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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第2章王都篇

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第74話

王城を出る頃には、昼を少し過ぎていた。


「……お腹空いた」


門を出た瞬間、ファウラが呟いた。


「さっき食べただろ」


「お茶会はお茶会。お昼はお昼」


「その理屈は分からん」


ウェントスが呆れる。

アギトは二人のやり取りを聞きながら、王都の通りへ目を向けた。

昼の王都は、朝とはまた違う顔をしていた。

店の前には客が並び、通りには荷車が行き交っている。

聞き慣れない言葉で話す人もいれば、見たことのない服を着た人もいる。


「……昨日より人が多くない?」


テラが辺りを見回す。


「時間帯が違うからじゃないですか?」


アクアが答える。


「なるほど」


その横を、二人の子どもが駆け抜けていった。


「危ないぞー」


ウェントスが声を掛ける。


「はーい!」


遠くから返事が返ってくる。


「元気だな」


アギトが笑う。


「ファウラみたい」


「どういう意味?」


「そのままの意味」


「私、あんなに子どもっぽくないよ?」


「……そうか?」


「そうだよ!」


ファウラが頬を膨らませる。

そのまま歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。

ファウラの足が止まる。


「……」


「行くぞ」


「まだ何も言ってない!」


「顔に書いてある」


「じゃあ行こう!」


「結局行くのかよ」


五人で店へ向かう。

店先には、串に刺された肉や野菜が並べられていた。


「これ、何?」


ファウラが店員に尋ねる。


「王都じゃ昔から売ってるやつだよ。地方によって味付けが違うんだ」


「地方?」


「マグナ王国でも場所によって食べ方が変わるんだ。こいつは北の方じゃよく食べられてる」


「へぇ……」


アギトも並んでいる料理を見る。

王都には、いろいろなものが集まる。

さっきラクニマが言っていたことを思い出した。

街を歩いているだけでも、それが分かる。


「じゃあ、これください!」


ファウラが注文する。


「五本でいい?」


「……六本」


「増えたな」


「アギトの分」


「俺も?」


「食べるでしょ?」


「まあ……」


アギトは苦笑した。


「じゃあ六本で」


料理を受け取る。

ファウラが一本。

アギトが一本。

残りもそれぞれ手に取る。


「いただきます」


ファウラが一口食べた。


「おいしい!」


「良かったですね」


テラも笑う。

ウェントスは黙って食べている。


「どう?」


「……普通」


「嘘だ」


「何で分かる」


「食べる速度が速い」


「うるさい」


また笑い声が起きる。

大通りを歩く。

店を眺める。

知らないものを見つける。

時々立ち止まって、また歩く。

特別なことは何もない。

ただ、それだけの時間だった。

アギトはふと後ろを振り返った。

人がいる。

馬車が通る。

店の呼び込みの声が聞こえる。

どこにでもある、普通の街の風景。


「……?」


何かが引っかかった。


「どうしたの?」


ファウラが振り返る。


「いや」


アギトは前を向く。


「何でもない」


「そう?」


「ああ」


五人はそのまま歩いていく。

少し離れた場所。

一人の男が立っていた。

灰色の外套。

昨日と同じ姿だった。

男は追いかけることもなく、ただ彼らが人混みの向こうへ消えていくのを見ていた。

やがて懐から小さな紙を取り出す。

そこには、短い言葉が一つだけ書かれていた。


 『予定通り』


男は紙を折り、懐へ戻した。

そして何事もなかったように、別の通りへ歩いていった。

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