第68話
魔法省を後にしたアギトたちは、そのまま王都の中央通りを歩いていた。
「結局、一番すごかったのは何だった?」
ファウラが振り返る。
「私は魔導具ですね。あんな物があるなんて……」
テラが目を輝かせる。
「確かに便利そうだった」
アクアも頷いた。
「俺は資料室だな」
ウェントスが腕を組む。
「あれだけの魔法書が集まる場所なんて初めて見た」
「アギトは?」
「ん?」
「一番印象に残ったもの」
急に話を振られ、アギトは少し考えた。
「……人、かな」
「人?」
「研究してる人も、兵士も、職員も。みんな忙しそうだった」
魔法を使う者だけではない。
書類を抱えて走る職員。
魔導具を整備する技師。
城へ向かう伝令。
一人ひとりが役目を持ち、王都は動いている。
「何か、国って感じがした」
「ふふっ」
アクアが小さく笑う。
「それ、すごくアギトらしいですね」
「そうか?」
「うん」
ファウラも笑顔で頷いた。
「普通なら『すげぇ魔法!』ってなるところなのにね」
「悪かったな」
「褒めてるんだって」
笑い声が通りに溶けていく。
その横を、一人の男が通り過ぎた。
灰色の外套。
深く被った帽子。
男は一瞬だけ足を止めると、アギトたちへ視線を向けた。
そして何事もなかったように歩き出す。
「……?」
アギトは思わず振り返った。
だが、そこには大勢の人が行き交うだけだった。
「どうした?」
「いや……」
気のせいか。
そう思い直し、歩き出す。
男は路地へ入ると、懐から一枚の紙を取り出した。
短く何かを書き込み、小さく折り畳む。
その紙を黒い鳥の足に結びつけると、空へ放った。
羽ばたきは一度。
二度。
鳥は王都の屋根を越え、どこかへ飛び去っていく。
男はその姿を見届けると、帽子を深く被り直した。
「次だ。」
それだけ呟き、石畳を踏みしめながら歩き出した。
王都の喧騒は、今日も変わらず賑やかだった。




