最終章 ──光の翼、空を覆う
龍王が消滅した直後。
帝国の黒塔が、まるで悲鳴を上げるように揺れ始めた。
──ゴゴゴゴゴ……
塔の上空に黒い裂け目が生まれ、魔力が暴走している。
「ザイラスが、まだ何かを……!」
アークは砦の上で空を見上げた。
龍王を倒した今、魔法鳥スウォームは半数以上が失われている。
魔力も限界に近い。
だが──
黒塔から溢れる魔力は、龍王とは質が違った。
もっと濃く、もっと歪み、もっと人の意志に近い。
「……ザイラス……!」
赤黒く染まっていく空を、アークは睨みつけた。
◆
黒塔の最上階。
崩れゆく床の上で、ザイラスは狂気の笑みを浮かべていた。
「龍王を倒すとは素晴らしい! やはりお前は異界の男だ。アーク!」
魔法陣が赤黒く輝き、ザイラスの体が浮かび上がる。
「龍王は所詮召喚された存在にすぎない。だが、私は違う。私は自らを召喚する!!」
黒い魔力がザイラスの体を包み、形を変えていく。
骨が伸び、肉が裂け、翼が生え──
人と獣と魔力が混ざり合った異形が生まれた。
「これが……召喚術の極致……! 人が龍を超える瞬間だ!!」
ザイラスは咆哮し、空へ飛び立った。
◆
黒い影がフェルシアの空へ迫る。
「な、なんだあれは……!?」
「龍王より……速い……!」
兵士たちが恐怖に震える。
アークは目を見開いた。
「ザイラスは……自分を召喚したというのか……!」
リュミエラがアークの腕を掴む。
「アーク! あなたはもう限界よ! 魔法鳥も残りわずかしかいない!」
「分かってる。でも、あれを止められるのは俺しかいない」
リュミエラは首を振った。
「違うわ。“私たち”よ」
アークは息を呑んだ。
「リュミエラ……?」
「あなた一人に背負わせない。フェルシアはみんなで救うの!」
その言葉に、カイとミナも駆け寄る。
「アークさん! 俺たちも行きます!」
「アークさん、私も一緒に戦う!」
アークは深く息を吸い、頷いた。
「……行こう。ザイラスを止めるために」
◆
アークは光魔力線を地面に突き刺し、残された魔法鳥をすべて呼び出した。
炎鷹、風鷹、土鷹──
数は少ない。
だが、全員の魔力がひとつに繋がっている。
「全機、最終スウォームモードへ移行!」
魔法鳥たちが輝き、空中で巨大な光の翼を形作った。
「すごい……!」
「まるで一つの巨大な鳥みたいだ!」
カイとミナが息を呑む。
アークは叫んだ。
「行くぞ!!」
光の翼が空へ舞い上がり、ザイラスの異形へ突撃した。
◆
ザイラスは咆哮し、黒炎を吐いた。
「無駄だ!! 私は龍王を超えた存在!! 召喚術の神だ!!」
黒炎が光の翼を焼き、魔法鳥が次々と消えていく。
「アークさん!! 魔法鳥が……!」
ミナが叫ぶ。
アークは歯を食いしばった。
「……なら、俺の魔力を全部使う!!」
「アーク!! そんなことをしたら……」
リュミエラが叫ぶ。
「大丈夫だ。俺はもう逃げない」
アークの瞳が光り、魔法鳥スウォームが再び輝き始める。
まるで──
アーク自身が光の翼になったかのように。
◆
ザイラスが特大の黒炎を放つ。
「消えろぉぉぉ!! 異界の男ぉぉぉ!!」
アークは叫んだ。
「リュミエラ!! 魔力を俺に!!」
「全部持っていって!! アーク!!」
リュミエラはアークの手を握り、全魔力を流し込んだ。
カイとミナも叫ぶ。
「アークさん!! 俺たちの魔力も!!」
「アークさん、お願い……!!」
三人の魔力がアークへ流れ込み、光の翼が太陽のような輝きを放つ。
「うおおおおおおおお!!」
光の翼がザイラスへ突撃し、黒炎を突き破り、異形の体を貫いた。
「ば、ばかな……私が……召喚術の……極致が……!」
ザイラスの体が崩れ、黒い霧となって消えていった。
◆
アークたちの戦いは終わった。
帝国はザイラスの死によって混乱し、皇太子レオンハルトが和平を提案した。
フェルシアと帝国は長い戦争を終え、新たな時代へと踏み出した。
アークは自分が別の世界の人間であることを確信している。
だが、それでもフェルシアに残ることを選んだ。
「俺は……この世界で生きる。守りたい人たちがいるから」
リュミエラは微笑んだ。
「ありがとう。アーク」
フェルシアの空には、かつて龍王と戦った光の翼の残光が、今も静かに輝いている。
──完──




