十一話:お茶会と招待状
「え、メイリアさん!?」
じいいっと熱の籠った視線に見つめられながらデュラー家へ着いたわたしを、とても驚いて目を真ん丸くしたフェイナが迎えてくれた。
「招待状をいただいたので、お茶をしに」
「ああ、なるほど……」
それならとフェイナはお茶の支度をメイドに頼んでいく。
べリウスは「ではこれで」と、送る時には声を掛けると言いながら手を振って、奥のほうへ歩いて行ってしまった。
てっきりいつも王女様とお茶をする時のシュトレリウスみたいに、ちゃっかり隣りに座っているものだと思っていたんだけど……。
拍子抜けしながらもお茶の支度が整った部屋に案内をされ、持ってきたクッキーを渡したらまた驚いている。
「リュレイラ様……王女様とお茶をする時は、いつもお菓子を持っていくから」
「王女様と!?」
お菓子を持ち寄ることにも怪訝な顔をしたフェイナは、王女様とお茶をするという言葉に驚いて固まってしまった。
「他にお茶をするような友人はいなくて」
「そ、れは……わたしもです」
持ってきたクッキーを並べたら、いつもと違って先に食べてみせる。
脇に控えていたメイドが見ていることからも、毒味はしたほうが無難だろう。なんか訳知り顔で頷いているし。
「焼き立ては崩れやすいから、昨日焼いて冷ましておいた物を持ってきたんだよ」
「メイリアさんが食事も作るの?」
ファウム家の嫁なのにと首を傾げられたことからも、やっぱり普通の貴族はしないみたいだ。
メイドも執事もいるけど小さい家だから、自分でできることはやっていると話したら不思議そうに頷いていく。
「あ、あの……知らなかったとはいえ、旦那様に付きまとってしまってすみませんでした」
「結婚パーティーをしなかったから、身内でも両親くらいしか知らないの」
だから仕方がないと頭を下げるフェイナに言ったら、やっと小さく微笑んでくれた。うん、やっぱり可愛いな。
「でも最初はデーゲンシェルム様だったのでしょう?……魔法使いの妻になりたかったの?」
見た目がいいから他にも引っ掛かる子は多そうだけど、中身が残念すぎるからなあ。
年齢的にそろそろ婚約者とかいないんだろうかと思っていたら、フェイナが少し俯きながら話していく。
「百年は前ですけど我が家にも魔法使いがいたんです。その話を聞いてから、国を守るくらいの膨大な魔力を持った子供が産めたらと思って……」
国を守る魔法使いが現れた家はもれなく手厚く保護され、保証もされる。
けれどその身に他の人は宿さない魔力を閉じ込めておかなければいけないからか、その分、短命だとも聞いている。
「元々身体が弱かったのもあって、ご先祖様は十代で亡くなってしまったそうです。けれど今の国王様はもうすぐ四十歳を過ぎるくらいにお元気でしょう?それにファウム様は無詠唱だと聞いています」
十代で亡くなってしまったからか、すぐに家も傾いてしまったらしい。そんなデュラー家をもう一度盛り立てようと父親が頑張って、今の地位まで上り詰めたと話してくれるけど。
それと魔法使いを産むことは、あんまり関係ない気がするんだけどな。だって父親のベリウスは魔法が使えなくても、それなりのところまで自力でいけた人だし。
「何も無理矢理、魔法使いを産まなくても大丈夫なんじゃないの?」
「お母様が小さい頃に亡くなったので子供はわたししかいません。わたしがデュラー家を継がないといけないんです。お父様の事業を引き継ぐならそれなりのお相手でないといけないんですけど、デュラー家はそういう意味では新参者ですから」
まだ十四歳なのにそんなことまで考えているとは、父親に決められた相手とただ結婚しただけのわたしとはエライ違いだなあ。
一人っ子って大変なんだなと思っていたら、急に顔を上げて一生懸命弁解していった。
「あ、あのでも、もうファウム様と結婚しようなどと思っていませんから!」
「安心してください!」と慌てて付け加えられて、なんと返そうかと迷っていたら扉を叩く音がしてフェイナが呼ばれていった。
「お嬢様、お客様です」
「はい。……すみません、メイリアさん。お父様のお客様にはわたしも挨拶をしなくてはいけないんです。少し待っていてください」
「わかりました」
一人娘だからなのか、その後も何度か呼ばれて挨拶をしに行くフェイナに、入れ替わるようにメイドがお茶を入れ換えていく。
……ここん家は何人のメイドを雇ってて、何人の訪問客が来るんだ?
「賑やかだな」
静かすぎる我が家と比べて別な意味で溜息が出てくる。それでもこれを息苦しいと感じるわたしは、あの家に随分と慣れたのだろう。
入れ替わり立ち替わり来るお客様とメイドたちと、それを当然と受け止めているまだ十四歳の女の子。
父親のほうがのんきだと思っていたけれど、家のことしかしていないわたしのほうがよっぽどのんきだったわ。すまん、父ちゃん。一応、大黒柱として頑張ってくれてたんだね。
まあそれでも、もうちょっと頼りがいを見せてほしいけれども。
「こんにちは、デュラーさん」
昼食までには帰すという言葉通り、そろそろ送ろうとベリウスが顔を出して玄関に向かったら、見慣れた馬車から白金の髪を輝かせたデーゲンシェルムが降りてきた。
「あれ、メイリアさん。なんでここに?」
「それはこっちの台詞ですよ」
お茶をしに来ただけだと伝えたら納得してくれたけど、代わりに我が家にしょっちゅう届く封筒をフェイナに手渡してきた。
「王女様からお茶会の招待状です」
「王女様!?」
デーゲンシェルムにびくびくとしながらも、爽やかな笑顔と優しげな声を向けたら大人しく受け取ってくれた。こういう時にその顔は便利だな。それだけしか使い道がないとも言えるけど。
それでも招待状の差出人が王女様と聞いて、フェイナも後ろのメイドも卒倒しそうなくらいに驚いている。当たり前か。
「女子会をしたいということで。もちろんメイリアさんへの招待状も預かっていますよ」
「……なんか分厚いんだけど」
「国王様と私からのリクエストも入ってますから」
「はあ?」
「国王様!?」と今度こそ卒倒したフェイナを素早くメイドが抱えて家に連れていって、わたしは国王様にリクエストをされる意味がわからなくて招待状を開いた。
「……おい、変態」
「鞭の出番ですね!?」
「お前など素手で十分だ」
「うぐぅ」
蒼い瞳を輝かせながらサッと鞭を出す変態の首をギリギリと絞めて、何故『甘いものとお酒に合うものでよろしく』って書いてある手紙を受け取らなければいかんのだと問い詰める。
「ふむ、いい絞めっぷりですね」
「ふ、ふふ……デュラーさん、羨ましいんですね?」
「私は絞められる前に組み伏せるほうが好みです」
「そこはわかり合えませんねえ」
お互いの好みを言い合って、「残念だ……」と首を振っている変態同士は置いておく。
全力で無視だ。放置でいい。
「帰りは変た……デーゲンシェルム様と帰りますので、送らなくても結構ですよ」
「私が連れてきたのですから、送らなければファウム君に怒られてしまいます」
「ではデーゲンシェルム様をそちらの馬車に乗せてください。わたしはこちらに乗りますので」
どうしても送ると言い張るベリウスには、帰りも二人きりになる気はないと言って、デーゲンシェルムが乗ってきた馬車にとっとと乗り込んで発車してもらう。
ふう、これなら安心だ。
ガタガタと相変わらず揺れの激しい馬車に揺られて家に帰ろう。なんか疲れたし。
そもそも国王様にまで我が家の定番ケーキを献上しなければいけなくなったとか意味がわからん!
「ただいま戻りました」
「おかえり」
帰ってくることがわかったのか、門の前でシュトレリウスが待っていた。
良かった。ちょっと気持ちが悪くなったから、降りる時に差し伸べてくれた手をつかんだついでに頭を撫でてもらおう。
「おや、馬車に弱かったのですか?」
「ええ、……まあ」
「これは残念」と訳のわからないことを言ってベリウスが肩をすくめたら、シュトレリウスに「確かに送り届けましたよ」と手を振ってすぐに帰ってしまった。
「自分で組み伏せる前に馬車が弱らせては面白くありませんよね」
「面白くなくていいわ」
「その気持ち、わかります」と頷いているデーゲンシェルムはいつものように無視をして、昼食を一緒にいただこうとする図々しさまで発揮してきやがったので蹴り倒して追い出しておく。
「家に帰れ」
「いやいや。そちらの招待状のお返事をいただきませんと!」
「じゃあそこで待ってろ」
「放置ですね!」
「……家の中に入っていい」
「え、いいんですか?」
爛々と嬉しそうに蒼い瞳を輝かせた白金の髪の見目麗しい変態を門の前で待機とか、そっちのほうが世間的にも精神的にも悪かった。
昼食を出してやると言ったら喜んだけれど、門の前に置き去りにされなかったからってガッカリすんな。
ユイシィが出迎えて、急に増えたけど見た目がいいデーゲンシェルムに、目の保養とウキウキしている。人生楽しそうだなあ、ユイシィは。
「急にお邪魔してすみませんね」
「いいええ。朝に奥様が仕込んでいたキッシュですから人数が多くても構いませんよ」
「キッシュ?」
具沢山キッシュと固めのパン、香辛料を効かせたピリッとスープにサラダという今日の昼食のメニュー。
改めて見ても、ウチは野菜中心だからボリュームはあるんだけど物足りないかな?綺麗に残さず食べてくれるけど、量は足りていたんだろうか。
チラッと隣りのシュトレリウスを見たけど、ローブ越しじゃわからないね。
すごくいまさらだけど訊こうかどうしようかと思っていたら、キッシュを見ていたデーゲンシェルムが尋ねてきた。
「このキッシュは甘くないパウンドケーキに入れていたと言っていた具と似ていませんか?」
「ああ、そうですね。こちらは色々な具材を卵と混ぜて、パイ生地と一緒に焼いたものですから」
ついでとばかりに国王様はお酒と合う物が良くて、王女様はバナナ入りが気になっていると話していく。三つも作るのは面倒だけれど、お酒と合うものなら何を混ぜようかな。
「私はもちろん甘いものでお願いします!」
「それはどうでもいい」
「無視ですか!?」
いつものように恍惚とした表情でうっとりとしている変態は無視だ。無視に決まっている。
「ちなみに合わせて飲みたいお酒はワインだそうです」
「また面倒くさい……」
じゃあ色々なチーズを混ぜればいいかと、国王相手にもぞんざいな対応になってしまったけれど。まあいいか。
「そうそう。女子会ですから、私とシュトレリウス様は中庭にはいれますけれど、会話が聞こえない少し離れたところで待機ですよ」
「……」
前に女子会の話をした時と同じように、同じテーブルにはつけないと聞かされたシュトレリウスが口をへの字に曲げて不機嫌な顔をする。
「このネックレスをつければ問題ないんじゃないですか?」
「……そうだな」
「つけるんですか!?」
「え?」
「うわぁ」とあからさまに引いて、なんとも言えない顔でシュトレリウスを見つめるデーゲンシェルムとは珍しいな。
けれどさっきデュラー家のお茶会に出掛けた時にもつけたと言ったら、仕方がないかと溜息を吐いていく。
「ただのお守りじゃないんですか?」
「……お守りだ」
「??」
ちょっと顔を逸らしながらも、お守りだと言い張るのなら女子会でもつけたほうがいいよね。姿は見えてもいつもより離れているみたいだし。
そんな首を傾げたままのわたしとシュトレリウスを交互に見たデーゲンシェルムが、「王女様にはバレるでしょうけど」と呟いた意味を知るのは、女子会当日。




