魔王、殲滅戦。(バトル有り)
俺は、十数年前に俺を殺した回転式拳銃を握り締めた。剣聖が何処でこれを拾ったか知らないが、魔王殺しの拳銃は、首飾りの力を防ぐのに十分な力を有している。出血を手で抑えているように、力の奔流が出てこない。だが忌々しいことに戦闘中だ。武器を捨てるわけにはいかない。
業化した首飾りには、魔王≒俺の力が封印されていた。数百年に渡る魔王の治世は、首飾りの力を受け継ぐことで、不老不死と見紛う程だった。世間でも魔王は不老不死と呼ばれていた。
血族であるセシルの体を奪おうとしたが、セシルの力と回転式拳銃の魔王を殺した力により、体を奪うことが出来ない。セシルが自然と力を求めてしまわなければ、俺は支配することが出来なかっただろう。
「魔王……? 処刑されて死んだはずだ」
俺はカチュアを睨みつけて、体を観察した。胸が大きく、背筋が伸びており、全体的に引き締まっている。それなりの訓練をしていたようだ。だが、臭いでわかる。地球人ではない。純血の地球人であるセシルの身体能力には背伸びしても勝てないだろう。勝算は十分にある。
「魔王は不老不死だ。体を変え、性別を超え、時代を変え、時を超える。業化したザミエルを持っているなら勘付くんじゃないか? この首飾りは魔王の持ち物だ」
カチュアが銃身を曲げられたザミエルを梃子を使って直して、ザミエルを美しい姿勢で構えた。よく訓練されており、手のぶれを最小限に押えている。唯一の不利は、相手が普通の銃ではなく、ザミエルを所有していることだ。魔弾の射手たる由縁の魔銃だ。
「魔王は道具が業化した存在だったのか……」
カチュアの瞳に怪しげな光が差した。
そう……その眼だ。
俺が欲しいのだろう。
これを手にすれば、
魔王の力が手に入るのだ。
惰眠を貪り、自由に生き、気に入らないものは殺し、愛するものは手に入り、世界は自分の物となる。なにもかも手に入る。欲望に身を任せても、徳の大家のように振舞えるのだ。自分の描いた世界に生きることが出来るのだ。
「俺が欲しいのか?」
カチュアの顔が赤くなり、唇を噛み締めて白くなった。我慢をしているのだ。
「欲しければくれてやろう」
俺はアスランの傍らに行って、剣を拾った。かなりの業物だが、先が折れている。
「さあ、言ってごらん? 力が欲しいと……」
カチュアはザミエルを軽く抱いて、深呼吸をした。
「私が欲しいのは愛だ。力なんていらない」
面白いことを言うものだ。
「力があれば、愛は手に入るぞ?」
カチュアは鼻で笑い、舌を大きく出した。
「だから、お前は悪なんだ」
「悪? おいおい、俺の聞き間違いか? 俺は魔王とは呼ばれたことがあるが、悪ではない。俺の魔は、魔法の魔だ。決して、悪ではない。むしろ、善のほうが多かっただろう。この世界に産業革命をもたらしたのは俺だ。俺が豊かにして、餓えの無い世界を作ったのだ。統治者の能力は、民をいかに餓えさせないかじゃあないのか? この世界で餓えている人間を数えたことがあるか? 一人でもいたら俺の勝ちだ」
「そんなこと知るか」
「その無関心さだ。民が俺の復活を望んでいるのもわかる」
カチュアはわざと大きな溜息をついた。
「民が魔王の復活を望んでいるのは、飢えからではない、前より自由に生きる権利を有したからだ。自由とは辛い、だが辛いからこそ生きがいがある」
「ほおっ……生きがいの無さそうな女がよく言う」
「そう思っているからといって、そう生きれるとは限らない」
俺はすこし面白くなっていた。
「負けたものが、悪だ。七選帝候に負けた時点で、お前は悪だ」
素晴らしい言い分だ。負けたものが、悪。実に良い、闘う意欲が滾るように沸いてくる。
「歴史の授業か? 負けたものが悪、正史の必然だ。七選帝候たちを見てみろ。一番になり、力を使ってなにをしている? なんでも手に入れているんじゃあないのか?」
「いいや。皆何かに餓えている」
「それは嘘だ。やつらは満ち足りているはずだ」
「意見が違う」
「そのようだな」
カチュアは覚悟を決めて、その場に唾を吐いた。
「魔王。お前を殺すのは、私だ。歴史に再び名を刻んで死ね」
ザミエルが叫び声をあげて、銃弾を発射してきた。赤黒く、蒸せる臭い、石と骨の弾丸、死肉を食らって弾丸を生成する魔銃だ。狙撃銃だが、無限に近い弾数を放つ、土は埃をあげ、木肌は陥没して、大気は死で充満する。
木々が泣いている。イタイイタイと泣いていた。俺には分かる。俺は【魔】王だ。木々の声を聞く事など朝飯前だ。だからこそ、魔王なのだ。
カチュアの乱射は狙撃と言っていいほど正確だった。おかげで俺の剣捌きは冴えにさえた。弾丸の軌道を読みきり、剣を振るって真っ二つ、神速の剣術だ。
カチュアは己の非力さに、涙を堪えながら銃を撃っていた。やがて、乱射は止まり、断続的な射撃となった。冷静になったのだ。相手が巨大すぎて、本体も巨大だと思ったのだろう。生物とは、本来の大きさよりも、小さくも大きくもなれるものなのだ。
俺は樹の陰から飛び出して、弾丸を剣で弾き返した。カチュアは倒れるようによけたが、肩に被弾して苦痛の呻き声をあげた。人間の小指だ。ここまで来るのに死んだ冒険者の一人のものだろう。
「でたらめだ……」
俺は回転式拳銃を構えたときに、闖入者が現れた。
フェンリルだ。美しい銀狼はまっすぐにカチュアの方へ向っていた。俺は弾丸を二発発射したが、ザミエルの弾幕に撃ち落された。舌を撒くような正確さだ。おもわず、口笛が出てしまった。
「フェンリル! 嘘だ。死んじゃ駄目!」
無理だ。首が据わっていない、少しでも油断したら死に至る重傷だ。
カチュアはフェンリルの体を気遣い抱きつきはしなかったが、近くまで駆け寄った。
フェンリルはザミエルに鼻先を擦りつけた。
愛おしい行動だ。
「ザミエル! 駄目!」
俺を食え、と言っている。
カチュアは必死にザミエルを押えている。
ザミエルの銃口が食虫植物のように開き、フェンリルを頭から齧った。
「いやああああっ! 止めて!」
一気に丸呑み、銃口の端から血が飛び散った。
「嘘だ! こんなのあんまりだ!」
「えへへへへへへっ」
笑いが止まらない。
フェンリルはザミエルを魔弾の射手として認識していたのだ。
カチュアではない。
そして、カチュアは……種族を越えてフェンリルを愛していたのだ。
カチュアの駆け落ちの相手とは、フェンリルのことだったのだ。
これが、笑わずにいられようか。
「一世一代の冗談か? 笑える人生だな」
カチュアはザミエルを抱えて、少量吐いた。そして、本性を見せた。
「優しくしてくれたのは、フェンリルだけだ。私はそれ以外の愛を知らない」
カチュアの攻撃は苛烈を極めた。剣で銃弾をいなすが、距離をつめることが出来ない、性格に心臓を狙ってきて、俺が距離を詰めようとすると、そこに弾丸が来る。素晴らしい読みだ。俺は負けてしまうかもしれない、その恐怖が俺を昇華させる。何百年生きても、死の恐怖は俺を飛躍させた。
地面につま先を立てて、木の枝を目の前に蹴り上げた。もう一度蹴って、カチュアに枝を飛ばした。予想外の攻撃にカチュアはザミエルで叩き落した。違う枝を蹴った。何度も蹴った。回転する枝は予想外に威力があり、カチュアの周囲の地面を覆い尽くそうとした。カチュアは危険を察して、場所を移動しようとした。
「終わりだ」
俺は蹴りを入れることで、枝に魔力を込めた。すでにその枝は、俺の支配下だ。
枝たちは急激に成長したように、真っ直ぐに伸び上がり、カチュアに向った。カチュアは突然の出来事に、飛びあがったが、俺の銃弾が逃さなかった。カチュアの腹を貫き、木に飛び移る前に、枝で串刺しにした。
「あっ……」
急所は外した。じっくり、鍋でことこと煮るように殺してやろう。
「土に帰れ」
枝から血が滴り落ちる。その血を養分に桜が咲き誇るようにしてやろう。
「フェンリルの死も無駄だったな」
カチュアはザミエルを構えた。生命エネルギーを摂取して、死体を弾丸にする魔銃の伝説もあっけなく終わる。華麗さの無い、下種な能力は、後世に伝えるべきではない、カチュアを虐め殺した後に、分解して宇宙にふっ飛ばしてくれよう。ザミエルは弾丸を飛ばしたが、見当外れの方向に飛んでいった。空に戦いを挑んでいる。カチュアは諦めたように、引き金を引くのをやめた。もう、俺の相手ではない。
「自殺する時間は与えてやろう」
と、いいながら、俺はカチュアに自殺をさせる気はなかった。
カチュアの眼に光が灯った。
ザミエルから弾丸が飛んだ。
先ほどとは、様子が違う。
何が違うかわかったのは、カチュアの手を見てからだ。
ザミエルを構えた手が食われて、銃と一体化していた。
カチュアはザミエルの弾丸に自分の肉体を使っていたのだ。
「素晴らしい判断だ。最期の最期まで諦めない。侮っていたよ。お前には名誉の死が相応しい」
楽に死なせてやろう。
俺は銃弾を弾きながら、カチュアに近づいていった。
カチュアの腕はドンドン食われて、やがて付け根に至った。
最期の一撃は、剣を破壊した。
カチュアは死んだ。ザミエルの歯牙が心臓に至ったのだ。ザミエルは持ち主が死んだのを喜んで、さらに食事を進めようとした。俺は銃口を突きつけて、銃身を破壊した。ザミエルは沈黙した。
俺は魔法を解いて、カチュアを地面に下ろして、ザミエルを眺めた。
魔法見通す目が異物を見つけた。
まだ、弾丸は残っている。
フェンリルとカチュアの心臓だった。
魔銃の中で二人は一緒になっていた。
「そういうことか……やはり侮辱の死が相応しかったな」
カチュアは自殺したのだ。
俺は気に食わなかったが、ザミエルを破壊する気は失せてしまった。
魔弾の射手編が終わりに近づいています。




