5:『思わぬ助け』
「あぁクソ。なんでこんな時に……」
ジェームスとルークは路地裏を走る。路地裏に逃げ込んだのは正解だろう。車が入れるような幅ではない。ただ、問題としては……
「撃たれないか心配だな……」
こういうのをフラグと言うのだろう。後ろを走って追いかけてくる警官たちの会話がジェームスたちの耳に入る。『発砲の許可が下りた』。
「こっちだ!」
すぐさまジェームスとルークは半ば無理矢理身体を方向転換し右に曲がる。その直後、建物の間に反響する破裂音。
「ははは、あいつらこの距離で当たらねぇのかよ、下手くそだなぁ」
ルークが走りながらふざけるように笑う。
「今そんなこと言ってる場合か!次は左!」
「ちぇっ、はいよ」
ジェームスたちは撃たれる前にすぐに左に曲がった。そしてルークは走りながら携帯電話を操作して電話帳から番号を探す。電話をかける先はデイブ。ルークは発信ボタンを押し、携帯を耳に当てた。
「早く出てくれ……」
プルルルル……プルルルル……
『もしもし、ルーク。どうした?』
「デイブ!今警察に追われて工場地帯を突っ走ってる!」
『はぁ!?ジェームスは!?』
「ジェームスも一緒だ!」
「危ない!」
「うわっ」
ジェームスがルークの腕を引っ張り、右へと曲がる。直後二発の銃声。間一髪で2人のどちらにも当たらなかった。ルークは胸を撫で下ろし、気を取り直して走り続ける。
「ふぅ……で、こんな状況」
『分かった!じゃあ、待ち合わせ場所の板金工場のとこまでなんとか来れるか?』
「OK!そこまで行けばいいんだな!?んじゃ、また後で!」
ルークは電話を切って走りながらジェームスの方を見る。
「待ち合わせ場所の板金工場まで行くぞ!」
「分かった!」
ジェームスたちは路地裏から飛び出してすぐに右に曲がる。そして横断歩道なんか無視してダッシュで道路を渡った。たしか待ち合わせ場所になっている板金工場はここから約500メートルの場所だ。
「あとちょっとだ!急げ!!」
一方、俺とデイブとケネスは既に待ち合わせ場所の板金工場に到着していた。ショーンとマイクも既にデイブたちと合流している。
「そういや、結局顔隠してねぇよな」
「そうだな……。まぁ、いつか使うだろ」
「あいつらここまで無事に来れるかな……?」
俺は少しルークたちが心配になった。デイブも少し不安そうな顔をする。
「うーむ……なぁショーン!工場の2階からスコープでなにか見えないか見てくれ!」
「分かった!」
ショーンは板金工場へと入り、二階へと上がっていった。
「……にしてもケネス、この板金工場って何なんだ?」
この待ち合わせ場所を提案したのはケネスだった。俺とデイブはケネスの方を見る。
「ここはうちの親父の板金工場なんだ。今日と明日は休みだったのを知ってたんでな。あと、ここは表の門以外は鍵がほとんどかかってねぇし」
「えぇ……大丈夫なのか、それ?……てか親父の工場かよ」
デイブと俺は困惑の表情を見せる。
「大丈夫大丈夫。どうせここ何回かギャングのたまり場になってたし、ドンパチも慣れっこだからさ」
「いや、それはそれでダメだろ……」
とまぁ、気の抜けた会話をしていると、ショーンが2階から声を張り上げた。
「おーい!ジェームスとルークが見えたぞ!こっちに走ってくる!その100メートルくらい後ろに警察がついてきてるぞ!」
「おっ、来たか……」
デイブはAK47ではなく、愛用の拳銃を取り出して弾を装填する。
「お?デイブ、今日は本気出すのか?」
デイブが拳銃を取り出した時は本気の合図だ。デイブは手先が器用だからなのか、拳銃の扱いが一番得意なのである。
「だって今回の相手は警察だ。やすやすと殺せねぇし、てか殺すとまずいしな。AK47は精度もそこまで良くないし、威力もメチャクチャ高い。怖くて撃てやしねぇ」
「なるほど……んじゃ、俺もバットじゃなくて拳銃にしとくか……」
「……間違っても相手の頭撃ったりすんなよ?」
「しねぇよ!!……ったく……」
俺も持ち歩いている拳銃を取り出して弾を装填した。そしてデイブが簡単な指示をする。
「ケネスは後方支援。サツの足下あたりに撃ち込んでればいい。いいか、絶対に殺すな?」
「分かった」
そう言ってケネスは後方へと下がっていった。するとショーンがまた2階から声を張り上げる。
「おい!ジェームスたちを追いかけてる警察、拳銃構えてるぞ!」
「マジかよ!?ショーン!狙撃で時間を稼いでやれ!殺すなよ!」
「わかった!!」
そう言ってショーンはライフルを構え、息を落ち着かせて引き金を引いた。
轟音とともに放たれた弾丸は、一直線に飛んで行き、走る警官の足元の地面を抉った。驚いた警官はとっさに後ろに飛び退き、さらにジェームスたちとの距離が離れる。その間にジェームスたちは板金工場へと辿り着いた。
「はぁ、はぁ……」
「なんとかたどり着いた……」
ジェームスたちはそれなりの距離をダッシュしたからか、息が上がっている。
「急げ!多分この後サツとドンパチだぞ!ジェームス、お前は2階でじっとしてろ」
「お、おう……」
ジェームスは言われた通り板金工場の2階へと向かった。
「ルーク、お前はケネスと一緒に後方支援!ドンパチとは言うが、絶対に殺すな!」
「分かった!」
ルークもデイブの指示を受けてケネスの元へと向かう。
そして段々とパトカーの音も聞こえ始めた。多分さっきの警官が無線で応援を呼んだのだろう。
「来るぞ!」
パトカーが1台猛スピードで板金工場敷地内へ入ろうとしてきた。が、デイブが素早くパトカーのタイヤ目掛けて拳銃を撃つ。放たれた弾丸はパトカーの前輪へ見事直撃し、パンクした。それによりバランスを崩したパトカーは板金工場敷地の門をくぐるどころか、そのまま滑って門の前を通り過ぎていった。まぁ、1台どうにかした所で意味は無さそうだが。
案の定パトカーは他にもいた。が、警察はパトカーで敷地内に乗り入れることはせず、門の前にパトカーを大量停車させる。そしてもはやテンプレと化しているフレーズを拡声器で流して来た。
『あー、えー、無駄な抵抗はやめて投降しろ!貴様らは完全に包囲されている!さもなくば強行突入及び発砲に移る!』
遮蔽物に身を隠した俺たちは、小声で話す。
「グレン、サツに喧嘩売るぞ」
「OK。いつでも来いってんだ」
「よし」
そしてデイブは遮蔽物から顔を出した。
「ざけんじゃねぇ!バーカ!」
そして拳銃を1発発砲した。弾は拡声器に直撃し、ハウリングのような音が一瞬響く。そして向こうの射撃が始まった。デイブはすぐに身を隠す。
「……っしゃ、始まったぞぉ!」
こっちは殺せない、向こうは殺す気満々の明らかに不利な銃撃戦が始まった。
俺とデイブは遮蔽物に身を隠し、反撃の隙をうかがう。
「……つっても、とりあえずショーンたちに相手の数減らしてもらわねぇとな……」
「始まったな……」
ショーンはライフルを構え、スコープを覗き込む。そして警官の手元、拳銃本体に狙いを定め、引き金を引いた。
見事に狙撃は成功し、警官の持つ拳銃が1丁吹き飛んだ。
「……おっ、早速ショーンの狙撃が炸裂したぞ」
弾丸を撃ち込まれれば、もう拾っても使い物にはならなくなるだろう。
「……さて、今のうちに動くかぁ」
「俺は足下撃つぞ。お前じゃあるまいし拳銃で相手の拳銃なんか撃てるか」
そう言って俺は警官の足下目掛けて拳銃をぶっぱなす。
「いっでぇええ!!」
警官の一人の足に着弾してそいつは地面に崩れ落ちた。
「よっ」
デイブは精密に相手の銃に当てたり、上手く肩に掠らせたりして数を減らしている。そしてデイブも射撃をやめて遮蔽物に隠れた。
「お前の拳銃の扱いホント頭おかしいよな」
「お前のバットに比べちゃマシだろ」
「……ちっ」
……そうだった。人の事言えねぇんだった。
それから、射撃の弾幕は相当薄くなり、こう着状態に入った。
「向こうは何を企んでると思う?」
「知るかよ。少なくとも特殊部隊呼んでるとかじゃねぇだろ。それにしては時間がかかりすぎてる。特殊部隊呼ぶんなら1時間も要らないはずだ」
そう、こう着状態になってからもうかれこれ1時間経とうとしているのだ。
「にしてもそろそろシビレが切れそうだぜ」
「シビレ切れるって……今でもちょくちょく弾丸が飛んでくるんだから油断すんじゃねぇよ」
デイブは呆れるようにそう言ってため息をつく。……まぁ、それもそうか。
ライフルの銃声とともに警官の拳銃がまた1丁使い物にならなくなったようだ。ショーンの狙撃もなかなかだよなぁ。などと考えていると、デイブが「今のはマイクのライフルか?」と言った。たしかになんか音が違かった気がしなくもない。
「マイクもあんなこと出来んのか。すげぇなぁ」
「そうだな……」
するとケネスとルークが後方から拳銃をバカスカ撃ち始めた。どうやら突入しようとした警官を牽制したらしい。
「向こうもシビレ切らし始めてるみてぇだな……にしてもよ」
デイブが遮蔽物の陰から警官たちをチラリと見て続ける。
「……そろそろなにか来るだろ」
デイブの予想は当たってしまった。
「突っ込めー!」
警官たちは防弾シールドを持って来たらしい。
「うげっ」
「ウッソだろおい……」
警官たちが突入しようとしたその時、どこかから大音量の声が聞こえてくる。
『警官全員に告ぐ!ただちに止まれ!』
声の主は黒い大きなバンの上から拡声器で声を出していた。そして、警官たちを取り囲む武装集団。藍色と黒の戦闘服には『POLICE』の文字。
「特殊部隊……?」
デイブは唖然としてその光景を見ていた。
「あっ、あれは……!!」
窓からふと外を見てジェームスは声を上げた。そう、拡声器の声の主は、州警察のルイだ。
ジェームスが外に出ると、ルイがそれに気付いて声を出す。
『やぁ、ジェームス君。協力ありがとう。おかげでダグラス署長の検挙に成功したよ』
「よかった……」
ジェームスはそれを聞いて安堵した。
「これでやっと署に戻れ────」
響く銃声。
「おい何をやってる!」
「取り押さえろ!!」
すぐさま特殊部隊員たちがひとりの警官を取り押さえた。
「おい、ルーク!しっかりしろ!!」
ケネスがルークのもとにしゃがみこむ。
「うっ……ぐぁあ……」
ルークは左肩を右手で押さえてうずくまっていた。左肩からは大量の血が流れ出ている。そう、警官の一人がジェームス目掛けて撃った時、銃を構えている奴が居るのに気付いたルークは、ジェームスを庇って突き飛ばしたのである。
「おい!ルーク、大丈夫か!?」
それに気付いた俺とデイブもルークのもとへ駆け寄った。騒ぎを聞きつけてショーンたちも2階から降りてくる。
「………………」
突き飛ばされたジェームス本人は、思考が混乱していて動けなかった。
そして、何が起きたのかを理解して顔が青ざめる。
「き、救急車!救急車を呼んでくれ!」
そう叫んでから救急車を呼ぶよりも、すぐに運んだ方が早いと結論に達したジェームスは、ルイのもとにかけていく。
「お願いです!彼を病院に連れて行かせてください!」
ジェームスは涙目でルイに懇願した。
「…………」
ルイは困った顔をする。
「…………いいだろう。病院に連れていきたまえ。パトカーを使っていい」
「あ……ありがとうございます!!」
ジェームスはルイに大きな声で礼を言った。
「よし、じゃあ俺が運転する!」
デイブがルークに肩を貸しながら言う。ルークをパトカーの助手席に乗せてシートベルトを着けると、デイブもパトカーの運転席に乗り込んでエンジンをかけ、病院へと向けて急発進した。
「どうか無事でいてくれ……」
ジェームスは神に祈るように両手を組む。
「肩撃たれただけだし多分死にはしねぇだろ。……まぁ、思いっ切り肩に当たってたし、入院は確定だろうけどな」
俺はジェームスに対してそう言った。
「……そうか……」
『死にはしない』と聞いて少し安心したのだろう。ジェームスはゆっくりと息を吐いた。
その後警官たちの中からルークを撃った奴含む一部が検挙され、俺たちは事情聴取を受けた後、『今回は警察側の責任』ということでほぼお咎めなしということになった。そして俺たちはデイブからルークは無事だという報告も聞き、一安心してから、後日見舞いに行くことにした。




