第70話
翌朝。
魔法省の中庭には、澄んだ空気が流れていた。
朝露の残る芝生を職員が手入れし、遠くでは訓練場から木剣のぶつかる音が聞こえてくる。
「王都って朝から元気なんだね」
ファウラは欠伸を噛み殺しながら空を見上げた。
「お前が眠そうなだけだ」
「まだ眠い」
「だったら早く寝ろ」
「昨日は枕が変わって寝られなかったんだもん」
「子どもか」
「子どもですー」
言い返す元気だけは十分らしい。
ウェントスは肩を落とした。
その様子を見て、テラとアクアが顔を見合わせる。
「今日も賑やかですね」
「いつも通りですね」
その時だった。
「皆さん、おはようございます」
リーベラが中庭へ姿を現した。
胸元には王家の紋章が刻まれた書状を抱えている。
「国王陛下より、お話があります」
その一言で、空気が少しだけ変わった。
「俺たちにですか?」
アギトが尋ねる。
「はい。本日、王城へお越しいただきたいとのことです」
王城。
王都の中心にそびえる、マグナ王国の象徴。
昨日は遠くから眺めるだけだった場所だ。
「また謁見ですか?」
「いいえ」
リーベラは首を横に振る。
「今回は公式な場ではありません」
「陛下がお茶会を開かれるそうです」
「……お茶会?」
ファウラがきょとんとする。
「国王と?」
「そうなります」
「お茶会ってもっと……」
ウェントスは言葉を探す。
「貴族とかが行くもんじゃないのか」
「本来はそうですね」
リーベラは苦笑した。
「ですが、陛下は皆さんともう少し話してみたいそうです」
アギトは少しだけ考え込む。
国王ラクニマ・コムニース。
初めて会った時も威圧感より穏やかな印象が強かった。
だからこそ、不思議だった。
自分たちに、そこまで興味を持つ理由があるのだろうか。
「どうかしましたか?」
「……いえ」
考えすぎか。
アギトは小さく首を振った。
「分かりました。お伺いします」
「ありがとうございます」
リーベラは柔らかく微笑んだ。
「では、一時間後に正門でお待ちしています」
そう言い残し、その場を後にする。
中庭には再び静けさが戻った。
「お茶会かぁ」
ファウラが腕を組む。
「お菓子出るかな」
「そこかよ」
「重要でしょ」
「……否定はできない」
ウェントスは苦笑する。
アギトもつられて笑った。
王城へ向かうことになるとは、この時はまだ軽く考えていた。
中庭を見下ろす時計塔の窓。
カーテンが、風もないのにゆっくりと閉じられた。




