第76話
翌朝。
「……なんか、静かじゃない?」
ファウラが廊下を歩きながら呟いた。
「何が?」
アギトが聞き返す。
「昨日より人が少ない気がする」
確かに。
魔法省の廊下を行き交う職員はいる。
けれど、昨日より少ない。
「今日は休みの人が多いんじゃないですか?」
テラが言った。
「そうかも」
ファウラは納得したように頷いた。
そのまま五人は食堂へ向かう。
朝食を済ませ、外へ出る。
「今日はどこ行く?」
「昨日行けなかったところに行きたい!」
「どこだよ」
「……」
ファウラが黙る。
「考えてなかったのか」
「今考えてる」
「遅い」
「じゃあアギトは?」
「俺も考えてない」
「ほら!」
「何が『ほら』なんだ」
くだらない言い合いをしながら歩いていると、前方からサテラがやってきた。
「皆さん、ちょうどよかった」
「サテラさん?」
「はい」
サテラは足を止める。
「本日の予定についてお伝えします」
「予定?」
「国王陛下から、皆さんに王都を自由に見て回ってほしいとのことです」
「自由に?」
ファウラの顔が明るくなる。
「昨日も自由だったじゃん」
「昨日とは少し違います」
サテラが一枚の紙を取り出した。
「こちら、王都の案内図です」
広げられた地図には、いくつもの場所が記されていた。
「市場、図書館、中央広場、それから……」
ファウラが地図を覗き込む。
「ここ!」
指差した先。
「何ですか?」
「祭り!」
中央広場の近くに、小さく書かれていた。
王都収穫祭・前夜祭
「今日やるの?」
「はい。夜からですが」
「行こう!」
「即決かよ」
ウェントスが呆れる。
「だって祭りだよ?」
「まあ……」
ウェントスも地図を見る。
「確かに少し気になるな」
「ウェントスも行きたいんじゃん」
「違う」
「顔に出てるよ」
「出てない」
アギトは二人のやり取りを聞きながら笑った。
「じゃあ、行ってみるか」
「やった!」
ファウラが拳を突き上げる。
サテラも微笑んだ。
「では、夜まで自由に過ごしてください」
「分かりました」
サテラが去っていく。
五人は地図を囲んだまま、今日の予定を決め始めた。
その様子を、少し離れた場所から見ている者がいた。
魔法省の建物の陰。
男は時計を見る。
予定時刻まで、まだ時間がある。
懐から一枚の紙を取り出す。
そこには、王都の地図が描かれていた。
そして中央広場には、赤い線が引かれている。
男は紙を折りたたんだ。
「……今夜か」
呟いた声は、誰にも届かなかった。




