十二話:秘密の女子会
……おかしい。
今日はそう、王女様に呼ばれてフェイナと一緒の初めての女子だらけのお茶会をしようと中庭に集まったはずなのに。
もちろん三人だけじゃ危ないからと、シュトレリウスとデーゲンシェルムは少し離れたところで護衛もかねているけれど。
「それで、メイリアさん?シュトレリウスのどこら辺が好きなのかしら?」
「あのローブの下ってどうなっているんですか?」
「ええええと……」
主催のはずだけど女子会ということがわかっていなかった王女様に、「流行の話とか恋バナとかをするんですよ」と教えたのはいい。だってたぶんそういうものだろうし。
前世でもしたことがないから聴いた話だけれど、そんなには間違っていないはず。
それはいい。けれどさっきからわたしにだけ質問攻めなのはどういうことだ。意味がわからん。
「あ、あの無口なオッサンのことは置いといて、もっと他の話をしましょう!」
だって無口で無愛想なシュトレリウスの話をしても全然楽しくないと思うし、盛り上がりに欠けると思うんだよね。
けれど誤魔化そうとするわたしに、深紅と茶色の瞳がじいいっと見つめてくる。なんだ、可愛く下から覗き込んでくるんじゃない。困るって言ってるだろ。
「シュトレリウスのことは自分だけの秘密にしておきたいというわけね?」
「あ、そうですよね。……すみません」
「ええと、そういうわけでは、その、ないです、けど……」
ふうっと今日もわたしを突いてくる王女様と、素直に謝ってくるフェイナ。
どうしよう。なんかこっちが悪いことをしたと思ってしまうような顔をするんじゃない。
「ローブの下は普通です。普通に目つきの悪いオッサンがいるだけです」
あのネックレスを返して本当に良かったと思う。つーかなんであんなの渡すんだよ、ストーカーか。
でも前にデュラー家に行った時も渡してたな。……なんか変なこと呟いたりしてないよね、わたし。
たぶん大丈夫と頷いたわたしに、ちょっとつまらなさそうな溜息を王女様が小さく吐いた。
「メイリアさんはいいわよね。お父様同士が決めたお相手だって言うけれど仲は良いし。ちょっとシュトレリウスは過保護だけれど、それだってメイリアさんを大切に想っているからでしょうし」
「政略結婚だったんですか!?」
「はあ、まあ……」
仲が良いとか大切にされているとか、むず痒いことを言われてそわそわしてくるな。
そんなことは、……ちょっとだけあるけど。べ、別に。魔法使いの身内で狙われやすいからだと思うし。他意はない。うん。
結婚の話が出たからか、深紅の瞳をフェイナに向けた王女様が首をコテンと傾げて尋ねていった。
「そういえば、フェイナさんには婚約者はいないのよね?」
「まだ、ですけれど。十六歳までにわたしが見つけなければ、お父様が選んだ相手と結婚することが決まっています」
「それでデーゲンシェルムとシュトレリウスを?」
「ええ、まあ……。どちらもわたしの手に負える方ではなかったので、一般の普通の方の中から探そうと思っています」
この前のお茶会では聞けなかったことを、なんだか淡々と話していく。もう自分の中では決まっているから、せめて好きになれそうな人を探そうとしているのかな。
そんなフェイナを見て、ぽつりと王女様が呟いた。
「……いいわね」
「いいですか?見つからなかったら他の方と同じような政略結婚が待っているんですよ?」
「だって十六歳までには探してもいいのでしょう?わたくしには選択の余地はないから、見つかっても見つからなくても、どちらも自由があって羨ましいわ」
金の髪に産まれ持ってから、お相手は自動的に決まってしまったらしい。
緩く首を振る王女様に、なんと言えばいいのかわからないけれど。この様子だと、あんまり好きになれていないのかな。
「そういう意味ではメイリアさんは理想よね。だって好き同士なのですし」
「ごふぉっ」
「まさか政略結婚だなんて思わないほど、仲が良いですよね」
「ゴホッゴホッ……」
ここでこっちに流れ弾が飛んでくるとは思わなくて、思いっきり紅茶をむせてしまった。
なのに胸を叩いて必死に抑えているわたしに、王女様とフェイナはじいっと恨めしそうな羨ましそうな視線を向けるだけだ。
「す、すす、……き、同士ではありませんので、断じて!」
「あら、自覚がないのね。それはそれで面白いけれど」
「え、これで好きじゃないのはおかしくありませんか?」
「うぐっ」
そ、そんなことを言われても。す、好きとか言われたことないし。……わたしも言ったことはないけれど。
視線どころか身体ごと逸らした真っ赤なわたしに、またしてもじいっと見つめる二つの視線。
……うるさいな。す、好きとかそんなこと、ええとあの、そんなに簡単に言ったりしないんだから。ほ、本人にも言っていないし。
紅茶を飲んで誤魔化すわたしに、またしてもふうっと溜息を吐いていく王女様。
なんだか恋バナっていうよりは相談ぽくなってるけど、これも女子会みたいなものかな?
「どちらにしてもわたくしの場合は腐れ縁みたいなものだから、この先も恋にはならなそうなのが困ったところなのよね」
「幼なじみってそういうものらしいですね」
「……」
なんだか「ねえ?」と顔を合わせて共感している二人の間に挟まれて居心地が悪い。
そりゃあ、その、最初はあれだったけど、そんなに嫌じゃなくなったし。向こうはどう思ってるのかわからないけれど、その、悪くは思っていないと思う……たぶん。
「そもそもメイリアさんの好みってどんな感じなのですか?」
「え、好み!?」
前世でもどちらかというと避けられていたから、そんなことを考えたことがなかったことを思い出した。
それでもここでは年上として、結婚している人生の先輩として話したほうがいいのかな。なんか期待した瞳を向けられているし。
よし、頑張って考えようじゃないか。
「……ええと、年、は、上のほうがいいですね」
「年上ね?」
だって前世では家がヤクザで父親が組長してたんだもん。
年が近い子なんて怖がって近付いても来てくれなかった寂しい幼少期だ。それにわたしの近くにいた人は成人した年上ばっかりだったから、そういう意味でも頼りがいがあるように思えるのかも。
「背も高いほうがいいですね」
「高いほうがいいのね」
「はい。あまり身長が変わらないと異性という気がしませんので」
「それはありますね。頭一つ分は上がいいです」
これには二人も賛同して、うんうんと頷いていく。ええと、あとは容姿についてかな?うーん、これまたよくわからないぞ。
「髪は長くないほうがいいです」
「そうなの?」
「え、でも魔法使いって魔力を閉じ込めるために髪を伸ばしているんですよね?」
「そうなんだ?」
そういえばデーゲンシェルムは鬱陶しいくらいに長かったな。でもシュトレリウスはちょっと襟足が長いだけで、そこまで鬱陶しくはないもんね。
「シュトレリウス様は肩にかかるくらいの長さですよ」
「え!?」
「大丈夫なんですか?」
「ええと……たぶん」
なんでそんなに驚いているのかわからないけど、魔力を閉じ込める役割があるんだっけ。あれ、それなら無詠唱でも寿命は短いんだろうか。それは困ったな。
「とりあえず髪は短めがいいのね?」
「そうですね。できればもっと短いほうがいいですけど、髪を切ったらダメなら仕方がないですね」
なんだか中途半端だから切らないのかと思った時もあったけど、切っちゃダメなら仕方がない。諦めよう。
容姿について言ったから、次は中身かな。うーん。わたしも人のことを言えるくらいに出来た中身じゃないから、普通ならなんでもいい気もするなあ。
「嘘をつかなければ、中身に関しては変な趣味でも特に気にしないかもしれません」
「その趣味にもよると思うけれど、大事なことよね」
「重要なことですね。というかファウム様と会話ってするんですか?」
「うーん、まあまあ話す、かな?」
基本的に質疑応答みたいな事務的な会話が多いけれど、最近では色々と他愛ないことも話しているもんね。うん、けっこう進歩したんじゃない。
……あれ?なんか途中で違う話になっていなかった?
「つまりメイリアさんの好みは背が高い年上の髪は短めの誠実な人ってことね」
「ええと、はあ、まあ……」
うん、そうなるかなと首を傾げつつも頷いたら、深紅の瞳がニンマリとし出した。怪しく輝いてもいる。……なんだ、その視線は。
そんな王女様から視線を逸らしたら、フェイナが満面の笑みでとんでもないことを言い放つ。
「つまり好みそのままな人と結婚できたってことですね。やっぱり羨ましいです!」
「うん!?」
「やあねえ、もしかして惚気られたのかしら」
「そうだと思います」
「ちがっ、違います!」
惚気てなんかない、断じて!と言い張るわたしに呆れた溜息と視線を向ける二人。なんだ、どういう意味だ。
「だってシュトレリウスまんまの好みじゃないの」
「これでどうして好き同士じゃないとか言うんですか?」
きょとんとした少女たちは首を傾げて、心底わからないという顔で覗き込む。
やめろ、そんな小動物みたいな無垢な瞳で覗き込まないでくれ。
「とにかく違う」と言い続けても、ちっとも二人は納得してくれない。困った。
大体あんな無口で無愛想で手もあんまり握ってこない人とか、す、好きじゃないし!?
フンッとまた全身を逸らして紅茶を飲んでいくわたしに、王女様はまたしてもふうっと溜息を吐いていく。
「うぅーん。やっぱり小さい頃に会わないほうが、好きになる確率は高いのかしらね?だってお父様同士が仲良しだったわりに、結婚するって時にやっと会ったのでしょう?」
「そうなんですか?」
そういえば結婚相手だよって紹介されて式を挙げて、一緒に住んでもうすぐ二ヶ月になるけれど。
それでも最初の一ヶ月はほとんど仕事でいなかったから会話も喧嘩腰で、色々話したり、ええとその、ぎゅっとしたりとかは、ここ一ヶ月くらいかなと気が付いて小さく頷いていく。
「そうするとフェイナさんのほうが、良い結婚をしそうじゃないかしら。だってお父様はお母様に一目惚れしたのでしょう?」
「そんな相手がいたらいいんですけど、今のところわたしに近付こうとする人は財産目当てですから」
のし上がってきた新参者を取り込もうと考えている輩か、上手い汁を吸おうと思っているヤツか。それじゃあ先に人間不信になりそうだな。
ウチは……変態しかいないから、それもそれでどうなんだって感じだけれど。
「わたくしは産まれた時に決まって、それからずっと一緒なの。新鮮さも何もないのよねえ」
「それもそれで穏やかな結婚生活になりそうだと思いますけど」
「ん?」
王女様とずっと一緒にいる人なら、ここでお茶会をするわたしも会ったことがある人なのかな。
会ったことがあるのはこれまた変態だなあとぼんやりカップに口をつけたら、なんでもないことのように王女様が呟いていく。
「金の髪も珍しいけれど、白金はもっと珍しいからって何も婚約者にしなくてもいいと思わない?」
「ごふっ」
「へ!?」
……待て、よし落ち着こう。大丈夫、なんかサラッと言ったけど気のせいだ。空耳だ。
オーケーオーケー、よし、落ち着いたぞ。
頑張って落ち着かせたのに、わたしよりも変態に耐性がないフェイナが目を最大限に泳がせながらも禁断の質問をしてしまった。
「ああ、あの、白金の髪って、ヴァイツ様以外にもいるんですか?」
「いないわねえ」
「ええと、つまり……?」
顔を思いっきり引きつらせて青い顔をしているフェイナに、ニコリと王女様は微笑んだ。
「そうよ。デーゲンシェルムがわたくしの婚約者」
「嘘おっ!?」
「……マジか」
なんだか「してやったり」な企んだ微笑みを浮かべているのが気になるけれど、きっと気のせいなんだと思うことにする。
だってアレが婚約者なんて、国が滅ぶ未来しか見えないじゃないか。
「あらぁ。貴女たちのそんな顔を見れたのなら、この婚約も悪くないと思えるわね、ふふ」
楽しそうに呟いたこの国の王女様が、極上の微笑みを浮かべながら小首を傾げた。




