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39 寿司とカルフォルニアロール

「さっそく、かんざしの試作品を見てもらえるかしら」

 会が始まって早々、マノンが言った。


 そして、4人の女性が入ってきた。そこだけが一気に華やかになる。


 昨日カトリーヌと話した着物の色に合わせたドレスに、それぞれ違う形のお団子あたまにかんざしをさしている。


 桜のかんざしは、十数個の桜が咲き誇っており、そこから肩につくほど長い下がりが4、5本が垂れている。これが、一番上に重ねられたレース素材で、ふわっとした淡いピンクのワンピースによく似合っている。

 この桜よりも一回り小さい花が、さらにたくさん密集していて、こんもりとしているのが紫陽花だ。これなら、色合いを変えて、いくつか並べてつけて、満開の紫陽花らしくしてもらってよさそうだ。前のふたつと違い、菊は黄色い大輪がひとつと葉っぱが2枚だけ。その分、大きさはダントツで、手のひらほどあり、赤いワンピースに負けない存在感を発揮している。最後の椿は、紅白が各1輪のみ。雪をイメージした白いワンピースの女性の頭の上に咲き誇っている。


 私が思い描いたまま、というわけではなかったが、もう展示できそうな出来だった。さすが工房の職人たち。試作品といえども、私が作ったものなんか比べものにならないほど完成度が高く、美しい。私は、気づいたことや足りない部分は伝えたものの、基本的にはこれで大丈夫だろう。これで髪飾り自体が間に合わないということはなさそうだと、ひとまず安堵した。



「さらに、見せたいものがあるの」

 マノンが言った。


「もしかして……」

 カトリーヌが、椅子から立ち上がる。


「そうなの。昨日カトリーヌから聞いた話をもとに「ユカタ」を作ってみたんだけど、どうかしら?」

 マノンは、その場にはいなかったクララを呼んだ。

「デザイナーのエロディがはりきってくれて、山のようにデザイン画を書いてくれてね。」

 マノンの手には何十枚ものデザインがあった。

「ここから、一番それらしいものを作ってみたのよ。結構、よく出来たと思うんだけど――」


 小応接間の扉が開き、水色の衣装をまとったクララが入ってきた。


「C’est magnifique ! J’en veux un aussi !(素敵!これ、私の分も作ってほしい)」と、手を叩きながら歓声をあげるカトリーヌの横で、「C’est… un peu particulier.(ずいぶんと変わっているのね)」とクレモンスがつぶやく。


 そして、私。


 何か違う。基本パーツは同じなんだけれど、全く浴衣という感じがしない。別物だ。

 あえていうなら「Yukata」だろうか。


 何と反応すればいいのか言葉に詰まっていたら、

「Qu’en pensez-vous, Maïka ? C’est bien comme ça ?(舞花はどう思います?こんな感じなんですか?)」

 と、アントワーヌが逃げ道をふさぐように尋ねてきた。


「C’est un peu différent… mais c’est joli.(ちょっと違うけれど、きれいね)」

 思わず言葉を濁したが、それを許さないのがアントワーヌ。

「Plus précisément ?(具体的にはどこですか?)」


「えっと...」

 服の用語が分からない私は、変な箇所を指さしていく。


 このYukataは、前開きのワンピースであって、

 浴衣とは全体的に違う。


 襟っぽくなっている胸元

 開口部がかなり広くなっているだけの袖

 細すぎる帯

 レースが付けられ、末広がりになっている裾


 その指摘をマノンたちは、怒ることなく、メモしながら、真剣に聞いている。あんなにたくさんデザイン案を書いてくれたエロディはどう思うのだろう。


「ごめんなさい。」

 罪悪感にかられた私は思わず謝った。


「どうして舞花が謝るの?私たちはどんな服か知らないのだから、間違っていて当然だし、あなたが指摘しなければ、正しいものがわからないままだわ。きちんと作るための試作品よ。どんどん直してちょうだい。もちろん完ぺきに再現というのは難しいと思うけど、なるべく近づけるように、ここは遠慮しないでいきましょう。」

 合理主義のマノンらしい言葉で励ましてくれた。


「でも、舞花の気持ちもわかるわ。だって、こんな素敵な服に文句をつけなければいけないっていうのは、いい気がしないわよね。」

 カトリーヌが彼女らしい言葉で背中を押してくれる。


 エロディのデザインしたYukataは着物風のワンピースとして完成しており、かわいくて、これはこれで捨てがたい。でも、デモンストレーションで求められているのは、日本の浴衣だ。今回は違う。そう思って、私は切り出した。

「実は、私も作ってきたの。」

 昨夜、夜な夜な紙で作った浴衣をみんなに見せた。といっても、長方形の紙をつなぎ合わせただけだ。


「浴衣って、思っていた以上にシンプルなのね。型紙を裁断したときに、無駄になる部分がほとんどなさそうね。あったとしても、長方形だから他に活用しやすそう。」

 クレモンスの言葉に、私も一緒になって、なるほどとうなずいていると、先ほどから何かを作っていたクララが尋ねてきた。


「こんな感じでしょうか。」

 いつの間にか、クララは布でミニチュアの浴衣を作っていた。今度は少し違和感はあるものの「浴衣」という感じがした。そこに別の布で帯を足していく。


「この帯の下で布を折っているから、サイズは変えられるの。」

「肩幅って、身丈よりも個人差が少ないから、サイズのバリエーションが少なくてすむのね。すごく合理的ね。これって、オーダーメイドで作っているの?それとも既製服?」

 商人のマノンの目が光った。が、私は話が進むにつれて、理解が怪しくなってきて、答えにつまるようになってきた。


「浴衣は伝統的な衣装で、お祭り時にしか着ないの。」

「ええ、残念ね。」

「昔から特別な日用の衣装だったということでしょうか。何か形などに意味が込められていたりしますか。」

 カトリーヌが残念がっている横で、アントワーヌがここぞとばかりに深掘りをしてくる。

「昔は毎日浴衣やもっと複雑な着物を着ていましたが、今は着ていません。」

「では、現在の衣装は我々と変わらないものですか?」

「そういうわけでは……」


「時間がないから、話を戻すわよ」

 マノンの言葉で話題は再びデモンストレーションの方に戻っていった。


 浴衣が形になり、デモンストレーションの内容も具体的になっていった。秋のサロンまで残り1週間しかない。けれど、これならマキシミリアンへの報告も制作期日も問題なさそうだ。



 みんなが出ていったあとの部屋をジョゼットとアントワーヌと一緒に片づける。机の片隅にはエロディのデザイン画の山が残されていた。あんなにたくさんのデザイン画を書いてくれたエロディたちには悪いけれど、Yukataを見た時にはどうしたものかと思った。


 マノンが、一番近いものを作らせたと言っていたっけ。パラパラとめくると、バスローブっぽいものもあれば、マーメードドレスに近いものもあり、思わず笑ってしまった。浴衣の話からこんなにも色んなものが思いつくなんて、面白すぎる。


「On les jette?」(捨てますか?)

「Attends, je les garde.」(とっておくわ)

 なんだか捨てられなくて、私はこの山を引き取ることにした。

火曜日・木曜日・土曜日の21時前に更新しています。

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