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姫、道先案内人。(バトル有)

 私は冒険者たちに先行して辺りを警戒した。物音を立てずに歩き、衣擦れにすら神経を割いた。植物の繁みに狼の毛がついている。毛は濡れていて、泥がついていた。水飲み場で休憩でもしていたのだろうか。毛の艶は悪い。病気か、もしくは栄養失調だ。近くの繁みを確認、枝が折れているか確認、足跡が無いか確認、排泄物が無いか確認、森に入って一時間、追跡は湖で終わった。

 ほとりに狼が三頭いる。周囲の警戒、冒険者たちが手で合図をして、私とカルアが短刀を投げた。カルアが両手で放った短刀は一撃必殺で頭蓋を貫いた、。私のは体に刺さり、少し鳴いたが、カルアが一瞬で詰め寄って腕で首を折った。

「ぼうず、狼を沈めるから手頃な石を持ってこい」

 アスランは大きな石を三つ持って来た。狼の死体を縄で石と結んで湖に捨てた。その間、冒険者たちがあたりを警戒したが、相手の援軍は来なかった。湖を後にして、森の中を突っ切り、崖の小さな洞穴に隠れた。


「二人は外で警戒しろ」カルアがメイさんともう一人の冒険者に指示を出した。

「カルアさんの作戦通りにしているけど、ここが崖だよ」

 断崖絶壁だが、登ろうと思えば登れる。カルアはカチュアもしくはフェンリルは尾根にいると踏んでいた。戦いの基本として下よりも上のほうが有利、狩人の常識として尾根は周囲を把握するのに最適な場所である。その尾根へ通じる道は山ほどあるが、尾根からの視線が気になるところだ。そこで、カルアがセシルに相談して決めたのが、この断崖絶壁だった。尾根からの視線も遮られており、奇襲をしかけることも出来る。ただし、登るのは大変だ。崖に生えている絶品の茸を採りに行き、墜落して死ぬ人もたまに出る。

「崖を登った事はあるか?」

「ありますよ。先導しますか?」

 子どもの頃から登っているので、掴む場所、足場などは把握している。

 だが――。


「道順だけ教えてくれれば、私が行こう」

 冒険者御用達の乾麺麭ビスケットで小腹を満たしていると、メイさんが交代で戻ってきて言った。銃を肩で担ぎながら、右手に麻袋を持っている。中には土が入っており、寝そべって銃を構えるときに支えに使うそうだ。

「わざわざ道案内人を危険にさらす事は無い。それにこれくらいの崖なら一人のほうが早い」

「でも右……」

 メイさんは遮るように言葉を重ねた。

「銃の腕では私が一番だ。先に登れば、後から登る人たちも守ることが出来る。それに、運がよければ尾根で余裕をかましている魔弾の射手を殺傷できるかもしれない。私が行くのが、道理だろう。」

 義手をおくびにも出さずに、メイさんが行くことに決定した。私とメイさんが外へ出て、崖の道順を指で指して教えた。途中何度も、道順を聞き返されたが、メイさんの持っていた双眼鏡で聞き返された場所を確認すると、より良い出っ張りがあって、逆に勉強になった。


 結論から言うと、その作戦は失敗だった。

 崖の下から冒険者たちは銃を構えて、メイさんがさくさくと登るのを監視して、私とカルアとアスランは周囲の確認をしていた。私たちが冒険者と合流する頃には、メイさんは崖の中間部まで登っていた。右手の義手は手ごと無い訳ではなく、何本かの指が残っているのだろう。登り辛そうだが、確実に登っていた。だが、結論から言ったとおり、それは失敗だった。

 最初は小さな異変だった。

 石が落ちてきた。

 メイさん目掛けて。

 メイさんは即座に気付いて、飛ぶように移動して避けた。

 全員の中で緊張が走り、衝撃が現実となった。

 崖の上から石が雨のようにふり、メイさんを襲ったのだ。

 大声を出そうとしたが、アスランに手で押えられた。冒険者たちは一気に森へ入り、敵の視線から逃れようとした。発射音。死線が、血の噴射となり、冒険者の一人の頭蓋を貫いた。

 私も必死に逃げながら、眼の端でメイさんを追った。

 メイさんは足場を蹴って飛び上がり、崖の出っ張りを左手で掴みながら、道順を外れてひたすら崖を横移動した。左腕と左足で崖を走っていた。だが石は岩になり、崖の上に狼たちの姿も見えた。冒険者たちはすかさず反撃に銃を撃ち、メイさんも崖を蹴って宙を飛んだ。

 銃を革袋から取り出し、体を反転させて、崖の上に照準を向けた。

 あたるはずが無い。

 銃声。

 崖の上で血煙が上がった。

 一方の冒険者たちの銃撃は命中しない。

 メイさんが木に当たり、姿が見えなくなった。


 メイさんのところへ駆けつけると、腐葉土に落ちたようで大怪我ではなかったが、足を痛めたようで直ぐには立てなかった。私はユイが作ってくれた軟膏をつけてはみたが、慰め程度にしかならなかった。

「私の銃の腕は見たでしょ。置いていくな」

「だが、怪我人を連れて行くのはこちらにも負担が大きい」

「俺がおぶりましょうか?」

 すっかり存在感の無いアスランが名乗りをあげたが――。

「駄目だ。悪いが、一人のために全員を危険な眼にあわせるわけにはいかない」


「まあ、仕方ないわね」

 メイさんは足を痛そうにしながら、銃を手入れしていた。

「銃は撃たない方がいいですよ」

「断る。私は魔弾の射手を殺しに来ているのよ。私が殺さなくても、誰かが殺してくれればいい。だったら、こっちに狼を引きつけておくわ。だから、あなたたちは尾根から見えない道を探して尾根に向えばいいのよ」

「わかりますけど」

 それだと――メイさんが死んでしまう。

「気にしないで。道案内がしっかりしていないと事は成就しないわ。道案内よろしくね」

 メイさんは私を送り出してくれた。その後、しばらくしてメイさんの銃弾が3発聞こえ、やがて銃声は消えた。

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