第十二章 ──龍王、降臨
帝都ヴァル=グレインの中心にそびえる黒塔。
その最上階、巨大な魔法陣が赤黒く脈動していた。
ザイラスは魔法陣の中心に立ち、両腕を広げる。
「ついにこの時が来た。召喚術の極致、龍王の復活だ」
周囲には数十名の召喚師が並び、魔力を注ぎ込んでいる。
空気は震え、床は軋み、塔全体が悲鳴を上げていた。
「ザイラス様……! これ以上は危険です! 魔力が制御できません!」
「黙れ」
ザイラスの声は冷たかった。
「危険だからこそ価値がある。龍王はこの世界の頂点だ。召喚術の勝利を証明する存在だ」
魔法陣が光り、空間が裂ける。
黒い霧が渦を巻き、巨大な影が姿を現した。
──龍王。
その瞳は、世界そのものを見下すような冷たい光を放っていた。
「……美しい」
ザイラスは恍惚と呟いた。
「さあ、世界に示せ。召喚術の絶対を」
◆
フェルシア王城の作戦室では、緊急会議が開かれていた。
「帝国が……龍王を召喚した……?」
リュミエラの声が震える。
報告を持ってきた偵察兵は、青ざめた顔で頷いた。
「は、はい……! 帝都上空に、巨大な黒い龍が……!」
ガルド将軍が机を叩く。
「龍王だと!? そんなものを召喚すれば、帝国も無事では済まんぞ!」
アークは静かに言った。
「ザイラスは自分の国がどうなろうと構わない。召喚術の勝利だけを求めている」
リュミエラはアークを見つめる。
「アーク。あなたの魔法鳥で、龍王に対抗できる?」
アークは答えられなかった。
胸の奥で、何かがざわついている。
──龍王の魔力波形。
──帝国の召喚術。
──そして、自分の魔力。
それらが、どこかで繋がっている気がした。
「……分からない。でも、やるしかない」
リュミエラは深く頷いた。
「フェルシアはあなたに賭けるわ」
◆
作戦室を出たアークは、廊下の壁に手をついた。
「……っ……!」
頭の奥に、鋭い痛みが走る。
視界が揺れ、記憶の断片が流れ込む。
白い研究室。
巨大なスクリーン。
無数の無人兵器が空を埋め尽くす映像。
そして──
その中心に立つ自分。
「……俺は……この世界の人間じゃない……」
アークは膝をついた。
「俺は……兵器を作る側の人間だった……」
その時、背後から声がした。
「アーク……!」
リュミエラが駆け寄り、アークを抱きとめた。
「大丈夫……? あなた、顔色が……」
「リュミエラ……俺はこの世界の人間じゃない。俺は兵器を作っていた。人を殺すための……」
リュミエラは首を振った。
「違うわ」
「……え?」
「あなたは今、この世界で人を救っている。それがあなたの真実よ」
アークの胸が熱くなった。
「リュミエラ……」
「あなたがどこの世界の人でも、私はあなたを信じる」
その言葉は、アークの心の闇を照らす光だった。
◆
その頃、帝国の空を覆う巨大な影が動き出していた。
龍王が翼を広げ、咆哮する。
──グォォォォォォォン!!
その咆哮だけで、山が揺れ、大地が裂ける。
帝国軍の兵士たちが恐怖に震える。
「こ、こんなものを召喚して……!」
「ザイラス様は正気ではない……!」
ザイラスは笑った。
「さあ、行け。世界を焼き尽くせ」
龍王はゆっくりと翼を広げ、フェルシア王国へ向けて飛び立った。
◆
フェルシア北境の空に、黒い影が現れた。
「な、なんだあれは……!?」
「山より……大きい……!」
兵士たちが震える。
アークは砦の上で、龍王を見上げた。
「これが……龍王……」
その魔力は空気を震わせ、光魔力線すら揺らすほどの圧力だった。
カイが叫ぶ。
「アークさん! あんなの、どうやって倒すんだよ……!」
ミナも震える。
「魔法鳥が……あんな相手に……」
アークは拳を握りしめた。
「……倒す。どんな手を使ってでも……」
リュミエラが隣に立つ。
「アーク。私も戦うわ」
アークは頷いた。
「龍王を倒すために、魔法鳥を進化させる」
その瞳には、恐怖ではなく──
強い決意が宿っていた。




