姫、蜂に襲われる(バトル有)
私たちは痕跡を作らなかった。動物たちは僅かな違和に反応する。狼たちも例外ではない、枝・葉・土の位置の変化も格好の道しるべ、会話も唾が飛ぶので厳禁だ。冒険者はカルアを合わせて四人、私とアスランを合わせて六人、相手の戦力は分からないけど、頭を潰せば勝負は決する。魔弾の射手とフェンリルを絶命させれば戦いは終わる。
だけど、それは正しいことなのだろうか。
たしかに、村は狼の被害がある。狼の頭は銀狼のフェンリルだ。私達の村はフェンリル退治を依頼したけど、村に来た冒険者はフェンリルと一緒にいる魔弾の射手を狙っている。魔弾の射手は七選帝候と呼ばれる皇帝を選ぶ偉い人だ。
歯向かえば、それなりの仕返しが待っているのではないか。
村長は普段ふざけていることが多いけど、何故そんな大きな決断をしたのだろうか?
村は元々魔王派だったのだろうか?
子どもの時から住んでいるけど、主義主張とは無縁な村だった。
何か大きな力が働いているような、不穏な雰囲気だ。
自分の知らないところで運命が動き出してしまい、二つの選択肢すら与えられない一本道が目の間にあるようで、未来を知るのが恐ろしかった。そもそもこの冒険から戻ることが出来ない事だって可能性としてはある。
「駄目だ」
横にいたアスランが天を仰いで呟いた私を見た。
「疲れた」
泣き言はいえない。
すぐさま周囲に注意を払うと物騒な音が遠くで聞こえた。
「カルア」後ろにいたカルアが振り向いた。「蜂」
カルアは音を立てずに伏せて、蜂が通り過ぎるのを待った。
私も同じように伏せようとしたが、『それ』を見てしまった。
狼が一頭、咥えているのは蜂の巣、体を蜂に刺されながら駆け降りてくる。カルアは目の前に飛んでいた蜂を短刀で斬り、器用に短刀を煌かせて、数匹の死体を作った。だが、元凶はそこにいた。蜂に致死量の毒を注入されても、全身腫れて葡萄の房のようになっても、狼は突進してくる。
「やり過ごすぞ」
カルアが小声で命令した。
意外だった。
アスランは剣を抜いて、蜂の巣を持った狼と対峙した。
「馬鹿ッ……」
カルアが今更遅い、叱咤をしようとした。
「駄目なんです」アスランは剣をもって両手で振りかぶった。「このままだと、この狼は蜂に殺されて死ぬ。それは文字通り犬死だ。堪えられない。命を賭けたものに対して、魂に対して不敬に値する」狼が蜂の巣を落として、アスランへ突進、咬みついてきた。
剣を振り下ろした。
狼は減速、走る方向に変化をつけた。
アスランは左手を離して、右手だけの振り下ろしへ変化させた。
間合いが一気に詰められた。
剣は頭蓋を真っ二つにして、狼を絶命させた。
「片手で一撃……だが、愚かだ」
カルアは立ち上がり、両手で短刀を振り回して、蜂を次々と真っ二つにした。仮面をつけた冒険者たちも猟刀を振って応戦した。私も猟刀を抜いて、振り回したが、カルアのように上手くいかなかった。
「きゃあっ」
私が悲鳴をあげると、体を引き寄せられた。アスランが左腕で私を抱きしめると、右手で剣を振って蜂を叩き落した。
「走れる?」
「うん」
「カルア、例の場所で待ち合わせだ。取りあえず、逃げよう」
「何を偉そうに、ボウズが招いた結果だろう」
と言いつつ、起きてしまったことなので仕方なく、カルアは一目散に逃げていった。冒険者たちはカルアを追って行ったが、私たちは蜂の壁に阻まれて、仕方なく反対側へ逃げた。
「急ぐよ」
相変わらずアスランの足は早かったが、私の手を引っ張りながら、私の足に合わせてくれたので走り易かった。
「我慢できなかった」
狼のことをいっているのだろう。彼の行動は狼にとって意味があったのか分からないけど、彼としては一応筋を通したつもりなのだろう。
「剣凄かったよ」
「ああ、一応鍛えているからね」
アスランは一度振り返って、地面に腰を下ろした。
「ところで、待ち合わせ場所って」
「決めていないよ。ただ、魔弾の射手が聞いてそうだから、嘘ついてかく乱しただけ」
アスランは平然と言った。
「やっぱりそうだよね」
「まあ、俺たちは俺たちで最善を尽そう。とりあえず、尾根目指して歩きますか?」
私は頷いて、黙々と歩き始めた。




