第67話
王都へ来て三日目。
「今日は魔法省の中を案内するわ」
リーベラがそう告げると、ファウラは目を輝かせた。
「昨日は街だったもんね!」
「今日はちゃんと勉強する日だ」
ウェントスが釘を刺す。
「えぇ……」
「露骨に嫌そうな顔するな」
「だって勉強だよ?」
「魔法の勉強をしてる奴が何言ってる」
二人のやり取りに、アクアとテラが小さく笑う。
そのまま一行は魔法省の奥へと進んだ。
廊下には数え切れないほどの部屋が並び、魔導具を運ぶ職員や、研究資料を抱えた魔法使いたちが忙しなく行き交っている。
「思ったより人が多い……」
アギトは辺りを見渡した。
「ここは王国中の魔法研究が集まる場所だからね」
リーベラは歩きながら説明を続ける。
「新しい魔法の研究や魔導具の開発、各地で起きた魔物被害の報告まで、全部ここへ集まるの」
「全部?」
「ええ。だから一日中忙しいのよ」
その時。
「おや、君たちか」
前方から聞き覚えのある声がした。
現れたのは、宰相アルバート・クラヴィスだった。
「王都には慣れたかな?」
「はい。街も綺麗で驚きました」
アギトが答える。
「それは良かった」
アルバートは穏やかに微笑んだ。
「この王都は、長い年月をかけて築かれてきた。多くの人々の努力があって、今の姿がある」
その口調には誇りが感じられた。
「魔法省も、その一つですか?」
「もちろんだ」
アルバートは窓の外へ目を向ける。
「国は兵だけでは守れない。知識も、技術も、人も必要だ」
その言葉に、アギトは静かに頷いた。
戦う力だけでは、国は成り立たない。
だからこそ、この場所があるのだろう。
「……なるほど」
アルバートは一行を見回し、柔らかく笑った。
「君たちには、王都で多くのものを見て帰ってほしい」
「はい!」
ファウラが元気よく返事をする。
「勉強になるかは分からないけど!」
「最後の一言が余計だ」
ウェントスがため息をついた。
廊下に小さな笑い声が響く。
その様子を、少し離れた場所から一人の男が見つめていた。
灰色の外套を羽織り、帽子を深く被った男。
視線だけが、アギトたちを追っている。
「……見つけた」
男は懐から小さな紙片を取り出すと、指先で燃やした。
紫色の炎は一瞬で灰へと変わり、風に乗って消えていく。
それは合図だった。
獲物の居場所を知らせるための。
男は誰にも気づかれぬまま、人混みへと姿を消した。
一方、アギトたちは何も知らず、魔法省の見学を続けていた。
王都の平穏は、まだ続いている。
だが、その裏では確実に歯車が回り始めていた。




