージ。


画像。


開く。


職員室。


今朝。


佐伯が。


自分の机に座っている。


パソコンを開いている。


その姿。


高瀬が。


今朝見たものと。


同じ。


ただ。


一つだけ。


違った。


写真の右下。


時刻。


午前六時四十二分。


「……六時四十二分」


藤原が。


横から見る。


「その時間」


「まだ学校開いてない」


真壁が言った。


「少なくとも、佐伯は入れない」


高瀬は。


目の前の佐伯を見る。


「今日」


「はい」


「何時に来ました?」


「七時半くらいです」


「その前は?」


「家にいました」


電話の向こうから。


声。


『嘘だ』


目の前の佐伯の表情が。


変わる。


聞こえた。


受話器から漏れた声。


自分と。


同じ声。


「……誰?」


佐伯が。


一歩。


近付く。


高瀬は。


受話器を遠ざけた。


「高瀬先生」


「待ってください」


「誰なんですか」


「今は」


「俺の声でしたよね?」


「……」


「誰ですか!」


職員室の視線が。


集まり始める。


藤原が。


すぐに動いた。


「佐伯先生」


「でも」


「場所を変えましょう」


「藤原先生も知ってるんですか?」


「……」


答えない。


それが。


答えになった。


「何なんですか」


佐伯の声が。


震える。


「俺に何が起きてるんですか」


高瀬は。


受話器を握ったまま。


言葉を探した。


分からない。


何一つ。


説明できない。


その時。


電話の向こうから。


『高瀬先生』


「……はい」


『そっちの俺に』


「……」


『一つだけ聞いてください』


「何を」


『昨日』


一拍。


『退職届を書いた理由を』


高瀬は。


目の前の佐伯を見る。


「……佐伯先生」


「はい」


「昨日」


「……」


「退職届を書いたとしたら」


佐伯の眉が。


わずかに動く。


「何でだと思います?」


「……」


「辞めたい理由」


「だから」


佐伯は。


少し苛立ったように。


「俺は辞めません」


「仮にです」


「……」


「仮に」


高瀬は。


まっすぐ見る。


「あなた自身が」


一拍。


「辞めると決めたなら」


佐伯は。


黙った。


五秒。


十秒。


やがて。


「……疲れたから」


高瀬の表情が。


変わる。


「何に?」


佐伯は。


答えようとした。


でも。


口が。


止まった。


「……何に?」


「……」


「佐伯先生?」


「分からない」


「え?」


佐伯自身が。


一番驚いていた。


「何で」


自分の胸元を。


押さえる。


「俺」


呼吸が。


少し速くなる。


「疲れてるんだ?」


「……」


「何で」


目が。


揺れる。


「辞めたくないのに」


一度。


息を吸う。


「辞めたいって」


自分の口から出た言葉に。


佐伯自身が。


固まった。


「……俺」


小さく。


「今」


「はい」


「辞めたいって言いました?」


高瀬は。


すぐには答えられなかった。


「……言いました」


佐伯が。


自分の頭を押さえる。


「おかしい」


藤原が。


そっと近付く。


「佐伯先生」


「おかしいですよ」


「一回座りましょう」


「俺は」


佐伯は。


高瀬を見る。


「どっちなんですか」


「……」


「辞めたいんですか」


声が。


震える。


「辞めたくないんですか」


誰も。


答えられなかった。



◇



空き教室。


目の前の佐伯は。


藤原と一緒にいる。


高瀬と真壁は。


廊下。


電話は。


まだ切れていない。


『……やっぱり』


電話の佐伯が。


静かに言った。


「何がですか」


『俺と同じです』


「同じ?」


『昨日』


声。


『退職届を書く直前まで』


一度。


止まる。


『俺も、自分が辞めたいのか分からなかった』


「……」


『でも』


「はい」


『高瀬先生に聞かれて』


高瀬は。


昨日を思い出す。


本人の意思。


誰かが決めた記録じゃない。


佐伯自身が。


選ぶ。


『やっと』


電話の向こう。


『自分で決めたんです』


「……」


『辞めるって』


高瀬は。


目を閉じる。


それを。


現実が。


消した。


記録も。


記憶も。


本人の選択さえ。


「今どこですか」


『家です』


「住所は?」


『高瀬先生』


「はい」


『来るんですか』


「行きます」


真壁が。


高瀬を見る。


でも。


止めなかった。


『でも』


電話の佐伯が。


言う。


『Reviewは』


「……」


『会うなって言ってるんですよね』


高瀬の表情が。


変わる。


「何で」


真壁も。


顔を上げる。


「それを知ってるんですか」


電話。


沈黙。


『……え?』


「俺」


高瀬は。


声を低くする。


「Reviewの話」


一度。


記憶を確認する。


「あなたにしましたっけ」


『……』


「佐伯先生?」


長い。


沈黙。


『してません』


「じゃあ」


『分かりません』


「何で知ってる」


『分からない』


声が。


本当に。


混乱している。


『でも』


「……」


『知ってるんです』


高瀬は。


壁へ背を預けた。


Review。


本人確認。


二人の佐伯。


そして。


電話の佐伯は。


知らないはずのReviewを。


知っている。


「真壁」


高瀬が。


受話器を押さえる。


「何」


「どう思う」


「分からん」


即答。


「珍しいな」


「分からないものを分かったふりする方が嫌いだ」


「……だな」


「ただ」


真壁が。


教室の中を見る。


佐伯。


藤原。


「一つだけ」


「何」


「どっちが偽物かって考えるのは」


高瀬を見る。


「やめた方がいい」


「……」


「理由は?」


「Reviewが」


真壁は。


高瀬のスマートフォンを見る。


「『本人が二人存在する』って言ったんだろ」


「うん」


「なら」


一拍。


「少なくともあれは」


静かに言った。


「片方を偽物とは呼んでない」


高瀬は。


何も言えなかった。



◇



昼。


高瀬。


藤原。


真壁。


三人だけ。


小さな会議室。


ホワイトボード。


藤原が。


二本の線を引く。


左。


【学校の佐伯】


右。


【自宅の佐伯】


「分かってることだけ」


藤原が言う。


「推測はあと」


「はい」


高瀬が。


左へ書く。


【退職届を書いた記憶なし】


右。


【退職届を書いた記憶あり】


真壁。


左。


【退職意思なし】


少し考え。


右。


【退職意思あり】


藤原。


左。


【現在、学校に勤務】


右。


【現在、自宅】


高瀬が。


最後。


両方に。


同じ言葉を書く。


【佐伯】


三人。


それを見る。


「顔」


藤原。


「同じ」


「声」


「同じ」


「過去の記憶」


「今確認できる範囲では」


高瀬が言う。


「ほぼ同じ」


「家族構成」


「同じ」


「生年月日」


「同じ」


「昨日の途中までは?」


「同じ」


真壁が。


ペンを取る。


二本の線。


その間。


一箇所だけ。


丸をつける。


【退職届】


「ここ」


「……」


「ここから」


真壁が言う。


「分かれてる」


高瀬は。


ホワイトボードを見る。


一人の佐伯が。


退職を選んだ。


もう一人の佐伯が。


退職を選ばなかった。


「選択」


高瀬が呟く。


藤原が。


振り返る。


「何です?」


「最初」


「?」


「Reviewに」


高瀬は。


ずっと昔のように感じる。


あの日。


届いた。


死亡予告。


『死亡原因は――あなた自身の選択です』


「選択って」


高瀬は。


ホワイトボードを見る。


「結果を変えるだけじゃないのかも」


「どういう意味ですか」


「分からない」


でも。


事故の時。


高瀬が。


Reviewの指示に逆らった。


未来が変わった。


そして。


修正が始まった。


今回。


佐伯が。


退職を選んだ。


なのに。


その選択をしていない佐伯が。


残った。


「もし」


高瀬が。


ペンを持つ。


二本の線。


分岐点。


「選ばなかった方も」


一度。


止まる。


「消えてないとしたら」


藤原の顔から。


表情が消える。


真壁も。


黙った。


その瞬間。


高瀬のスマートフォンが。


震えた。


――ブッ。


画面。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「……五つ?」


次。


━━━━━━━━━━━━


正解ではありません。


━━━━━━━━━━━━


「は?」


━━━━━━━━━━━━


ですが。


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


初めて、


正しい質問に

近付きました。


━━━━━━━━━━━━


高瀬は。


画面を見る。


「正しい質問……」


次。


━━━━━━━━━━━━


質問を変更してください。


━━━━━━━━━━━━


高瀬の心臓が。


一度。


強く鳴った。


昔。


同じことを。


言われた。


『死ぬのか』


ではなく。


『なぜ、自分は死ぬのか』


「……何を聞けばいい」


画面。


━━━━━━━━━━━━


「どちらが本人か」


ではありません。


━━━━━━━━━━━━


藤原が。


息を呑む。


次。


━━━━━━━━━━━━


「なぜ、


どちらも本人なのか」


━━━━━━━━━━━━


「……」


そして。


もう一行。


━━━━━━━━━━━━


その答えを、


あなたは一度、


確認しています。


━━━━━━━━━━━━


高瀬の呼吸が。


止まった。


「……一度?」


藤原が。


画面を見る。


「いつ?」


高瀬には。


分からない。


去年。


桐谷。


Review000。


消された記憶。


LOOP 2。


何か。


繋がっている。


その時。


画面が。


切り替わった。


Reviewではない。


黒い画面。


白い文字。


━━━━━━━━━━━━


【Review Log】


検索結果


2件


━━━━━━━━━━━━


一件目。


━━━━━━━━━━━━


対象


佐伯


状態


DUPLICATED


━━━━━━━━━━━━


「……複製?」


藤原が。


呟く。


そして。


二件目。


高瀬の顔から。


血の気が引いた。


━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━


「……俺?」


真壁が。


高瀬を見る。


表示。


━━━━━━━━━━━━


状態


DUPLICATED


━━━━━━━━━━━━


誰も。


言葉を発さなかった。


佐伯だけじゃない。


高瀬も。


同じ。


複製されている。


いつ。


どこで。


もう一人の自分が。


存在した。


高瀬には。


記憶がない。


画面。


最後の一文。


━━━━━━━━━━━━


照合対象を

確認しますか?


━━━━━━━━━━━━


YES


NO


高瀬は。


YESを見た。


押せなかった。


なぜなら。


その下。


一瞬だけ。


別の文字が。


浮かんだから。


━━━━━━━━━━━━


照合対象


Review000


━━━━━━━━━━━━


そして。


高瀬の頭の中で。


忘れていたはずの声が。


聞こえた。


『先生って』


少年の声。


『明日死ぬって分かったら、どうします?』


高瀬は。


息を呑んだ。


第一話。


あの日。


名前を。


思い出せなかった。


あの生徒。


声だけが。


今。


昨日のことのように。


鮮明だった。


「……お前」


高瀬が。


誰もいない場所へ。


呟く。


「誰なんだよ」


スマートフォン。


暗転。


その直前。


たった一行。


━━━━━━━━━━━━


Review000


対象者名


――高瀬悠介


━━━━━━━━━━━━


【End】

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