第十三章 ──光の群れ、闇を裂く
フェルシア北境の空が、昼にもかかわらず暗く染まった。
──グォォォォォォォン!!
龍王の咆哮が大地を震わせ、砦の石壁が軋む。
「な、なんて魔力だ……!」
「空気が……押し潰される……!」
兵士たちが恐怖に膝をつく中、アークは砦の上で龍王を見上げていた。
巨大な黒い翼。
山をも超える体躯。
その瞳は、世界そのものを見下す王の光。
「……これが……龍王……」
アークの胸がざわつく。
龍王の魔力波形が、どこか懐かしいのだ。
──まるで、俺が作った兵器の核と同じだ。
◆
砦の中央で、リュミエラが兵士たちに声を上げた。
「皆、聞いて! フェルシアはここで退かない! 私たちは、この空を守る!!」
震える兵士たちの瞳に、少しずつ光が戻る。
リュミエラはアークの隣に立ち、静かに言った。
「アーク。あなたの光を私に預けて」
アークは息を呑んだ。
「リュミエラ?」
「あなたが作った魔法鳥は、あなた一人のものじゃない。フェルシアの希望よ。だから、私が司令塔になる」
アークは彼女の瞳を見つめた。
そこには恐怖ではなく、強い覚悟が宿っていた。
「……分かった。俺はお前を信じる」
リュミエラは微笑んだ。
「ありがとう。アーク」
◆
アークは光魔力線を地面に突き刺し、魔力を流し込む。
「起動」
地中が光り、魔法陣が広がる。
炎鷹、風鷹、土鷹──
数千の魔法鳥が地面から生まれるように飛び出した。
「す、すげぇ……!」
「こんな数……見たことない……!」
魔法鳥部隊の若者たちが息を呑む。
アークは叫んだ。
「全機、スウォームモードへ移行! 魔力同期、開始!!」
魔法鳥たちの瞳が一斉に光り、空中でひとつの群れとして動き始めた。
まるで──
巨大な光の生命体のように。
◆
フェルシア王国とグレイン帝国。
ついに最後の戦いが始まった。
龍王が咆哮し、黒い炎を吐く。
──ドォォォォォン!!
空が裂け、魔法鳥の一部が焼き尽くされる。
「くっ……!」
「アークさん、魔法鳥が……!」
「問題ない! スウォームは自己修復する!」
アークが魔力を流し込むと、失われた鳥の位置を埋めるように、他の鳥が動きを変える。
リュミエラが叫ぶ。
「全機、龍王の右翼へ集中攻撃! 炎鷹、突撃!!」
炎鷹の群れが一斉に突撃し、龍王の翼を爆炎で包む。
龍王が苦痛の咆哮を上げた。
「効いてる!」
「姫様の指揮がすごい……!」
兵士たちに自信の表情が浮かぶ。
カイが叫んだ。
「ミナ、風鷹で弱点を探れ!」
「了解!」
風鷹が龍王の周囲を旋回し、魔力の流れを読み取る。
「アークさん! 胸の魔力核が弱点です!!」
「よし! 全機、胸部へ攻撃!!」
魔法鳥の群れが一斉に動き、龍王の胸へ突撃する。
──だが。
その瞬間、龍王の体が黒い霧に包まれ、魔力核が移動した。
「なっ……!?」
「弱点が……消えた……!?」
アークは歯を食いしばった。
「適応したというのか! ザイラス……!」
龍王が翼を広げ、空全体を覆うほどの黒炎を放つ。
魔法鳥の群れが一気に焼かれ、空が黒く染まる。
「アークさん!! このままじゃ……!」
ミナが叫ぶ。
アークは拳を握りしめた。
「……なら、俺が直接制御する!!」
アークは光魔力線を両手で掴み、全魔力を魔法鳥へ流し込んだ。
「アーク!? そんなことしたら……!」
「大丈夫だ、リュミエラ。俺はきっとこの時のために、この世界へ来たんだ」
アークの瞳が光り、魔法鳥の群れが一斉に輝き始める。
まるで──
アークの意識が、群れ全体に広がっていくように。
「行け……! 俺の翼たち!!」
魔法鳥スウォームが龍王へ突撃する。
龍王が黒炎を吐く。
だが、スウォームは炎の隙間をすり抜け、龍王の体を内部から攻撃し始めた。
「すごい……! 魔法鳥が龍王の動きを読んでる……!」
「アークさんが全部制御してるんだ……!」
カイとミナが叫ぶ。
龍王が咆哮し、最後の黒炎を放つ。
アークは叫んだ。
「リュミエラ!! 魔力を、俺に!!」
「分かった!!」
リュミエラはアークの手を握り、全魔力を彼へ流し込んだ。
アークの体が光に包まれる。
「行けぇぇぇぇぇ!!」
魔法鳥スウォームが龍王の胸へ突撃し、内部から魔力核を破壊した。
──閃光。
──爆音。
──沈黙。
龍王の巨体が崩れ落ち、黒い霧となって消えていった。
◆
砦に静寂が訪れた。
「……勝った……?」
「龍王が……倒れた……!」
兵士たちが歓声を上げる。
だが、アークは膝をついた。
「アーク!!」
リュミエラが駆け寄る。
「大丈夫!? アーク!」
「……大丈夫だ。ただ、魔力を使いすぎただけだ」
アークは微笑んだ。
「リュミエラ……ありがとう。お前がいなければ、勝てなかった」
リュミエラの瞳に涙が滲む。
「アーク……あなたは……私の……」
言葉は続かなかった。
だが、二人の手は強く結ばれていた。
◆
その頃、帝国の黒塔では──
ザイラスが龍王の消滅を見つめていた。
「なるほど。あれが異界の技術か」
ザイラスは笑った。
「面白い。ならば次は……この私自らが断罪してやろう」
その瞳には、狂気の光が宿っていた。




