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おねえちゃん、現る。

 あれは、一週間前のことです。

 就職難の昨今、やっと就職した館での出来事です。

 臀部でんぶに違和感があったので、おやおやと振り返ってみると、そこには手がありました。旦那様でした。気付くと、私の手が旦那様を壁まで吹き飛ばして、顔面を足蹴にしてました。

 首にされました。

 一文無しです(泣)

 現在、実家へと帰る途中です。

 気が重い。

 果てしなく重い。

 悲しいことに使用人の服しかないので、ひだのついた可愛らしい服で山道を歩いています。

 その光景は異常だったでしょう。


 が――もっと異常な光景が故郷には広がっていた。

 村の門から辺りを見渡すと、柵が囲われていた。近くによってみて見ると締め縄が新しいが、でたらめな結び方だった。気になったので、縄を解いて、二本同士を結び合わせて、グルグルと数回結び、縦にも同じ回数結び、割り二回いれて、結束した。

「下手くそですね」

「へー、そうやって結ぶのか」

 突然横から男の声だ。びっくりした。聞いたことが無かったので、じっと見つめてみると、太陽のような表情をした美男子だった。私の記憶ではこの村にはいない存在だ。声に訛りがないので、都会っ子かもしれない。

「そうですよ。この結び方だったら、死人が出ます」

「そんなに! 言いすぎでしょ!」

「柵だよ。柵。頑丈そうに見えるものには、人は足をかけたりするんですよ。これ足かけたら、串刺しになってしまいますよ。ほら」私は結びの甘い柵に足をかけて次々と壊していった。

「ああ、酷い……」

 美男子は悲観の声を挙げた。


「ところで、君見たこと無いね」

「それは、こっちの台詞ですが。私はここの出身です」

「俺はアスラン。この村の居候です」

「ふーん、私はジニーです」


 はて……?

「アスラン君、なんでついて来るの?」

「いや、居候している家こっちだから」


「ここ?」

「ここです」

 えっ、うちに居候しているの?

 アヴィスが私を見て喜んだ声をあげている。

「うわー、安易に帰ってきちゃったけど、ここにいたらアヴィス飼わなくちゃいけないんですよねー」

 狩人はアヴィスを一人一羽飼わなければならないことになっている。違反せし者は罰せられる。

 最悪です。

 憂鬱です。

「ただいまー」

 扉をあけて中を覗くと、ルナがちら見して、視線を外した。

 相変わらずセシルにしか懐いていない猫です。

 足音を立てないように自分の部屋へ行くと、荷物が散らかっていた。

「そこ、俺の部屋」

 アスランが言った。

 実家にも、私の居場所はありませんでした。

「ただいまー」

 誰だこの声は……。

「おかえりー」

 誰だよ、この女……あっ、錬金術士のユイだ。

「あれ、ジニーちゃん! 帰ってきたの! 久し振り!」

 ああ、そんな大声出さないで!


 おとうさんが起きてきたので、私は逃げました。

 逃げた私を見て、おとうさんは勘付きました。

 薪を拾って、私の足に向けて投げてきました。

 私の足はもつれて転倒しました。

「仕事……辞めたな?」

 気付くと、私の傍らにお父さんに座っていました。すぐに怒られると思ったけど、どうやら様子がおかしかった。痛々しそうな表情をしている。

「うん、辞めた」

「なんで?」

「尻を触られた」

「何回?」

「一回」

「何秒?」

「一秒くらいかな」

「……まあ、いいか。お帰り」

 よかった。許してくれた。

「帰ってくるのはいいけど、アヴィスは自分で買えよ。捕まりたくねーから」

 そうですよねー。


 なんか、私の家が大所帯になっていた。まず錬金術師のユイだが、どうやらおとうさんが無茶をしたため、常駐して面倒を見ているようだ。部屋はセシルと一緒。アスランは私の部屋を使っていたようだが、追い出して居間に寝かせることにした。

 私はセシルと話したかったけど、どうやら山へ柴刈りへ行っているようです。

 二人っきりで話したかったので、私はテクテクと散策を始めた。


 血が繋がらないとはいえ、姉妹だ。

 セシルが裸で水浴びをしているのをすぐに見つけた。

 だが、それはセシルではなかった。

「魔王ですか……」

「ヴァージニアか。帰っていたのか」私の名前を正式に言った。

 子どもの頃は魔王が操っていることが多かったが、最近では回転式拳銃の力で押さえつけていたはずだった。魔王の力が強くなっているのかも知れなかった。

「さっき帰ってきたばっかりよ。無職になっちゃったからね」

「情けないな。セシルにとってはカッコいい姉なのにな」

 そうなのだ。セシルは私が何でも出来ると思っている。それは辛いことだ。セシルのほうが何でも出来るからだ。情けない姉に故郷は辛い……。

「いいでしょ。別に」

 セシルの姿は変わらない。年相応の胸の大きさも、魔王の力によって男化しているので小さいままだ。おとうさんが言うには、地球の女性は胸が大きいと言っていたので、少なからず影響しているのだろう。それもそのはずだ。パンゲアの人類と、地球の人類では生まれ方も違う。地球人は卵から生まれないそうだ。私たちは卵から生まれるので、まったく違う存在なのだろう。


「ずーっと、セシルが起きない」

 ずーっと? それはどのくらいの時間なのだろう?

「いつから?」

「二週間前からだ」

 今までは長くて一日くらいだった。

 それが二週間も経つとは……。

「生きているの?」

「当然だ。中に引きこもっているだけだ。よほど、殺したのがこたえたんだな」

 魔王が語った言葉は恐ろしいものだった。七選帝候である魔弾の射手と伝説の銀狼がこの村にやってきていたのだ。剣聖だったおとうさんは魔弾の射手と相対したが、セシルは次代の魔弾の射手と相対して、魔王が操ったとはいえ殺人を犯した。

「あなたの願いが叶ったんじゃないの?」

「馬鹿な」鼻で笑った。「俺が支配しても意味が無い。俺は負けた魔王だ。次代を作るのは新しい息吹だ。このまま引きこもってもらったら困るんだよ」

 意外な返答だった。自由に操れるならそれでいいのかと思っていた。

「セシルは俺と融合しなければいけない。そうしなければ七選帝候たちに勝てるはずが無い。とくに、世界最強の戦士、あれは異常だ。数億のカルマが渦巻いていて手出しが出来ないほどだ。あれに勝つには、もっとカルマを積む必要がある。もっと苦しまなければならないんだよ」

 何かあてがあるのだろうか。大犯罪者のような顔つきになっていた。

「これ以上苦しめてどうするの? どんどん引きこもるよ」

「そうなんだよ! 精神力がこんなに弱いとは!」

 いやいや、人殺したら誰だって落ち込むでしょーが。


「セシル! 起きろ!」

 私はセシルの肩をつかんで前後に激しく揺さぶった。

「ムリだー」

「起きなさい! 朝だよ!」

「ムリだー」

「12歳までおねしょしていたことをバラすよ!」

「やめてぇぇぇぇ!」


 起きました。


「あれ、おねえちゃん?」

「セシルー、久し振りー」

 私はセシルの頬を抓って可愛がってあげた。

「あれはおねしょじゃないんだよ。あれは屋根が雨漏りして」

「否定したいことは、誰にだってあるよ」

「いや、雨漏りなんだよ?」

「大丈夫、私は気にしないから」

「だからね。雨漏り……」

「漏れたんでしょ。分かっているから」

「おねーちゃん!」

 私はセシルをからかっているのが楽しくて仕方が無かった。

「セシル……おかえり」

 セシルが不思議そうな顔をした。

「ただいまでしょ?」

「どちらでもいいかな」

「どっちでも良くないような……」

 義理の姉妹として今まで育ってきた。その過程でおとうさんからはすべてを教えられていた。おとうさんが死んだときは、私がセシルを支えてあげようと思っていた。私がいない間に、運命の歯車は回っていた。私も平凡に生きることは出来なくなるだろう。

「セシル、私たちは唯一の姉妹だからね」

 私がセシルを抱きしめると、セシルは顔を真っ赤にさせた。

「おねえちゃん、私裸だよ」

「いいではないか。いいではないか」

「やめてー、おねえちゃん!」

 私は無職となって穀潰しの道を歩み始めた。


 ~魔弾の射手編 終わり~

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