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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第2章王都篇

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第75話

夕方。

アギトたちは魔法省へ戻る道を歩いていた。


「結局、今日一日ほとんど食べてたな」


ウェントスが呆れたように言う。


「そんなことないよ」


「串焼き食っただろ」


「食べた」


「菓子も」


「食べた」


「飲み物も」


「飲んだ」


「ほら」


「でも、ちゃんと王都も見たよ?」


ファウラは悪びれもせず答えた。


「店とか、広場とか、変な形の建物とか!」


「感想が全部小学生なんだよ」


「失礼だなぁ」


アギトは二人の後ろを歩きながら笑っていた。

昼間と比べ、通りは少しずつ暗くなっている。

店先に明かりが灯り始めた。

魔導具を使った街灯にも、一つ、また一つと光が入っていく。


「夜になると綺麗ですね」


テラが足を止めた。


「昼とは全然違う」


「そうだな」


アギトも街を見渡した。

王都の夜。

昼間とは違う人々が歩いている。

仕事を終えた者。

酒場へ向かう者。

これから仕事を始める者。

同じ街でも、時間が変わるだけで見えるものが変わる。


「……帰ろうか」


アギトが言う。


「うん」


ファウラが頷いた。

五人は再び歩き始めた。

その姿を、路地の奥から見ている者がいた。

灰色の外套。

昨日と同じ男だ。

男は五人が角を曲がったのを確認すると、反対方向へ歩き出した。

人通りの少ない路地。

そこには、別の男が待っていた。


「どうだった」


「予定通りだ」


「警戒は?」


「ほとんどない」


「そうか」


短い会話。

それだけで二人は別れた。

さらに奥へ進むと、古びた扉がある。

男が三度、扉を叩く。

少し間を置いて、二度。

鍵が外れる音。

扉が開いた。


「入れ」


中へ入る。

そこには数人の男がいた。

武器を持っている者もいる。

机の上には王都の地図が広げられていた。

その中央。

赤い印が一つ付けられている。


「ここが現在地」


 灰色の外套の男が指を置く。


「そして、ここが次の場所だ」


別の場所に印を付ける。


「人通りは?」


「多い」


「それなら都合がいい」


 男は地図を見下ろした。


「人が多ければ、多少の騒ぎが起きても不自然じゃない」


一人が尋ねる。


「標的は五人全員か?」


「そうだ」


返事に迷いはなかった。


「一人でも逃がすな」


部屋の空気が変わる。

誰も口を開かない。

机の上には、五人分の簡単な似顔絵が並べられていた。

その中でも。

アギトの似顔絵だけには、黒い印が付けられていた。


「こいつからだ」


男が指で叩く。


「魔性紋保持者の中でも、特に危険だ」


その紙を見つめる。


「絶対に近づかせるな」


しばらくして、扉が閉まった。

王都の夜は深くなっていく。


その頃。

アギトたちは魔法省へ戻り、明日の予定を話していた。


「明日は何する?」


「知らない」


「じゃあ寝る?」


「まだ早いだろ」


「じゃあ何する?」


「……」


「アギト?」


「ん?」


「聞いてる?」


「ああ」


アギトは笑った。


「聞いてるよ」


何も知らない。

今日も、いつも通りの夜だった。

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