番外編:ご機嫌な王女様
「あらあら。ずいぶんと面白いことになっていたのね」
「リュレイラには面白いことなんだね」
「もちろんですわ、お父様」
ちっとも顔を出しに来ないシュトレリウスたちを迎えに行かせたら、約束をしていた国王様をそっちのけで睨み合っていたなんて。
面白いという表現以外、適切な言葉はありません。
「メイリアさんを妻に、ねえ……」
「そうなんですよ、リュレイラ様。いやぁ驚きました」
近くで一部始終を見ていたデーゲンシェルムが、わたくしとお父様と同じテーブルで紅茶を飲みながら首を振って話していきます。
蒼い瞳が輝いていることからも、デーゲンシェルムも面白がっているみたいです。
そうよね、最高に楽しくなってきたわね!
椅子から乗り出しそうな興奮を、紅茶を飲んで落ち着かせます。
うぅーん、王女様って面倒ね。
「それにしても、いくら奥様を亡くされて十年以上経っているからって……。自分の娘と歳の違わない人を後妻に迎えようとするなんて、デュラーさんは何を考えているのかしら?」
「シュトレリウス様に対しても物怖じしなかったメイリアさんですからね。立ち向かってくる根性を気に入ったんじゃないですか」
わたくしの前ではしたことがないけれど、デーゲンシェルムを蹴りつけ舌打ちまでしたメイリアさんを思い出してわたくしも頷きました。
初めて見た人には相当な衝撃でしょう。
「最初っから喧嘩腰でしたしね。言動のすべてが新鮮で、かつ自分に対してまったく引かないという好みドンピシャな女性が目の前に現れたら、そりゃあ求婚するでしょう」
「……そう」
たまにお城で会って話す二人は、どうやら同類のようだと薄々感じてはいましたけれど。
見た目がよくて家柄も問題なく、かつ歴史的にも珍しい白金の髪を持つ自分に素っ気ない態度を取り続けるメイリアさんを気に入っているデーゲンシェルムと。
急にのし上がってきたデュラー家に対して警戒するか取り込もうと近付く人しか周りにいない中で、喧嘩を売った上にまったく一歩も引かない、自分の娘と歳の違わない少女を気に入ったベリウス・ショウ・デュラー。
「私にそちらの趣味はありませんけれど、そういう人を屈伏させるのが好きな人もいますからね」
「それがデュラー家のご当主様、というわけね」
お城でなんの話をしているのだと、国王であるお父様がデーゲンシェルムを呆れた視線で見つめています。そこはわたくしも突っ込みたいことですけれど、長くなりそうなので置いておきます。
前々からデーゲンシェルムの話に出ていたデュラー家の当主の趣味でしたので、メイリアさんを会わせないようにしたほうがいいと、シュトレリウスに存在を薄くする魔法を掛けたら?と言っておいたのに……。
「まあ、それで大人しく黙っているメイリアさんではないですからね」
「そのおかげで今の事態になっているのに、シュトレリウスは相変わらずのようだし」
お城の中でも人の少ない廊下でのやり取りだったから、シュトレリウスが結婚をしていることは広まらなかったけれど。その後にデュラー家の当主がしたことで、お城では妙な噂が流れているのです。
それが真実なのだから仕方がないとはいえ、ちょっと困った事態ではありますね。
「ところでクソロリコンってどういう意味かしら?」
「違いますよ、リュレイラ様。ロリコンです、ロリコン」
メイリアさんが別れ際に当主に言った言葉を呟いたら、クソはいらないとデーゲンシェルムに訂正されてしまいました。
メイリアさんの話す言葉は意味がわからないことが多すぎて、わたくしにはちょっと難しいです。
そもそもただでさえ最近よく噂されていたデュラー家なのに、そこの当主が娘と歳の近い少女を追っかけているなんて最高に面白い状況でしょう。
わたくしもとても面白くなってきたとニンマリしてしまったのは内緒です。だって全然変わらない二人が変わりそうな気配がする事態なのです。
……これでも何もなかったら、どうすればいいのかしら。
魔法使いにも効く媚薬はあったかしらと首を傾げつつも、塔の中ではわからないことを尋ねることにします。
「冗談かとも思いましたけれど、毎日、家の近くまで通っているのでしょう?相当メイリアさんを気に入ったということかしら?」
「家まで辿り着けないのをいいことに、外から声を掛けるとは本気じゃなきゃ無理ですよ。メイリアさんはなかなかいない逸材ですから、その気持ちはわかりますけど」
「……そう」
何故か誇らしげにフフンと胸を張るデーゲンシェルムは置いといて、ここにはいない、もう一人の銀の髪を持つ魔法使いを浮かべて溜息が出てしまいます。
「あ、お父様」
「なんだい?」
わたくしがシュトレリウスの家に行って、こっそり様子を見ることはできません。けれどこちらに呼ぶことはできるのです。
それでも許可が出ないと無理なのですけれど。
「二日後のメイリアさんとのお茶会に、デュラー家の娘さんを呼んでもいいかしら?」
「お嬢さんを?」
「ええ。だって自分はシュトレリウスを諦めなくちゃいけなくなったのに、父親はメイリアさんを妻にしようとしているのでしょう?何を考えているのか知りたいのです」
まだメイリアさん一人だけとはお茶をしたことがありません。デーゲンシェルムはいなくてもシュトレリウスが必ずついてくるからです。
……まったく、過保護なんだから。
「それにわたくしと歳の近い方はメイリアさんだけなのです。デュラー家は今後もお父様と付き合いが長くなりそうなのでしょう?同性しかいないお茶会なら、色々と別なお話も聞けるかもしれません」
女子会という名前は、何度目かのメイリアさんとのお茶会で教えてもらった言葉です。
女だらけのお茶会だと聞いたシュトレリウスは、ものすごーく不機嫌でしたけれど。だって自分は参加できないお茶会ですものね。
しばらく考え込んでいたお父様には、デーゲンシェルムが少し離れたところにシュトレリウスといると言ってくれました。
「中庭なら会話が聞こえませんが姿が見える距離で護衛ができるでしょう?シュトレリウス様もそれなら反対しないと思いますし、いかがでしょうか?」
「あのね、お父様。次のお茶会にはパウンドケーキをメイリアさんが持ってきてくれることになっているの。呼んでも良いって言ってくださったら、お父様の分も取っておくわ」
わたくしと一緒で新しいお菓子が好きなお父様に、しばらく教えなかったプリンとは違って、今度はすぐに渡すと言ったらアッサリと頷いてくれました。
「仕方がないな。……どんなお菓子なんだい?」
「バターケーキみたいなものらしいけれど、お酒や果物を入れて味を変えられるんですって」
「甘いものばかりではなくて、ベーコンや野菜を入れておかずっぽくした物もあるそうですよ」
シュトレリウスが三日に一回はいただいているものだとデーゲンシェルムが話したら、お酒と一緒に食べたいとお父様が食い付いてきました。
「シュトレリウス君がそんなに頻繁にいただいているなら味は確かなんだろうね」
「それに種類も多いってことですよ。聞いただけでも十種類以上ありましたから」
「うぅーん、困ったわ。わたくしはバナナの入っているものが気になっているのに」
「三種類くらいずつ作って、毎回持ってきてもらえばいいんじゃない?」
「いいですね、さすが国王様です!」
わたくしもですけれど、そうと決まったらとお父様とデーゲンシェルムも早速お手紙を書いていきます。
甘いものと普通のものとお酒のつまみになるものを持ってくるようにと書かれた二日後のお茶会の招待状は、帰りにデーゲンシェルムに届けてもらうことで決定です。
「デュラー家にも招待状を送らなければいけませんね」
「そちらも私が届けて参りましょう」
こうして女子会の招待状を届けてもらったわたくしは、どんな話をしようかとワクワクしながら眠りにつきました。
王女であるわたくしに、国王様であるお父様から催促を受けたメイリアさんから、招待状を持っていったデーゲンシェルムが「お前の上司は何考えてんだ!?」と首を絞められたと聞いたのはお茶会の当日です。
お茶会当日、わたくしの居住区である塔に入って早々、デーゲンシェルムに叱られてしまいました。
「リュレイラ様と国王様のおかげで私は首を絞められましたよ!」
「……そう」
表情を見て思わず「良かったわね」と言いそうになって、後ろでものすごーく鬱陶しそうな視線を向けているメイリアさんを見つけて口をつぐみました。メイリアさんからしたら、無茶振りをされて困ったでしょうからね。
首を絞められたのに蒼い瞳は嬉しそうに潤み、ゾクゾクと歓喜に震えるデーゲンシェルムはいつものように置いておきます。
「無理を言ってごめんなさい、メイリアさん。中身が色々と変えられると聞いたらどれも食べたくなってしまって」
「そのようにおっしゃっていただいて嬉しいです。リュレイラ様と……国王様のお口に合うといいのですけれど」
それでもニコリと微笑んで、わたくしたちがリクエストをしたパウンドケーキを三種類持ってきてくれたようです。
箱の中に入っているのに、ふんわりとバターの良い香りが漂っています。早く食べたいですね。
「さすがにお父様はこの場に呼べませんから、わたくしが先に全部の味見をすることになっているのです」
「あ、ズルいですよリュレイラ様!」
「お茶会の主催はわたくしよ、デーゲンシェルム」
今度はわたくしがフフンと微笑み、両手と両足を同時に出しながら現れたデュラー家のお嬢さんとの女子会を始めます。
一本丸ごと持ってきてもらったので、こちらが用意したナイフとお皿にメイリアさんがそれぞれ切り分けてくれました。
「見た目が地味なのでホイップも持ってきました」
「まあ、可愛らしい」
絞り口をいつもより細目にして、レースのように飾り付けていきます。手慣れた様子は相変わらず見事なのに、見慣れているのかシュトレリウスは平然としています。
ローブを被っているからわかりませんけれど、メイリアさんとその隣りに座っているフェイナさんを気にしているようです。
持ってきてもらった三種類のケーキをそれぞれ盛り付けたら、シュトレリウスとデーゲンシェルムは声の届かない場所に移動してもらいます。
さあ女子会の始まりですとワクワクしていたら、メイリアさんが見慣れないネックレスを付けていることに気が付きました。
「メイリアさん、そちらのネックレスはどうされたの?」
「シュトレリウス様から渡されたんです。今日のお茶会はいつもより離れているから、お守りだと言われました」
「……そう」
それは離れていても声が聴こえる特殊な魔導具です。
思わず半眼になったわたくしに二人は首を傾げたので、呆れた溜息と一緒にどういう物か伝えようと思います。
「それは魔法を掛けた本人と、どれだけ離れても声が届く魔導具ですよ」
「え?」
「は!?」
キョトンとした顔のメイリアさんとは対照的に、瞳を真ん丸くしたフェイナさんが固まりました。けれどメイリアさんは「少し失礼しますね」と微笑んだら、離れたところにいるシュトレリウスのほうへ向かいます。
「てっめぇ、なんてモンをくれてやがんだ。ストーカーか!?」
「あっ私も!私もつねってくれませんか!?」
「黙れ、変態」
「……」
ストーカーとは何かしら?
けれど外したネックレスをテーブルに叩きつけ、顔を逸らしたシュトレリウスの頬を思いっきりつねるメイリアさんにシュトレリウスは観念したのか無言です。
どんな物か説明した、わたくしの声も届いていたでしょうからね。
そしてどんな時でも相変わらずなデーゲンシェルムは黙殺され、「大人しくしていろ」と言われたシュトレリウスはムスッとしてしまいました。
「シュトレリウスが失礼しました」
「いいえ」
「おかげで頬をつねられるシュトレリウスという大変面白いものが見れました」という言葉は飲み込んで、代わりに微笑むだけにしておきます。
何かやるとは思っていましたけれど、あんな貴重な魔導具まで出してくるなんて。
帰ったらどんな話をしたのか訊けばいいのにというメイリアさんの言葉にも頷いて、女子会の仕切り直しです。
「……ところで女子会とは何をするのかしら?」
「え!?」
まだ固まっていたフェイナさんが、「女子会をしましょう」と誘ったわたくしが知らないとはどういうことだと、またしても瞳を真ん丸くしてしまいました。
女子会という言葉を教えてくれたメイリアさんが、ちょっと考え込みつつも話していきます。
「そうですね……。美味しいお菓子や流行の話、恋バナなんかが話題でしょうか?」
「それはいつものお茶会とは、ちょっと違う内容ですね」
ふぅんと頷いて、せっかくシュトレリウスに声が届かなくなったのです。
デュラー家の当主がどういう理由でメイリアさんを追っかけているのかも気になりますけれど、ずっと訊きたかったことも訊きたいと思います。
「メイリアさんはシュトレリウスのどこが好きなのかしら?」
「へっ!?」
ニンマリと微笑んだわたくしの言葉に、真っ赤になったメイリアさんが固まってしまいました。
女子会は始まったばかりなのです。
せっかくいつもいるシュトレリウスがいないのですから、しっかりと訊こうと思います。
うふふ。とっても楽しくなりそうね?




