4:『汚れ掃除』
「……んじゃ、準備はいいか?」
「もちろん」
「もちろん。……つっても、ここから後戻りって無理があるだろ」
「まぁな」
俺とデイブとケネスはワゴンでそんな会話をする。今、俺たちのワゴンは検問で止められた小さな渋滞の中にいた。当然、こんな所でUターンなんてしたら「俺たちを捕まえてください」って言ってるようなもんだ。そんなことしちゃ1発で作戦がおジャンになっちまう。
「ほら、あと2台だぞ。準備しとけ」
デイブはハンドルを握りながら、前の車を見て言った。
……そしてついに俺らの番が来た。デイブが窓を開ける。
「どーもー」
警官たちは俺たちの顔をまじまじと見て、思い出したように叫んだ。
「あっ!お前!動くn」
言い終わる前にデイブはアクセルを全開まで踏み込む。エンジンは一気に吹け上がり、ワゴンはデイブの綺麗なクラッチ捌きも相まってスタートダッシュをキメた。
「うおっ!?」
慣れない加速度にケネスがシートに押し付けられる。
「指名手配犯だ!!追え!!」
警官たちは大慌てで警察署に援軍を呼び、パトカーに乗り込むとサイレンを鳴らしてパトカーを急発進させる。
「さーて、始まったぞぉ!!ちゃんと掴まってろよな!」
デイブは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「事故るんじゃねーぞ!」
「あたりめぇだ!」
汚れ掃除はまずは汚れを集めるところから。汚れを集める作業が始まった。
「ここからグレイクル山まで行くんだっけか」
「ああ。ほら曲がるぞ、掴まってろ!」
デイブは思いっ切りブレーキを踏み込み、ハンドルを切る。ワゴンの車体は滑って横を向き、交差点へと横滑りしながら突っ込んでいく。
「うわぁああああ!!」
ケネスが怖いのかなんか叫んでる。うるさい。
交差点に進入する直前にデイブがアクセルを踏み込むと、それに呼応するかのように車体が前へと進む。流れるように交差点を左へと曲がったワゴン車は、再び加速を始めた。一般車を避けながら走り、交差点を一つ二つと通り過ぎていく。
「ったく、デイブの本気運転はクレイジーだぜ……」
俺はそう言いながら後ろを確認してみると、今追ってきているパトカーは4台。
「お、おい、どうやら向こうの援軍がきたみてぇだぞ」
ケネスが後ろを見ながらそう言う。先程通り過ぎた交差点から、追加で5台のパトカーが来た。
「おーおー、こりゃ向こうも必死なんだなぁ」
「ジェームスたちが上手くやってくれてると良いんだけどな……」
その頃ジェームスとルークは近所の喫茶店にいた。ジェームスは携帯で州警察の本部へとメールを送信している所だった。
「……これで送信完了、っと」
「それでOKなのか?」
ルークはジュースを退屈そうに飲みながら言う。
「ああ。これで上手く行けば州警察から電話か何かが来るはずだ」
するとすぐにメール着信の着信音が鳴った。
「…………」
「……なんて書いてある?」
ジェームスはメールを読み終えると携帯を閉じ、ポケットに入れる。
「場所の指定だ。移動するぞ」
そう言ってジェームスは注文品のコーヒーを飲み干して席を立ち、革製のショルダーバッグを肩にかけた。
「おい、また増えたぞ」
俺たちのワゴンを追うパトカーの数は既に12台にまで膨れ上がっていた。
「ここの警察って何台パトカー持ってたっけ?」
ケネスもデイブの運転に慣れてきたのか、落ち着いてそう口にする。
「たしか14台くらいじゃなかったか?ほら曲がるぞ」
デイブがそう言いながらハンドルを切り、交差点をハイスピードで右へと曲がる。
「……マジかよ、俺たち追っかけるのにほとんどのパトカー駆り出してんのか」
そんなことを言っていると、そのパトカーのうち3台が加速して近づいてきた。
「……あ、こりゃ来るな」
デイブの予想は的中した。パトカーは俺らのワゴンにぶつけてスピンさせようとしたのだ。……が、パトカーがぶつける瞬間にデイブがハンドルを切る。間一髪でワゴンに避けられたパトカーはそのまま立て直しが間に合わず、隣に居た他の2台のパトカーを巻き込んで事故った。
「こう、なんでこの国の警察はここまで荒い止め方するんだろうな……」
「知るかよ。おい、グレイクル山の入口だぞ」
俺たちのワゴンは、目的のグレイクル山の山道へと進入した。
「……んー、ここら辺がいいかな?」
ショーンはグレイクル山の山道がある程度見えるように向かい側の山に居た。もちろんマイクも一緒である。
「距離結構離れてんな……」
マイクはグレイクル山の方を眺めながら言う。
「……500メートル……くらいか?」
「……600メートルくらいだと思うな」
などと2人で距離を予想してみる。
「……地図を見てみると大体580だってよ」
ショーンが地図を見て距離を確認すると、どうやらショーンの勝ちだった。
「ちっ……あー、負けたー」
「別に勝負してるつもりはなかったんだけど……。……それじゃ、距離が分かったところでササっと準備しよう」
「りょーかーい」
2人は背負っていたライフルケースを地面に下ろしてジッパーを開け、ライフルを取り出す。取り出したライフルに弾薬を装填し、それぞれ構えて照準を確認する。
「よし、OK」
「この距離だと伏せ撃ちの方が良さそうだな」
「そうだな。でも俺は伏せ撃ちじゃなくてしゃがみ撃ちで行く」
などと話しながらお互い好きなポジショニングを取る。ショーン言った通り片膝をついて構え、マイクは伏せて二脚でライフルを地面に固定して構えた。
「多分横風は左から10メートルくらいだ」
「あいよー」
大体二人共準備が終わった頃、サイレンの音と車のエンジン音が聞こえてきた。
「おっ、来たぞ!」
「来たな!」
二人はすぐにライフルを構える。狙いはパトカーのタイヤ。ショーンは息を吐いて手ブレを落ち着かせ、引き金を引き絞る。ドン!という重たい轟音とともにライフル弾は一直線に飛んで行き、一番先頭のパトカーのタイヤに風穴を開けた。
「なっ、なんだ……っ!?」
パトカーのドライバーがそう言って修正しようとするも遅し。パトカーはバランスを崩してスピンし、崖っぷちでなんとか停止した。
「ナイスショット!」
「どうも」
などと言葉を交わし、次はマイクの番だ。
(落ち着け……落ち着け……)
マイクは自分にそう言い聞かせながら引き金を引く。轟音とともに放たれた弾丸は、惜しくもパトカーの下を通って奥の壁に着弾した。
「あっ……!」
マイクはすぐにボルトを引いて次弾を装填し、構え直して撃つ。しかし、そんな焦った撃ち方ではちゃんと当たるはずが無い。狙いはパトカーの前輪だったが、弾道は逸れていく。……が、運良くそのパトカーの後輪へと着弾した。
「うわっ!?」
「と、止めろぉ!ブレーキ!」
二台目のパトカーも姿勢を崩しながら、ブレーキをかけて停止した。
「ふぅ……」
マイクは九死に一生を得た気分で、額の汗を拭う。
「もっと練習しないとな」
「……そうだな……。その時はまた練習付き合ってくれよ」
「もちろん」
そう言ってショーンは笑った。
先頭の2台が停止したことにより、後続のパトカーたちも止まるハメになった。
俺はミラーで後ろを見てガッツポーズをする。
「よし!ショーンたちがしっかりやってくれたな!」
デイブも運転しながら嬉しそうにガッツポーズをした。
「これで少しは時間稼ぎになるだろ。後はジェームスたちに任せるだけだな」
「んじゃ、さっさとズラかるかぁ」
「そうだな。待ち合わせ場所の工場地帯に行こう」
デイブは「たしかこっちだな」と言いながらハンドルを切った。
ルークとジェームスは、指定された場所、グレンたちと待ち合わせしている工場地帯付近の廃倉庫に来ていた。偶然にも近かったのである。
そこにはスーツを着た男が2人先に来ていた。
「ジェームス君だね?」
そう言ってジェームスは自分の警察手帳を見せた。
「えぇ、そうです」
「分かってるとは思うが、一応手帳を見せておこうか。州警察のルイ・ジャクソンだ。こっちは私の部下のポール」
そう話しながら2人も警察バッジの入った手帳を見せた。
「……それで、そちらの方は?」
ルイはルークの方を見る。
「付き添いの人間です。一人だとなにかと不安だったものでして」
「そうか。……で、証拠の書類はあるかね?」
「えぇ。こちらです」
「ふむ」
ルイは書類を受け取り、簡単に目を通す。
「……たしかに、出処不明の予算が大量に見受けられるな……」
「あとこれは、R.C.P.Dの署長、ダグラス・トールキンと秘書の話を録音した物です」
ジェームスは1台のボイスレコーダーを取り出し、再生ボタンを押した。
────資金集めの具合はどうだ?───えぇ、それはもう順調です。やっぱりギャングやマフィアどもは喉から手が出るほど欲しいようですね。『合法のように吸える薬物』が───はっはっは、そうだろうな。証拠隠滅は手堅くやっておけよ。上にバレると面倒だ───了解しました────
そこで音声は終わった。
「……なるほど。これは確実だな」
「このボイスレコーダーもお渡しします。必ずダグラス・トールキンを捕まえてください」
「分かった。できるだけすぐに……なんなら今日にでも行動に移そう」
そう言いながらルイは受け取った書類とボイスレコーダーを鞄へと仕舞う。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、すぐにここから離れた方がいい。ダグラスから狙われてるんだろう?長居は危険だ。私達も失礼するよ」
そう言ってルイたちは倉庫の裏口へと歩いて行く。
「そうですね。それでは失礼します」
ジェームスたちもルイたちに一礼してから廃倉庫を後にした。しかし……
「……げっ」
ルイスが苦しそうな声を漏らした。廃倉庫を出たところに丁度パトカー。当然R.C.P.Dの物だ。
「逃げろ!」
「お、おう!」
ジェームスとルークは路地裏へと走り出した。




