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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第2章王都篇

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第79話

祭りの喧騒は、まだ消えていなかった。

さっきまで誰かが走っていた道にも、少しずつ人が戻ってきている。

何事もなかったように。

それが、妙に引っかかった。


「……これ」


アギトは手の中にある赤い布を見た。

逃げた男が残していったものだ。

端は綺麗に裂けているわけではない。どこかに引っ掛けたのか、糸が何本か飛び出している。

そして、その中央に黒い刺繍。

円の中に、三本の線。


「王家の紋章じゃないよね」


アクアが覗き込む。


「違うと思う」


「じゃあ、何の紋章なんだろう」


「知らん」


ウェントスが即答した。


「俺たちに聞かれても困る」


「……まあ、そうだけど」


テラは地面に落ちていた金具を拾い上げた。

小さな金属片。

さっき倒れかけた屋台に使われていたものと、よく似ている。


「これも一緒に持っていこう」


「そうだな」


アギトは頷いた。

屋台。

偽の火事。

人の流れ。

黒い外套の男。

赤い布。

そして、この紋章。

偶然にしては、重なりすぎている。

けれど。


「……目的が分からない」


アギトが呟く。

誰かを襲うためだったのか。

祭りそのものを壊すためだったのか。

それとも、別の何かをするために人を動かしただけなのか。

まだ何も分からない。


「追いかけたけど、逃げられちゃったしね」


ファウラが少し悔しそうに言う。


「壁、越えるの速かった」


「お前が追いつけないなら、相当だな」


「ウェントスだって追いつけなかったじゃん」


「俺は最初から無理だと思ってた」


「それ逃げた後に言うやつじゃん」


「うるさい」


いつもの調子。

それを聞いて、アギトは少しだけ息を吐いた。

まだ祭りは続いている。

さっきの騒ぎで怖い思いをした人もいるだろう。それでも、屋台には人が戻り、舞台では演目が再開されている。

何も知らない人たちは、また笑っている。

その光景を見ながら、アギトは赤い布を握り直した。


「……戻ろう」


「どこに?」


「魔法省」


このことは、伝えておいた方がいい。

少なくとも、この紋章を自分たちだけで抱えている理由はない。

五人は人の流れに逆らわず、祭りの中心から離れていった。

その背中を、誰かが見ていたことには――まだ、気づかなかった。

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