姫、首飾りに苦しめられる
展開早くしてしまった……。
黄昏時に蒸気の音が木霊して、木製の仮面をつけた男たちが次々に広場に降りてきた。それぞれ長い革袋を持ち、声も出さずに村長の家のほうへ歩いていく、村長もその姿を確認すると扉を開いて、物を言わぬ客を迎え入れた。
「つ、疲れたー」
広場に最後に下りてきた蒸気船には仮面をつけていない男とアスランが乗っていた。男は頭を剃っており、頭部に星座の刺青をしている。仮面の男たちと違って、長い革袋は持っておらず、腰帯に大小の短刀を忍ばせていた。
「もう、駄目」
アスランは蒸気船から降りて、私に抱きついてきた。途端に、むさ苦しい汗の臭いに包まれて、肌に湿り気が感じられた。
「抱きつくな!」
アスランを腕で押し退けると、「どうでもいいから、休ませてくれ」と懇願した。
「たいした男だ」頭を剃った男が言った。「並みの男ならこの村からシスの街まで行くのに夜までかかるだろう。それを昼飯が終わる頃に着くとは、たいした健脚だ」口の端から涎が垂れている。眼の焦点が合わずに、酔漢にも似た雰囲気で、悪党と分かった。彼は私たちに背を向けて村長の家のほうへ向った。
村人たちは何も言わずにそれに注目していた。
村長の家から仮面の男たちが出てくると隠れたが、村で唯一の宿屋に押しかけてくると、途端に賑やかになった。宿屋に溜めておいた酒と食料では足りずに、村人に声が掛かったので、保存していた食料を出しているようだ。
「冒険者たちだから騒ぐのが好きなのかな」
私はアスランを義姉ちゃんの部屋まで担ぎ込んだ。
「セシルの部屋が良いー」
「寝てろ!」
私の部屋にはカチュアがいるので駄目だ。いなかったら、良いという訳でもないけど。
ただ心配なのが、義姉ちゃんの部屋に勝手にアスランを入れたことだ。多分怒られる。義姉ちゃんは帝都で家事手伝いとして働いている。時たま帰省してくるが、その時は仕事を首になった時だ。
私が部屋に戻ると、カチュアが険しい顔で冒険者たちをうかがっていた。
眼光が鈍く輝き、生命が失せたような印象だ。
「あの冒険者たちは?」
「あの人たちは、魔弾の射手を倒しに来た冒険者たちだよ」
「七人か……一人だけ仮面をつけていないね、名前はカルア、盗賊団の親分だ。犯罪にも、正義にも手を染める自分自身が法律みたいな男だ。魔王の反乱軍に参加するも、素行の悪さから疎まれていた。最終的には、七選帝侯に略奪の罪で処刑されたと聞いたが、生きていたとはね」
カチュアは息苦しそうな溜息をついた。深い海に沈んだ後の息つぎのような、死を感じさせるものだった。
「カチュア……大丈夫?」
カチュアは私の問いかけに明るく答えた。
「平気よ。全然問題ないわ」
そういわれると、問題があるようにしか思えません。
「ねえ、セシル」カチュアは私をまじまじと見た。「短い間だったけど、そろそろ行くわ」
カチュアは立ち上がり、すたすたと歩き始めた。
「もう、夜だよ」
夕ご飯も食べていない。
「そうね、でも、夜だからって歩けないわけじゃないわ」
彼女は出入り口の前に立った。
「ごめんなさい」
カチュアが深々と頭を下げた。
「どうしたの急に……」
「私が魔弾の射手よ」
カチュアがにっこりと笑った。鮮烈に、美しかった。
「この家を出ていくのに、それ以上の理由があるかしら?」
「魔弾の射手?」
え? え? 魔弾の射手は魔王軍とたたかったはずだから、十五年ぐらい前の話だよ。そうなると、私より少し年上のカチュアはまだ子供のころのはずだ。これは冗談だよ。笑ってあげなきゃ……。
私は笑おうとしたが、首飾りをかけている辺りが痛くて、苦痛の表情を浮かべてしまった。
こうして時々、痛みが走る、それは首飾りのせいだとわかっているけど、手放すことはできない。
「そう、私は、魔弾の射手。銃は置いてきたけどね」
カチュアが短刀を引き抜いて、私に切っ先を向けた。
「セシル。ごめんね。私、悪人なの」
扉を開いた。
「殺されるくらいなら、殺したい。私だって死にたくないからね。善は必ず勝ち、悪は滅びるなんて、お伽噺に付き合ってられない」
「やめて……」
「やめるなんて、ありえないわ。またね、セシル」
扉は閉められた。私は追いかけようとしたが、首飾りが肌に食い込み、痛みのあまり倒れてしまった。呻き声さえあげられない苦悶は、銃声が鳴り響くまで続いた。
※ 蒸気船は小型の一人乗りのものです。どんなエンジンにするか考えていたら、馬鹿なので思いつかなかったので、適当です。良いの思いついたら、いつか説明を入れたいです。




