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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第2章王都篇

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第80話

魔法省の廊下は、祭りの会場とは別の場所のように静かだった。

外から聞こえていた音も、厚い壁を一枚隔てるだけで遠くなる。


「サテラさん、いますか?」


アギトが声をかけると、少し先から足音が返ってきた。


「皆さん?」


サテラ・ルードスがこちらへ歩いてくる。


「どうしました? 祭りはもう終わったのですか?」


「いや、まだやってる」


ウェントスが答えた。


「ただ……ちょっと気になることがあって」


「気になること?」


アギトは持っていた赤い布を差し出した。


「これを、見てほしい」


サテラは布を受け取る。

黒い刺繍に目を落とした瞬間、表情が僅かに止まった。


「……これは」


「知ってるんですか?」


アクアが尋ねる。


「いえ」


返事は早かった。

けれど、その視線は布から離れない。


「少なくとも、王家の紋章ではありません」


「やっぱりか」


アギトが呟く。


「祭りの会場で、これを持った男を見つけました」


テラが続ける。


「屋台に細工をしたと思われる痕跡もありました。それから、火事だという嘘の騒ぎが起きて……」


五人は順番に、起きたことを話した。

サテラは途中で口を挟まなかった。

最後まで聞き終えると、赤い布を裏返し、縫い目を確認する。


「……少し待ってください」


「どこかに行くの?」


ファウラが聞く。


「確認したいことがあります」


サテラはそれだけ言って、廊下の奥へ向かった。

五人は顔を見合わせる。


「……何か知ってるのかな」


「さあ」


ウェントスが肩をすくめる。

しばらくして。

戻ってきたサテラの手には、何枚かの書類があった。


「皆さん」


先ほどまでより、少しだけ声が低い。


「この紋章について、魔法省の記録を確認しました」


アギトは黙って彼女を見る。


「ですが――」


サテラは書類を閉じた。


「該当する記録は、ありませんでした」


「……ない?」


「はい」


その言葉だけが、妙に廊下へ残った。

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