2:『指名手配』
デイブの運転するワゴン車は、建設現場から離れ、街中を法定速度ギリギリで走り抜ける。
「……にしてもどうしたんだ?一体何があった?あとショーンはどこだ?」
とりあえず疑問に思ってることをいろいろ聞いてみる。それにデイブが運転しながら答えた。
「どうやらジェームスは後をつけられてたみたいでな。どう見てもサツかエージェントか何かにしか見えないような奴らが来たから、とりあえず避難ってわけだ。ショーンにはバイクで別行動してもらって囮になってもらった。この先の街の外れにある『グレイクル山』って山の中腹で合流することになってる。一応無事の連絡メールはもう受けてるぞ」
「そうか。なら良かった」
ショーンの無事を確認し、ホッとする。
「……悪かった。まさかつけられてたなんて……」
ジェームスは後部座席で小さな声で謝罪した。それに俺が応える。
「……ま、そんな気にすんな。今の所ちゃんと逃げ切ってるみてぇだしな」
「そうそう。謝るくらいならドンパチに参加するくらいの意気込みで来い。とにかく今はグレイクル山中腹に急ぐぞ」
デイブはギアを四速に入れるとワゴン車を加速させた。
走ること20数分。ワゴン車は未舗装の山道を少し速度を落としつつも、エンジンを唸らせながら突き進む。
途中道が広くなって平坦になっている場所があり、そこにショーンはいた。
「おっ、いたいた」
デイブはワゴン車をショーンのバイクの横に停車させ、全員車から降りる。
「おつかれ。囮やってくれてありがとうな」
「いいよそのくらい」
デイブとショーンは握り拳同士をぶつける。
「……さて、なんとか逃げ切ったな」
「アイツら銃持ってたよ。殺す気満々だった」
「……もしかして、撃たれたのか……?」
ジェームスがとても不安そうな顔をする。
「あぁ、撃たれたよ。向こうも車を運転しながらだったからか、全然見当違いの所に飛んでたし、一発も当たってないけど」
「そうか……怪我が無いなら良かった……」
ジェームスはショーンの話を聞いて胸をなで下ろす。その後ろでデイブは携帯電話をいじっている。
「……にしてもこれからどうするよ?下手に街中に戻れば、また追っかけられるんじゃねぇか?」
なんとなく俺が出した話題に、デイブが情報を付け足す。
「グレンの言う通りだな。今、警察のサイトを覗いてみたんだけど、俺ら4人の名前が指名手配犯リストに載ってるぞ」
「はぁ!?ウッソだろおい!?」
「嘘じゃねぇさ。ほら」
デイブは自分の携帯電話の画面を俺たちに見せる。それにはR.C.P.Dのホームページが表示されていて、指名手配犯リストの『最新』という欄に俺たちの名前が、律儀に写真まで付いて今日の日付で貼られていた。
「これは本当に下手に街には戻れないな……」
ショーンは携帯電話の画面に表示された自分の顔を見ながら言う。
「まぁ、街に戻ることは出来なくはないが、行動範囲やできる行動は相当制限されるだろうな」
ショッピングモールで買い物なんかもってのほかだ、とデイブは付け足す。
「……あー、あと、車やバイク使えなくないか?指名手配ってことは車のナンバーなんかに目を付けられてるだろ?」
ふと思ったことを口にしてみる。
「まだバイク買ったばっかりだし、乗り捨てるのはちょっと嫌だな……」
そういや、ショーンはバイク買って1ヶ月も経ってないんだったな。
「いや、乗り捨てる必要は無いと思うぞ」
デイブがそう言い出した。
「え?でもナンバーとか特定されるでしょ?」
「ナンバー特定されるなら、ナンバーを替えちまえばいいんだよ。ナンバーを替えれば、少しの間は顔さえ見せなければ追っかけられないはずだ。その間に安全な場所に移動して隠れる」
「なるほど……」
「早速ナンバープレートを取りに行くぞ。たしか山の麓辺りに駐車場があったはずだ」
デイブが車の整備用の工具を取り出すためにワゴン車の後方ハッチを開けると、AK47やらKar98kやらいろんな銃が出てくる。
「うわっ!?なんだこの銃は!?」
ジェームスがそれらの銃を見て驚く。まぁ、どう見ても違法っぽい銃もあるから、当然っちゃあ当然なのかもだけど。
「『何を見ても捕まえない』んだったよな?」
すかさずデイブが先手を打つ。
「……あぁ、分かってるさ」
ジェームスはそれ以上何も聞いてこなかった。
「……さて、取りに行くか」
「そうだな」
「行こう」
俺たちは山の麓の駐車場へ向けて歩き出した。十数分程歩くと山の麓の駐車場に辿り着く。そこには数台の車やバイクが停めてあった。この近くにはレジャー施設もあったはずだ。多分そっちの客の車なのだろう。
「おい、デイブ。監視カメラがあるぞ」
俺は駐車場の入口付近に付けられている監視カメラを指差す。
「任せろ」
デイブは自分の拳銃を取り出して弾を装填すると、監視カメラに向けて構える。距離は約30メートル程。
デイブは引き金を引き絞る。ライフルよりかは軽い銃声とともに、監視カメラがぶっ壊れた。
「ナイスショット」
「どーも」
デイブは拳銃を腰のホルスターに収めると、全員を促す。
「ほら、さっさとナンバープレート拝借するぞ」
「あいよ」
すぐに駐車場に入り、適当な車とバイクを見繕ってナンバープレートを拝借して駐車場から出ていった。
「よし、さっさと俺らの車のと付け替えて移動するぞ」
また来る時と同じくらいの時間をかけて俺たちの車のもとへ戻り、さらに数分かけてプレートを付け替える作業を終えた。
「さて、さっさと移動するぞ」
「でも移動するったって、どこに行くんだ?市外か?」
ショーンの質問に俺が答える。
「市外は出れねぇんじゃね?検問敷かれてたら即確保だろうな」
俺の回答にデイブが続ける。
「あぁ、市外に出るのは無理だろうな。市外に出ずに安全な場所に行くぞ」
「そんな所あるのか……?」
ジェームスが疑問を口にすると、デイブは俺の方を見た。
「グレン、お前は分かるだろ?警察が居なくて、仲間のいる安全な場所」
「仲間のいる……?……あぁ、なるほど。今分かった」
「よし、じゃあさっさと乗れ、出発するぞ」
「あいよ」
「…………?」
ジェームスとショーンは頭の上に疑問符を浮かべながらもそれぞれワゴンとバイクに乗った。
「んじゃ、出すぞ」
デイブはギアを一速に入れて走り出した。
ワゴン車は街の繁華街から少し離れた通りを走る。ショーンはその後ろをバイクで付いてきていた。
「……そういや俺達が警察に追いかけられるどころか、指名手配なんて初めてじゃね?」
俺はふと思ったことを口にする。
「嬉しくねぇ初めてだよな」
デイブは運転しながら俺の言葉に反応した。
「まぁ、そりゃな」
「それよりグレン。あいつらに電話……はダメだな。警察に逆探知されかねない。メールしろ」
「OK、なんて打てばいい?」
「『大至急この前譲った縄張りに集合。あと20分で着く』って打て」
「りょーかい」
俺は今言われた通りの文章をグローバルサーバーのメールに打ち込み、ルークへと送信した。すると驚いたことに38秒で返信が来た。……アイツ暇なのか?
『了解!ケネスはそっちにいるはずだから、伝えておく。俺とマイクもすぐに行く。───ルーク』
「OK、返信も来た。ケネスは向こうにいるってよ」
「よし、じゃあ急ぎ目で行くぞ」
デイブはギアを三速から四速に入れ、車はさらに加速した。
20分後、俺たちはある場所にたどり着いた。以前チャイニーズマフィアのチェン・タオと追いかけっこした場所……そう、中華街だ。
俺たちは裏路地に車とバイクを停めて車を降り、中華街を歩く。あの遠雷軒の前を通り、俺たちは一つの建物の前で足を止めた。
「……たしかここだな」
目の前にそびえるのは三階建て全6部屋の古びたマンション。ホンさんはここの201号室を隠れ家として貸してくれている。別に他に入居者は今の所いないらしいのだが、なぜか201号室。まぁ、そこは深く考えないでおこう。
「んじゃ、さっさと入ろうぜ」
デイブは階段へと歩き出した。
「なるほど中華街のことだったのか……」
ショーンはグレイクル山での疑問の答えを得てスッキリしたような顔をしている。
階段を上り終え、201号室の前にたどり着く。
俺たちはゆっくりと201号室の扉を開けた。




