1:『唐突な来訪者』
昨日、ルークたちも自分たちの家に帰り、俺らの隠れ家が、また静かになった。
「こう、何日も賑やかだとさ、静かになった時ちょっともの哀しさがあるよな」
「そうだなぁ……ま、どうしようもない」
「……まぁ、そうだな」
俺たちは朝食のコーンフレークを頬張りながら、何気なしにそんな会話をしていた。
「グレンお前、今日はバイトだったよな?」
「あぁ。建設現場の手伝いだな」
俺たちは生活費を稼ぐためにちょくちょくバイトをしている。
「今日のバイトは何時からなんだ?」
「午前11時から」
「ふーん、そっか」
などと会話していると、ドアのインターホンが鳴った。
「ん?はいはーい、今出まーす」
俺は玄関へと行きドアを開ける。するとそこには、俺らより少し歳上な感じのする、スーツを着た男が立っていた。
「あ?誰だアンタ?」
男は無言のままスーツの内ポケットへと手を突っ込み、革製の何かを取り出した。折り畳まれたそれを開くと、中から警察バッジがあらわになる。
「げっ」
「……邪魔するぞ」
男はずかずかと隠れ家(ショーンの家)に上がり込んでいく。
「おい、そいつサツだ!」
「なにィ!?」
デイブがすぐさま立ち上がり、そっちを向いて身構える。
「……あ」
ショーンが男の顔を見て、何か知ってるような声を発した。
「……やぁショーン、久しぶり」
男はショーンと向かい合って立ち止まり、初めにそう言った。
「……ショーン、知り合いか?」
俺はショーンに質問を投げかけてみる。
「うん。従兄弟」
「「従兄弟ぉ!?」」
俺とデイブは、同時に素っ頓狂な声を上げた。
「紹介するよ。俺の従兄弟のジェームスだ」
「……いやー、にしてもまさか、ショーンの従兄弟がサツだとは……」
デイブは腕を組んでまじまじとショーンの従兄弟、ジェームスの方を見る。
「ん、コーヒー」
まぁ、サツとはいえショーンの従兄弟だし客は客だ。一応コーヒーくらいは出してやらないとな。俺はコーヒーを淹れたカップをテーブルに置く。
「……どうも」
一応礼はちゃんと言うみたいだ。めちゃくちゃ警戒されてるけど。
「あぁ、心配しなくても毒とかは入ってないよ」
ショーンが軽くジョークを言う。
「いや、流石にそこまで警戒してるわけじゃないから……。で、そこの2人は誰なんだ?」
「あぁ、俺の仲間だよ」
「仲間……もしかして、ギャングに入った噂って、本当なのか?」
「……うん。そうだよ」
それを聞いて、ジェームスは一度ため息を付く。ショーンはそれをスルーして次の話に進める。
「それで、今日はどうしたの?」
「……実は少しの間だけ、ここに匿って欲しいんだ」
そこにデイブが割って入る。
「はぁ?匿うって、アンタ何したんだよ?」
「……実はな……」
ジェームスの話によると、今ルーケンズシティ警察署(R.C.P.D)では財政難に陥っているらしい。そして警察署内の上層部は、秘密裏に薬物の売買で金を稼いでいる。ジェームスはそれを上の州警察に告発しようとした所、R.C.P.Dの上層部のヤツらにバレてしまい、口封じのために追われているそうだ。
「……ついに警察もそこまで汚くなったか……」
「素晴らしい汚職っぷりだよな」
俺とデイブは呆れたように言う。
「頼む。ほとぼりが冷めるまででいいんだ。匿ってくれ」
「警官がギャングに頼み事ってのもなかなかの汚職具合だけどな」
「う、うるさい!」
「はははっ、まぁそう言わないで匿ってやろうよ?」
「いやまぁ別にいいんだけど。……あ、ただし条件」
「な、なんだ」
「匿う以上アンタも一時的に俺らとグルだ。何があっても、何を見ても俺らを逮捕しないこと。いざって時にはアンタを追ってきてるサツとドンパチしなきゃならねぇんだからな。約束できるか?」
「わ、分かった」
「ならよし」
「……っていうかここはショーンの家だろ!」
ジェームスはワンテンポ遅れて気付いたようにツッコむ。
「今は俺らの隠れ家の一つでもある」
「……そうか……よろしく頼む」
「おう、よろしくな」
「まぁ、根は悪い奴らじゃないから、仲良くしてやってよ」
ショーンはジェームスに対して微笑む。
「あ、あぁ……」
警察が仲間になった。
その後特に何もなく、午前10時頃。
「グレン、お前そろそろバイトだろ?」
「おう。んじゃ、行ってくる」
「いってらー」
俺は作業着に着替えて隠れ家を出た。
歩くこと25分、俺はバイト先の建設現場に辿り着いた。たしか……マンションが出来るんだったっけか。
「ちわーっす」
「おー!グレン来たか!」
「ガストさんどーもー。今日もよろしくお願いしまーす 」
俺は、作業着に身を包んで首にタオルをかけたゴツい体付きのオッサンに挨拶をする。
「おうよ。今日もよろしく頼むぜ」
この人はガスト・グレースさん。俺がギャングのメンバーだということを知った上でバイトとして俺を雇ってくれている。「ギャングだろうと何だろうと、ここで働く気があるなら、うちの従業員だ!」だそうだ。なかなか豪快な性格をしている。が、割と細かい気遣いも出来る人でもある。現場のリーダーをやるには、気遣いも必要なのだろう。
「今日はお前は奥の方で資材運搬をやっといてくれ」
「りょーかい」
「今日はお前は11時からだったな。11時まであと15分くらいあるし、10分くらいはそこら辺でのんびりしてていいぞ」
「あざーっす」
俺はお言葉に甘えて休憩所のベンチに座る。
「よぉグレン」
「おつかれーっす」
俺は休憩所にいた他の作業員に挨拶をする。
「おつかれ。お前11時からだろ?俺10時半までだったからもうすぐ上がるわ。後はよろしくな」
「りょーかい。任せてくれ」
「はは、頼もしいねぇ。んじゃ、おつかれー」
その作業員は休憩所を出てガストさんに挨拶をしてから帰っていった。
その後ものんびりと10分間を過ごし、10時55分に現場へと入った。
現場に入って2時間、現場の奥の方で板材やらセメントやら、資材を必要な場所に運ぶ作業をしていると、ガストさんが俺のところに来た。
「ん?どうしたんすか?」
「ちょっと外を見てみろ。そっとだぞ」
言われた通り壁にかかったブルーシートの隙間からそっと外を見てみると、そこにはスーツを着た男2人と、どう見ても警官にしか見えない男2人が居た。スーツを着ている奴も、多分刑事とかそこら辺だろう。
「警察がいるだろ?お前をお呼びのようだが、グレンお前、何かしたのか?」
「いや?(少なくとも今日は)何もしてないっすよ」
いやまぁ、なんとなく心当たりみたいなものはあるんだが……。
「どうする?行くか?」
「行くわけないでしょ」
当然即答。
「よし、じゃあ今日は有給消費したことにしてやるから、裏から出ろ」
「いいんですか?」
「もちろん。従業員に減られるのは後々困るしな。ほら、さっさと行け。俺が時間を稼いどいてやる」
「……ガストさん、ありがとう」
俺は現場の裏へと向かって走り出した。
現場の裏口からそっと周囲を窺う。どうやら警察は来ていないみたいだ。
俺が建設現場を出ようとした所で、聞き覚えのあるエンジン音とともにワゴン車が目の前に止まった。窓が開くと、デイブが顔を出した。
「グレン!乗れ!」
「お、おう!」
俺はワゴン車へと乗り込む。中にはジェームスも乗っていた。
「掴まってろよ!」
デイブは、俺がシートベルトをしたのを確認すると、ワゴン車を急発進させた。




