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2, 聖女は違和感と共に、能力に目覚める

 私はある日を境に、周囲に対して違和感を覚えるようになりました。

 どこか話が噛み合わないのです。

 つい昨日まで、私と似た境遇で婚約を期待された友人とともに、愚痴を溢していたかと思えば、次の日には婚約成立。

 勉強しないと偽って、実は裏では勤勉に取り組んでいた、ツメを研ぎ澄まして隠していたみたいな話が現実にあったのかと、最初は思ったものです。

 けれど、どうにも違うようです。

 さも私の友人は素直で可愛らしい性格をしていて、隠し事がとても上手だとは思えませんでした。

 その上同じように違和感を覚えたのは、彼女だけではありません。

 他の方も同様に、私が思っていたよりも先に事が進んでいました。


 このまま魔物に化かされているような、日々が続いていくかと思われましたけれど。

 ふと私の家の使用人に日付を尋ねてみると、私の感じていた異変についてヒントを得られました。


 なぜか一致しませんでした。

 私が考えてた日時と数年単位でズレていたのです。

 そして、その間の記憶も一切ありません。

 母から受けたであろう辛い事象も、何もかも綺麗さっぱりに。


 道理で他者との会話が合致しないわけです。

 しかしそうなってしまった理由が全く分かりませんでした。



 それからというものの、母からの婚約に対しての圧力に耐えながら、聖女としてのお務めもあったため、救いを求める者たちに対して私は祈りを捧げていました。

 ある方のお悩みを受けた際、おかしな現象が起こりました。

 私が悩みを解消したいと願った際に一瞬だけ、相談者の身体が発光したように感じたのです。


 その現象を訝しみながらも、儀式は続けておりました。

 儀式後、相談者に発光のことを伝えてみたのですが、何事もなかったと変わらぬご様子で儀式に満足されて帰られました。

 私の勘違いだったのでしょうか。

 不思議な光景だったなと、その時はあまり気にすることもなかったのですが。


 この現象はその方限りの話ではなかったのです。

 別の相談者に対して、私が祈りを捧げた際も同様に発光しました。

 二人、三人、四人と続いていき、その誰もが異変には気付かない。


 さすがにこうも続けざまに、同じ現象を目の当たりにした私も不審に思い始めた矢先。

 最初に発光された方が、再び私の元へと訪れました。


 対面してからすぐに私の手を取って、二十年以上患っていた大病が完治したと泣いて喜ばれておりました。

 当然、私も一緒になって喜ぶのと同時に——大層、驚いたものです。

 最初彼に会った時に、一人目の相談者であると気付きませんでした。


 その男の人は始め五十代、どんなに若くても三十代後半の年齢かと思っていたのですが。

 再び私と出会った時には、二十代と言ってもおかしくはないくらいに若々しく感じました。

 それについても、「聖女様のご加護のおかげです!」と思わぬ副産物を得られて、とても満足されていましたけど。


 私にとってはこれが初めてのことでした。

 これまで祈りを捧げたことによって、こんなにも目に見える形で効果が出たことはなかったのです。

 祈りによって、人の精神が救われることはあっても、現実的にどうしようもないものを変えることはできない。


 私もまだ疑いを持っていました。

 これは本当に、私の影響によって施されたものなのかと。

 そして他の相談者の方からも、面会を求められました。


 二人目の相談者はご夫婦の方でした。

 夫が冒険者稼業をされていて、別の冒険者が遠方の高難易度クエスト受けて、帰らぬ人となられてしまったそうです。

 彼は冒険者の中では名の知れた存在で、飛ぶ鳥を落とす勢いで次々に討伐クエストを成功させる凄腕でした。

 しかし、今回の一報を知り、夫の心の中に一つのトラウマを植え付けてしまいます。

 彼にとって憧れの存在である冒険者が、高難易度クエストとはいえあっさりとやられてしまった。

 このまま勢いに任せたままでは、いずれ自分も同じ運命を辿ってしまう。

 日が経つに連れ、そんな夫の弱気な部分は肥大化していき、やがてはクエストを受けることに恐怖を覚えていました。


 そこで私への相談としては、この心の問題を解決して欲しいとのことでした。

 そして私は祈りを捧げます——彼のトラウマを取り除きたいと。


 そうして彼はまた冒険者稼業として、復帰することが叶いました。

 とても感謝され、嬉しそうにご報告も受けました——しかし。

 今度は一人目の方と違って、望まぬ弊害も起こってしまっているようでした。


 トラウマ自体は完全に消え去っている、そこまでは良かったのですが。

 トラウマを抱えた後の記憶も、完全に失われていました。

 つまりは憧れの冒険者が亡くなられたという事実も、トラウマを抱えて以降の妻と過ごしてきた日々も全て忘れられていたのです。


 ご夫婦——特に奥様はこの弊害について困惑されておりました。

 しかしながら、夫の記憶から完全に妻の存在が消えていたわけではありません。

 トラウマ以前から育まれた愛情は、今も残り続けています。

 一時的な記憶障害かもしれないと、お互いに納得してしばらく様子を見るしかありませんでした。

 私にもなぜこのような現象が起こっているのか、情報を集める必要があります。


 三人目、四人目と祈りによって生じた発光を受けた方々にお話を伺いに行くと、これまでと同じように大変感謝されました。

 三人目の方は転落による脚の骨折で、無事完治しましたが、四人目の方は二人目の方と同じように記憶の喪失が見受けられました。

 この方も二人目の相談者と同じような精神的なお悩みです。

 悩みの部分において、改善は見られたのですが、なぜなのでしょう?

 この時はまだ、首を傾げるしかありません。


 それからこの頃になると、聖女としての行いが噂を呼び始めて、新たな相談者が次々と現れるようになっていきました。

 ですが、正直に言って現状よく分からない力を行使するのは気が引けます。

 しかし皆様から向けられる期待や眼差しに応えたいという思いの方が上回り、これまでにないほどの手応えも、私自身感じていました。

 それに結果でお応えした後、感謝されるのが嬉しくて祈りを続けた結果。

 何となくですが、この力に対して仮説を立てることができました。


 恐らく祈りによって、彼らの時間は巻き戻っている。

 便宜上この力を『リセット』と呼ぶことにします。

 この『リセット』の影響によって、病気やケガを発症や負傷以前の状態へと”回復“ではなく”戻っている“という推察。

 その弊害として、一人目の方は二十代近くまで若返ってしまったと考えます。

 彼は確か二十年以上、病と闘い続けていたようですから、その年月元に戻ってしまわれたのでしょう。


 三人目の方ですが、一人目の方に比べてケガを負った期間が短い。

 それによって肉体には大した変化がなく、気づきにくかったですが三人目の方も、恐らく弊害として怪我する前までは若返っているのでしょう。


 そして二人目と四人目の方々。

 彼らは他の二人とは違い、精神的な部分での悩みは合致します。

 よって、『リセット』の影響はトラウマを抱える以前まで記憶が戻されている。

 その弊害として、彼らは精神的に支障をきたした後の記憶も失われてしまったのだと考えられます。


 この『リセット』は悩みに応じて『肉体』と『記憶』の両面から使い分けることが可能なようです。

 けれど一見、便利そうな力に見えて非常に大きなリスクも伴っています。


『リセット』使用するには、事象が発生した起点となる時期が、最も重要になってきます。

 病気やケガが発生した時期が、現在から何年も前になるほど、肉体への影響も大きくなる。

 一人目の方は、若返ったと感じてしまうほど、肉体が巻き戻ってしまいました。

 場合によっては、子供の姿まで戻ってしまうことも。


 記憶に関しても同じです。

 それに恐らく、肉体以上に『記憶のリセット』はタチが悪い。

 悩みは解決できても『肉体のリセット』とは異なり、時間の経過とともに元の記憶が戻ることはありません。

『リセット』によって、戻った起点からまた新たな記憶が作られていくでしょう。

 故に失われた記憶が戻ることはありません。

 辛い時期を過ごしたとしても、そこには大切な記憶もあったはず。

 それに関しては、『記憶のリセット』を施した方たちには申し訳ない気持ちで一杯です。


 私は『リセット』を実行した全ての方々に謝罪を行いました。

 私自身も知らなかったとはいえ、実験的なことをしてしまったのです。

 当然、罪の意識はありました。


 大半の人——主に『肉体のリセット』を受けた方々は全く気にするそぶりもなく、むしろ若返ったことに喜び感謝される一方で。

『記憶のリセット』を行った人たち、主にその家族の人たちは複雑な思いを抱いているご様子。

『リセット』については上手く隠しつつ、記憶が戻らないかもしれないことを告げました。

 けれど『記憶のリセット』を受けた当の本人たちは、現状に満足されているようで、優しい言葉を掛けていただけました。

 これからも聖女として祈りを捧げ続けて欲しいと——

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