剣聖、魔弾の射手と戦う。(バトル有り)
「まあ、待てよ。美玲」
美玲を見たのは、十数年ぶりだ。どちらかというと端整寄りといえる容姿も、年月に勝てていないようで、目元に小皺がある。落ち着いた印象は、さすが七選帝候と言ったところだろうか。
「剣聖ウィリアム、久し振りね。少し老けた?」
美玲は銃を肩に担いだまま、此方へ歩いてきた。俺も剣を肩に担いで、姿を隠さず歩いた。徐々に近づいてくると、お互いの年月を確認できた。
「甘いわね。私が銃を撃ったら、どうするつもりだったの?」
美玲はくすりと笑って、生身の左手で銃を撃つ構えをして「BLAM!」と言った。
「美玲が撃つはずが無い」俺は確信していた。「お前の初恋の相手は俺だろ? まさか、初恋の相手が久し振りに目の前に来て、即殺すのは無いだろ?」
美鈴は目が点になり、堪えきれなくなって笑った。
「自信があったのね」
「当然」
俺は自信満々に言った。
「まあ、たしかに、話すつもりだったわよ。積もる話もあるから」
「俺が聞きたいのは、唯一つ。何故、セイラを殺した」
「理由が分からないの?」
「その口から聞きたい」
美鈴は呆れたように溜息をついて、膿みを出すような苦痛の表情を浮かべた。
「私達の最初の動機は、セイラが誘拐されたからだよ。でも、救出には何年も時間がかかった。その結果が、魔王とセイラの間に子どもが産まれてしまった。魔王にとっては唯一の後継者だった。セイラは名実共に時代の魔王の母となった。殺さなければいけなかったんだ。そうしないと、私たちを支援してきた民衆を納得させるのは難しかっただろう」
「それだけか? 難しかったから殺したのか?」
「彼女が懇願してきた」
命を奪えと……。
「嘘だ」
「本当だ。セイラも分かっていたんだ。自分が死ななければ、完全決着がつかないと……」
美玲の目付きに殺気が漲り、俺の全身は凍てついた。
「だからこそ、魔王の遺児など残してはいけなかったんだ! あの女の子は、セイラの娘だろう! 何故生かした! 答えろ! また戦乱を起こすのか? それとも愛人にでもするつもりか?」
己の歯をかみ締めた音に驚いた。考えるより早く、体が反応した。
「いま、なんていった?」
俺は剣――リュートを抜いた。細身で、刀身を揺らすと美しい音が鳴る。セイラが「リュートのような音がする」と言ったので名づけた。この美しい剣は多くの命を奪った。時代が変われば、俺は稀代の殺人鬼だ。
「リュートか。いいねぇ、負けそうだねぇ、久し振りに見せてくれよ。その業化した姿を」
「ザミエルは無いのか?」
「娘に盗られた。だが、この銃で十分だ。弘法筆を選ばず――だ」
美玲は樹の陰に隠れた。
「業化」リュートの刀身に砂紋が浮かび上がり、左から右へ切り払うと、刀身から風が飛んでいった。木々は枝を飛ばして、美玲の樹を真一文字に斬った。
樹がゆっくりと倒れていく、俺は木の陰を見るため、横移動をした。足も軽くなる。リュートは風の性質をもった業化だ。ザミエルと違って『大食らい』では無い、業化はそれぞれ特徴が違うので最初は探り合いになる。
相手の持ち味を知っているなら、最初から全力で行くしかない。
「ん? いない」
美玲は樹の陰にはいなかった。樹はどんどん倒れていく。
あっ、まずい。どこにいるかわかった。
美玲は樹に登っており、倒れながらも銃を片手で構えていた。
リュートの移動速度が勝った。足元の石が砕けた。
「外した!」と美玲。
「外れた!」と俺。
お互いの衰えを隠せなかった。
美玲は要所で銃弾を発射して、俺の突進を止めつつ、徐々に距離を詰めてきた。
接近戦では俺が有利だ。もっとも、剣より内側の間合いでは、美玲の方が有利だ。あいつの拳法は一撃必殺の力がある。特にこの世界の住人と、異世界の住人とでは、体力差が大き過ぎる。男の俺でも、美玲に一撃を食らったら絶命する恐れがある。
距離が詰まる。
リュートの速度が銃弾の速度に負けるまで、間合いを詰め続けるのだろう。美玲の必殺圏内に入った瞬間が俺の好機だ。その瞬間に、俺がさらに間合いを詰めて、俺の必殺圏内に持ち込む。
と、それが狙い目だと思うはずだ――。
発射、火薬の臭い、鼻腔をくすぐる。
美玲の必殺圏内。
俺はリュートで足を加速させた。
雄たけびをあげた。
それが合図だ。
美玲は右手を風車のように回した。義手が弾丸をはじき、奇襲の三発のうち一発を俺にはじき返してきた。リュートの反応が間に合わない。俺は体勢を崩して、倒れながらリュートを振るった。風の斬撃を飛ばした。
美玲は俺の攻撃を軽く跳んでかわして、奇襲してきた相手に向けて即座に三発撃った。銃声の後に、落ちる音が三度聞こえた。
「甘いな。私が見逃すと思ったのか。この村に来たときに、私は村長と対面しているんだよ。気付いたよ。あの村長の顔を忘れるはずが無い、年をとり、衰えたようだが、人相はそう変わらない。反乱軍との戦い続きで、野戦任官で元帥までに登りつめた。クソ爺、ルイ=ベルナドット。この村は魔王軍の残党が作った村だろ? 図星か? 図星なのか? たった一人の娘に自分たちの夢を預けるなんて、揃いも揃って無能どもだ!」
美玲は猛り、目がギラギラと輝き始めた。
「いやー、死ぬかと思った」奇襲した三人のうちの一人だったベルナドットこと村長は高速匍匐前進をして、俺の元に来た。
「どうします?」
「んー、もう……空っぽだね」
はっきり言うと、俺達に勝算はなくなっていた。
※野戦任官で本当に元帥まで上がれんのかなー?




