1:『同級生』
ルークの見舞いに行ってから1週間。ルークはリハビリも含めてもう少し入院するらしい。あと最近夏が近づいているからか、日差しが強くなってきた。そういうわけで俺もデイブみたいにキャップ型の帽子を被ることにした。当然色は違うやつにするけど。
でもまぁ今までキャップ型の帽子を被ってなかったので俺はそういうのを持ってない。いや、正確には持ってたけど、家出の時に親の家に置いて来ている。てなわけで、今日は近所の安い店に買いに来た。
「どれにすっかな……」
どれも5ドル均一だが、いや、だからなのか種類が異常に多い。帽子を一個棚から取ってみれば、その後から別のデザインの帽子が出てくるくらいだ。とりあえず3個ほど候補を決めて、それを見比べる。
「……まだかー?」
俺が半ば無理やりに付き合わせたマイクが、暇だからか椅子に座って不服そうな顔をしている。
「いいじゃん別にどれでもさー」
「ギャングだって見た目ってのが重要なんだよ」
「撃たれたら赤くなるんだしどれでも変わんねぇじゃん」
「撃たれる気が無ェから見た目にこだわるんだよ。そんな撃たれまくってたら、今頃この世にゃ居ねぇしな」
「……まぁ、それもそうか……」
諦めたのかマイクは携帯を取り出してゲームをやり始めた。それを横目に再度帽子選びに戻る。
「…………よし、これにするか」
俺は緑色のシンプルなデザインの帽子を買うことにした。
「お、やっと決まった?」
「おうよ」
俺はレジに帽子を持っていき、代金を払ってから帽子をかぶった。
「んじゃ、次行くか」
「次ってどこ行くんだっけ?Tony-Gun?」
「そうそう。ちょいとデカい金も出来たしな」
などと言いながら店を出た。『デカい金』って何かと言うと、昨日警察から賠償金として小切手が送られてきた。で、さすが国営機関と言うべきか、金額が凄かった。
───「……んん!?おいグレンこれ見ろ!!」
「は?どれどれ……うぉお!?」
「ん?2人ともどうした?」
「ショーンちょっとこれ見ろ」
「え?……えぇ!?0が1、2、3、4……!?……1万ドル!!?!?」
「封筒の中に手紙が一緒に入ってた。えーと、『これは警察からの詫び金だ。先日の件について、1万ドルで手を打って貰いたい。また、このことは他言無用で頼む。ギャングに警察が金払うなんて示しがつかないのでな。州警察ルイ・ジャクソン警部』……。……いや逆に1万ドルも貰えるとは予想外だった」──────
なんてことがあったのである。
で、早速その小切手をデイブがサクッと換金してきて今に至る。
「いやー、にしても車1台買えるような額貰えるなんてビックリだよなぁ」
マイクがその金額を想像してかニヤついている。
「俺ら全員の共用資金になるんだからそこまで好き勝手使えねぇぞ。あとニヤニヤすんな」
「あいてっ」
俺はマイクの頭を軽く小突いた。
「とりあえずTony-Gunに行って弾薬買うのと、あとはショッピングモールで食料調達。一週間分だ」
そう言って俺はデイブから借りたワゴン車の運転席に乗り込む。一応俺も運転免許は持ってる。デイブの方が上手いからいっつもデイブに任せっきりだけど。
「おー、こりゃまた大荷物になりそうでぇ」
などと言いながら、マイクも助手席へと乗り込んだ。
「おっし、出すぞー」
エンジンをかけ、そう言ったのも束の間、アクセルを少し踏み込んだ所で……
ガクンッ!
……エンストだ。
「……あー…………やっちまったぁ……」
普段そんなに運転しないから、正直半分初心者な俺である。
「ぶはぁっ!?はっはっはっはっは……!!ダッセェー、はっはっはっはっはっ」
「じゃあマイク運転代わってくれ」
「う゛っ……メンキョモッテナイデス」
イェア、撃 破。
とまぁ、気を取り直してエンジンをかけなおし、今度はちゃんと発進した。
「ちょっと運転の練習もしとかないとなぁ」
カーチェイスで俺が運転するハメになった時にエンストとかシャレにならねぇしな。
まぁ、その後は安全に運転してTony-Gunに辿り着いた。車を降りて店に入ると、店の中ではいつものようにトニーが商品を磨いていた。
「おっす、おっちゃん。久しぶりー」
「おぉ!久しぶりだなぁ!!らっしゃい!」
「おっちゃんも相変わらず元気だなぁ」
「そりゃなぁ。毎日好きなものいじれるってのは最高の職場だぜ」
そう言ってさっき磨いていた商品の銃を一瞬掲げてみせる。
「ははは、おっちゃんらしいぜ」
「おうよ。……んで、今日は何をお求めだい?」
「9×19mmの50発入りを4箱と、45ACPの25発入りを2箱くれ。あと……えーっと、ショーンのライフルの弾って何だったっけ……」
「7.92×57mmだったと思うけど」
その疑問にマイクが答えてくれた。
「あ、そうそうそれそれ。それを2箱」
「はいよ。ちょっと待ってな」
トニーは棚から言われた通りの弾薬の箱を並べていく。
「これなら全部で……220ドルだな」
「ハイこれ」
「まいど」
トニーは弾の箱を袋に詰めて渡し、金を受け取ってレジに入れた。
「あ、そういやよ」
ふとトニーが思い出したように話を切り出した。
「今日、お前らスラッガーズを探してる奴がうちの店に来たぞ」
「はぁ?」
俺らを探してるって一体何が目的……やっぱり復讐とかそういう?ラゴスとかマグナム・クラックス、チャイニーズマフィアの生き残り……?
「……で、そいつどんな見た目してた?」
トニーは記憶を辿るように少し上を見上げる。
「……普通に可愛らしい感じのする、あんたとかと同じくらいの年の女の子だったぞ」
「…………つまりどこのグループ…………って、は?女ァ!?」
「女ァ!!??」
マイクも同じ反応をした。
「そう、女。ギャングとかそんな感じの雰囲気はなかったし、一般人だと思うぞ。拳銃とかも持ってる感じはしなかったから、私服警官ってのも無さそうだ。店に入ってきて、何をお求めか聞いてみたら、『この店にデイブとグレンっていう2人が時折来ませんか?』って質問が返ってきた」
えぇ……俺女に手を出したりなんかした覚えねぇぞ……デイブも女とイチャコラしてるようなこと無かったし……。
「まぁ、さすがに顧客情報を勝手に晒すわけにもいかねぇし、『悪いけど俺には答えられねぇ。客もいっぱいいるし、全員の名前を知ってるわけでもないから、分からない』って言って帰ってもらった。……にしても、あんたも隅におけねぇなぁ。でも気を付けねぇと殺されちまうぞー」
とトニーは後半冗談めかしく言う。が、
「いや無ェから!?ここ最近女と喋ったのバーガーショップの店員と服屋の店員くれぇだぞ!?しかもナンパとかしたわけでもねぇのに!!」
俺にそんな冗談を受ける余裕はない。
「なんだお前、それはそれで哀しい奴だなー」
「う、うるせぇ!!」
「……ぷっ」
今マイクが笑ったのでマイクの頭を小突く。
「いってぇ!」
「笑うな」
「悪かった悪かったって……」
「まぁ、冗談はこのくらいにしといて、とにかく気をつけろよな」
「おう、おっちゃんサンキューな。んじゃ、また来るぜ」
「おう、いつでも来い。じゃあな」
そして俺たちは店を後にした。
「……見つけた」
店から出る俺たちに向けられていた視線があったが、俺たちは気付かなかった。
ショッピングモールへと向かう。エンスト?もう起こさねーよ。……なんてフラグは建てるもんじゃないな。ものの見事に交差点で1回やったよ。エンスト……。まぁ、笑おうもんならまた叩かれるのが分かってたのか今度はマイクは笑わなかった。
ショッピングモールに到着した。俺たちは適当な所に車を止めて、降りる。
「はぁー、にしても、ショッピングモール久しぶりだなぁ……」
「グレンは指名手配でこんな所来れなかったからな……」
「さてと、さっさと買い物して帰るぞ」
「あいあい」
俺たちはさっさと買い物を済ませるべく、ショッピングモールへと歩き出した。
「……ん?」
「どうした?マイク」
「……いや、あそこに止まってる赤い車、銃砲店の前でも見かけた気がして」
「んー?気のせいだろ」
「そうかなぁ……」
一方赤い車の本人は、
「……あっぶない……バレるかと思った……」
わりと大焦りだったらしい。
買い物を済ませて、帰りの車の中。
「……やっぱり」
マイクはサイドミラーを見ながら呟く。
「あ?何が?」
「ショッピングモールの駐車場で見かけた赤い車だよ。やっぱり追いかけてきてる。ナンバープレートも同じみたいだから、間違いない」
「はぁー……?尾行かよ、めんどくせぇなぁ……」
少しアクセルを踏み込むと、隠れ家のデイブの家とは別の方角へと交差点を曲がる。サイドミラーで後ろを確認すると、バッチリついてきていた。
「あー、うん、こりゃ確定だわ」
俺たちは車を路肩に止めて降り、路地裏へと入っていく。奥の物陰にかくれ、耳を澄ますと、車のドアを閉める音が聞こえた。
「……この先に住んでるのかな……?」
そして、段々足音が近付いてくる。目の前まで来た所で物陰から出て、素早く相手の襟首を掴んで思いっ切り拳を振りかぶった。
「ヒッ……」
「この……って、ん?お前、もしかして…………トレイシーか?」
拳にビクビクしている尾行の犯人は、長い黒髪をヘアピンで分け、メガネを掛けた少し色白の女だった。しかも俺はこいつの顔を知っている。
「や、やっほー。グレンくん……」
女は、怖がりつつもぎこちない笑顔で俺に挨拶してきた。とりあえず俺は手を離してやる。そして質問を投げかけた。
「一体何だよ。なんで俺らを尾行してんだ?」
この女はトレイシー・ニールソン。俺とデイブが高校を中退する前にいたクラスの委員長だ。お節介焼きで割とうるさかった記憶がある。
「えっと……その……あなたたちが学校来なくなってから行方もよく分からないし、なんだか心配だったから捜してたの……」
「はぁ?ンなことで俺ら捜して、見つけたからって尾行なんてしたのかよ?」
「う、うん……」
正直お節介焼きすぎて呆れるわ。てか行方探し、1年もやってたのかよ?
「もしかしてさ、お前、俺とデイブが居なくなってからずっと捜してたのか?」
「いや、そういうわけじゃないよ!でも、学校に来なくなってから、もう1年は経ったし、それでも戻ってこないから心配になって……」
「俺とデイブは中退したはずだけど」
「高校までは義務教育だよ?まだクラスの名簿にも名前残ってるし……」
「あれ、そうだっけ?」
そういやこの国って高校まで義務教育だったっけ?すっかり忘れてたな……。
「……にしても、尾行の犯人がトレイシー先輩だったなんてなー」
「マイクくん、見ないと思ったらあなたも最近学校行ってないの?」
「そうっすよ」
マイクはゴミ箱の上に座って笑いながら答える。
「なんだ?知り合いだったのか?」
「部活の後輩よ」
「そうそう。アーチェリー部の」
「マイクお前、アーチェリーやってたのか」
トレイシーとマイクが知り合いなのは予想外だった。
「……んで、今回の尾行の件は許してやるけど、もうするんじゃねぇぞ」
「デイブくんはどこなの?」
「あいつなら隠れ家でゲームでもしてんだろ」
適当にそう答える。
「その隠れ家に私も行っちゃダメ?」
「ざけんな。ダメに決まってんだろ」
「お願い!」
「…………ああもう、好きにしろ」
わりと俺って女に弱かったんだな……。
「ありがとう!」
許可をもらったトレイシーはなんだか嬉しそうだ。ギャングの隠れ家に行けるのがそんなに嬉しいんかねぇ?
「んじゃマイク、さっさと隠れ家に行くぞ。買ったものに腐られちゃたまったもんじゃない」
「あいよー」
マイクはゴミ箱の上から飛び降りて、俺についてきた。
そのまま車に乗り、隠れ家へと向けて出発する。サイドミラーで後ろを確認すると、トレイシーの車もバッチリついてきていた。
「……ん?待てよ……?」
トレイシーはずっと尾行してきてたとしたら、要するに俺が車をエンストさせるところもバッチリ……?
「うわぁぁぁ!!くっそ恥ずかしいじゃねぇか、ちくしょう……」
でももうあーだこーだ言ったってしょうがないので、考えないことにした。




