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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第2章王都篇

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第69話

魔法省を出ると、昼の陽射しが石畳を白く照らしていた。

中央通りは今日も賑やかだ。

露店から漂う焼きたてのパンの香り。

噴水の周りでは子どもたちが水を掛け合い、大人たちはその様子を笑って見守っている。


「いい匂い……」


ファウラが足を止めた。


「昼食、まだだもんね」


アクアが苦笑する。


「いや、それだけじゃない!」


露店を指差しながら、ファウラは目を輝かせた。


「あれ見て! 串焼き!」


「見えてる」


「甘いお菓子もある!」


「見えてる」


「買おう!」


「財布と相談しろ」


「相談した!」


「何て?」


「買えって!」


「都合のいい財布だな」


ウェントスが呆れたように息を吐く。

その隣でテラは小さく笑っていた。


「少しくらいなら、いいんじゃないですか?」


「ほら!」


「テラを味方につけるな」


「もう味方ですー」


ファウラは勝ち誇ったように笑うと、露店へ駆けていく。

その後ろ姿を見送りながら、アギトは肩の力を抜いた。


「……楽しそうだな」


「王都に来てから、ずっとあの調子ですね」


アクアの言葉に、アギトも自然と笑みを浮かべる。


「それでいいんじゃないか」


旅に出てから、張り詰める時間の方が多かった。

こんなふうに何も考えず笑っていられる日があってもいい。

そう思えた。

ふと視線を上げる。

二階建ての建物。

その屋根の上に、人影が見えた気がした。

目を細める。

だが、次の瞬間には誰もいない。


「アギト?」


ウェントスが振り返る。


「……いや」


首を振る。


「何でもない」


言いながら歩き出す。

屋根の上では、黒い手袋をはめた男が身を伏せていた。

アギトたちの姿が人混みに紛れて見えなくなる。

男はゆっくりと立ち上がった。


「確認した」


それだけ呟くと、踵を返す。

乾いた足音が、屋根の上に小さく響いた。

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