3:『掃除の準備』
俺たちがドアを開け中に入ると、ケネスは拳銃の弾倉に弾薬を込める作業をしていた。
「……ん?あ、グレンたちじゃないか。待ってたよ。話は聞いてる。…………そこの兄ちゃんは誰だ?」
ケネスはジェームスの方を見て怪訝な顔をする。
「みんな集まったら説明するさ。……あー喉乾いた、水、水……」
デイブがそう言いながらキッチンの方へと歩いて行く。
「……ま、敵じゃないんだろうしいっか……。あんまり面白いもんは無いけど、ゆっくりしてけよ」
ケネスはジェームスにそう言ってまた拳銃に弾を込め始めた。
「……ルークたちはまだ来ねぇのかー?」
ここに来てはや20分。俺はルークたちが来るのを待って待ちくたびれていた。椅子にだらりと体重を預け、天井を見る。
「んなこと言ったって、向こうだって色々あるんだろう」
ショーンがテーブルのケネスの向かい側でライフルのパーツを磨きながら言った。
「でも普通そろそろ来るもんだろー?メールもしたんだしよー……」
そこでドアのチャイムが鳴る。
「お?来たか?」
デイブが玄関の方を見て、そう呟いた。俺は椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。
扉を開けると、そこには見覚えのある明るい中国人の顔があった。
「うぉっ!?ほ……ホンさん!?」
「アイヤー!やっぱりスラッガーズのみんなだったネー!店の前をそれっぽい車が通ったからもしやと思ったのヨー」
変なところで勘の鋭い中国人だ……。
「……まぁ、ここで立ち話もなんですし、どうぞ入ってください」
俺は中に入るよう促す。
「お邪魔するネー。……ところで、これ差し入れヨ。よかったらみんなで食べてほしいネ」
ホンさんが手に持ったビニール袋を俺に差し出す。中を見ると冷凍食品の肉まんが沢山入っていた。
「おっ!おーい、みんなー肉まんの差し入れだぞー!」
「おぉ!!ホンさんありがとうございまーす!」
「肉まんパーティーとシャレこもうぜ!」
……ヤクの差し入れでも貰ったかのような反応だな…………いやまぁ、ヤクなんて貰っても喜べないメンバーしかいねぇけどここ。……というわけで、電子レンジへ肉まんを放り込む作業が始まった。
肉まんの加熱が終わる頃。玄関のドアがガチャリと開く。
「うぃーっす」
「ちわーっす。お、ホンさんどうもー」
ルークとマイクが肉まんパーティーを始める直前にやって来た。
「アイヤー、ルークくんとマイクくんこんにちはネー」
「おーい、今から肉まんパーティーやるぞー、お前らも食うだろー?」
「えっ、マジぃ!?」
「食う食う!」
ルークとマイクも参戦して肉まんパーティーが始まった。
肉まんパーティーが始まって10分。
「そういやコレ、袋良く見たら日本製なんだな」
ルークが肉まんの外袋を見ながら言う。それを聞いたホンさんが一瞬ビクッとした気がする。
「……悔しいけど、冷凍食品では日本に勝てないのヨ……。その場で作る本来の肉まんとなれば中国は自信もって味を自慢できるネ。でも、ここじゃそういうもの作るための準備が大変なのヨ。冷凍食品になると品質も味も日本製の方が上なのネー……」
ホンさんがションボリする。
「……でもいつかは日本製の冷凍食品も超えてみせるヨ!本場の味は譲れないネ!」
グッと拳を握るホンさんを見てみんな笑いをこぼす。この人はアメリカに住んではいるけれど、生まれ故郷も好きなんだろうなぁ……。
「…………そういや話変わるけど、なんで皆ここに集まったんだ?あとそこのソイツは誰なんだ?」
ルークたちが話の本題について聞いてくる。それにデイブが肉まんを頬張りながら答えた。
「まずそこのソイツはジェームス。ショーンの従兄弟で、サツだ」
サツ、という言葉に反応してルークたち3人の動きが止まる。
「さ、サツ……?またなんで、んな奴をここに……?」
「それに関しては今から説明する。まず────」
今R.C.P.Dではヤクの売買なんかをしている輩がいるということ、ジェームスはそれを告発しようとして狙われていること、そこで従兄弟であるショーンを頼って匿って貰いに来たということ、匿ってもらう代わりに犯罪などには一切口出し手出ししないと約束していること。そして俺たちは指名手配されていることを説明した。
「────ってなわけだ」
「……なるほど。で、その説明をするためにも俺らを呼んだわけだな」
ケネスが頷きながら言う。
「まぁ、そういうこった」
「でも、これからどうするんだ?指名手配が取れるまで隠れ続けるのか?」
マイクがふと思った疑問を口に出す。それにデイブが呆れるように返す。
「ンなこと出来るわけねぇだろぉ?最初の数ヶ月は出来ても、絶対どっかでボロが出る」
「じゃあどうすんだ?」
「自分から出ていきゃいいんだよ」
それを聞いたケネスがバッとデイブを見る。
「自首すんのか!?」
ケネスの質問に対して俺が返す。
「バーカ、ンなわけあるか。デイブ、要するにアレだろ?汚れ掃除」
「そ。よく分かってんじゃねーの」
「伊達にお前と長く付き合ってねぇからな」
他の面々も『汚れ掃除』の意図は察したようである。
「……なるほどね」
ショーンは磨いたライフルのパーツを組み立てながら言った。
「……ってなわけで、準備を始めるぞ」
俺たちは『汚れ掃除』の準備を始めた。
デイブは1度咳払いをして話し始めた。
「まずは作戦を立てるぞ。汚れとはいえさすがに警察が相手だから、あんまり殺しすぎるのはまずい。そこで、ジェームスに働いてもらうことにする」
「俺は何をすれば?」
「アンタには州警察の方に通報して貰う。告発の証拠とかはあるんだろ?」
「一応予算書類なんかは手に入れてる」
「それならよし。じゃあ手順を説明するぞ。まず最初に、軽く警察との戦争を起こすことになる。まぁ、戦争っつっても検問の近くで顔見せて逃げるだけだ。こっちからは手を出さない。で、この時にジェームスには別行動で州警察に連絡してR.C.P.Dを告発してもらう」
「分かった」
「んで、俺とグレンが車でグレイクル山の道を囮として逃げるから、ショーンは先回りして、俺たちを追ってくるパトカーのタイヤを狙撃でブチ抜け。それで立ち往生してくれればこっちのもんだ。あとは州警察の到着を待つのみ。そうだ、マイク、お前もショーンと一緒に行け。狙撃手2人なら確率も上がる」
「分かった」
「了解」
そこでルークが口を挟む。
「特殊部隊とかを呼ばれる可能性は?」
「低いだろうな。なんせヤクの取引で手に入れた金を使ってる。下手に特殊部隊を動かせば自爆だ」
「なるほど……」
「これで行くぞ。緊急事態の時はまたその都度考える」
「分かった」
全員デイブの方を見て頷いた。
「んじゃ、まず何を準備する?」
「全員顔を隠すためにバンダナなりスカーフなり準備だ。ルーク、買ってきてくれるか?安いのでいい」
「りょーかーい」
そう言いながらルークはアパートの外へと出ていった。
「次に弾薬だけど───」
俺が言いかけたところでホンさんが口を開いた。
「それなら任せてほしいヨ!恩人のピンチとあらば安くするネ!最近僕もWECAに加入したのヨ」
ニコニコ笑顔で親指を立てる。
「ほぇー、そうなのか」
「いや、いつもの値段でいい。売ってくれるだけでも有難い」
「あらら……まぁ、とりあえずうちのお店に来て欲しいヨ!」
「OK。俺が行く」
デイブが椅子から立ち上がり、ホンさんと共に玄関の外へと出て行った。
「……なぁ、WECAってなんだ?」
ジェームスがこちらを見てくる。
(あっ、そうだった。WECAについては知られるとまずいかもしれない)
そう思った俺は、適当にはぐらかそうと口を開いた。
「あー、いや、こっちの話だ。忘れてくれ」
「知られるとまずい物なのか?」
「そう、まずい物。あんまりしつこいとショッピングモールに買い物行かせるぞ」
「それ今の状況だとやんわりと『殺す』って言ってるようなもんじゃないか……」
「そういうことだ。悪いけど聞かなかったことにしてくれ」
「……分かった」
なんとかなった。ふぅ……。
ルークが買い物から戻ってきて、その後デイブも戻ってきた。ホンさんは「ちょっとこの後WECAの会議だから」ということで地下に行ったらしい。
「んで、こんなもん貰った」
デイブは弾薬の入った袋とは別にもう一つ袋をテーブルに置く。
「ん?なんだこれ?」
ショーンがそう言いながら袋を開けると、中からなんかどこかで見たことあるような代物が出てきた。
ちょっと楕円っぽい球体に格子状の線が入っていて、片側の先端にはレバー、そしてそのレバーの付け根に輪っかが付いてる。
「おい、これって────」
ケネスがそれを見て何かを言いかけたところでジェームスが驚くような声を上げた。
「おい!?これ手榴弾じゃないか!!一体どこからこんなもの入手してきたんだ!?」
それにデイブが答える。
「銃砲店に行ったら『サービスだ』だとよ。まぁ、気にするな。どっちにしろ多分今回は使わない」
下手な罪状重ねすぎると、R.C.P.Dをぶちのめした後も別件で追われるだろうし、とデイブは付け足した。
「なるほどなぁ……」
ケネスが感心したように言う。
「いや最初から気付けよ」
とルークがツッコミを入れたのを見て吹き出してしまった。
「……じゃ、やるか」
「おうよ」
「行こう」
俺たちは行動を開始した。




