姫、オネム。
仮面が砕け散り、老人が苦悶の表情で死んでいた。魔弾の射手を狩りに来た一人が、首をかき切られて死んでいる。抗ったようで、歯に皮膚と血がこびり付いていた。長い革袋は持ち去られていた。
「小便に行ったのに、もらしてしまったか」
カルアが千鳥足で死体を調べ始めた。皮袋の中身を空けて、金目のものを懐に入れて、札のようなものを見つけて笑った。
「ほお……冒険者として登録したばかりだったか、なんの恨みがあったか知らないが魔弾の射手を殺したかったんだろうな。安心しな、貰った金の分は働いてやるよ」
「そういうのは、盗みというんだ」
カルアが眼を点にした。
「おっ! ウィルじゃないか。王都炎上以来か」
おとうさんは怪我した両腕に包帯を巻いているが、腕を組んで呆れた溜息をついた。
「昔から変わらないな」
「お互い老けたぐらいか」
「ところで処刑されたと聞いていたが……」
カルアは表情を暗くして、陰惨な笑みを浮かべた。
「一族郎党、銃殺刑だ。だが、俺の銃だけ弾が詰まって、笑えることに俺だけ生き延びたんだ。その後、劇薬を飲まされたんだが、なんとそれでも死なねぇ。脳は痛めつけられて、唇のしまりが悪くなったがな。で、その後、『世界最強の戦士』に助けてもらったんだ」
「師匠に?」
「魔王が死んで面白くない。お前生かすから、俺を殺しに来い。だとよ……あの人は死ぬに死ねないから生きている実感が無いんだろうな。新聞で見ないか? いつも自殺未遂をしているぞ」
「師匠が……いや、確かにそういう傾向にはあったが……」
「そういえば、なんでお前此処にいるの?」
「いや、ここ俺の住んでいるところだから」
「へえ……お前の住んでいるところに、魔弾の射手が来るか……因果だな」
「ああ、仕返ししてやろうと思ったが、この通りだ」
カルアは傷口を確認して、死んだ冒険者の銃弾と想定した。
「魔弾の射手が短刀で襲い、銃を奪って、ウィルに向けて撃った」
「だが、おかしいのが、この歯についた血だ。俺の知っている魔弾の射手は口を押えるのに素手でしない。そして、若い女だということが一番引っかかる」
「若くないだろ」
カルアがしかめっ面で言った。
「だいたい同い年だったはずだ。なあ、セシル。カチュアって女は自分で「魔弾の射手」と名乗ったんだよな」
私はずーっと話を聞いて、ぼーっとしていたので一瞬反応に遅れた。
「そうだよ」
「もしかして偽者か? いや、そんなはずはねえ。俺たちは帝都からシスの街まで魔弾の射手を追いかけてきていたんだ」カルアが物言わない仮面の冒険者たちを見た。「だから、ボウズが街まで来たときに動けたんだよ。そうじゃなけりゃあ、ここまで早く来れない」
ボウズとはアスランのことだろう。
「ふーん。最初の依頼人は誰なんだ?」
冒険者ギルドに依頼を頼んだ人のことだ。この村でも村長が頼んだから来てくれたのだ。
「それは知らん。帝都の人間らしい。恨みがあるから、銀狼と魔弾の射手を殺してくれっていう依頼だ」
「……この村は魔弾の射手退治を頼んでいない。頼んだのは銀狼退治だ。カルアも銀狼を追ってきたのか?」
「当たり前だ。魔弾の射手の顔をしっている人間はまずいない。つまり銀狼を追うしかない。だから、依頼がきた時にぴーんときたのよ。案の定、魔弾の射手らしきものはいるわけだ」
「駄目だよ。ウィル。安静にしていないと」
ユイが家におとうさんを担いできた時に、苦しんでいる私も発見された。私とおとうさんは疲労困憊だったが、冒険者たちの様子を見てきて、いま帰ってきたばっかりだった。
「おう」
おとうさんはおとなしく言うことを聞いて、横になってすぐに寝息をたてた。
ユイは治療士として、私の部屋に泊まりこみで、私とウィルの看病することになった--いや、懇願された。ちなみに、アスランはあれから一回も起きずに、扉を閉め切って、音も立てずに寝ています。
私も没薬を焚いた香りを嗅がされながら横になった。
「しかし、カチュアが魔弾の射手だったとわね。驚いたわ」
「うん……」
私は人の死体を見たのも初めてだったし、頭が熱くなっていた。しばらく映像が消えてくれないかもしれない。ユイの言葉が上滑りしているように聞き取れなかった。
「でも、なんで村に来たのかな?」
「うん」
それは、目的があるからだよ。
「連れがいるって言っていたよ。駆け落ちだって」
「駆け落ち?」
ユイが変な声をだした。
「そう、それに猪に抱きついていたから--まあ、怪しまれないように偽装したのかもしれないけど--食料が足りないんじゃないのかな。私たちは食べないと、生きることが出来ないからね
私は上の空で会話を続けて、しばらくすると寝てしまった。




