第65話
翌朝。
「自由行動だー!」
魔法省の廊下にファウラの声が響く。
「静かにしろ」
「嫌です」
「即答かよ」
ウェントスが呆れる。
「だって王都だよ?」
「王都!」
「コムニース!」
「自由行動!」
「浮かれる要素しかないじゃん!」
「最後だけは認める」
アギトが苦笑した。
すると。
「皆さん」
リーベラが近付いてくる。
「本日は自由行動ですが、あまり遠くへ行かないでくださいね」
「はーい」
「返事だけは良いな」
「失礼な」
ファウラは胸を張った。
「行動も良いです」
「嘘をつけ」
「バレた」
「バレるわ」
朝から騒がしい。
⸻
魔法省を出ると。
王都コムニースの景色が広がった。
石畳の道路。
整備された街路樹。
露店。
商店。
噴水広場。
人々の笑い声。
「おお……」
アギトは思わず見回した。
地方都市とは規模が違う。
人の数も。
建物の大きさも。
全てが。
「すごーい!」
ファウラは既に走り出していた。
「待て!」
「迷子になるぞ!」
「ならない!」
「その台詞が危ないんだよ!」
ウェントスが追い掛ける。
「仲良しですね」
「ですね」
アクアとテラが微笑んだ。
「どこがだ!」
「どこがだ!」
遠くから声が返ってきた。
「……本当に仲良しだな」
アギトは笑った。
⸻
昼頃。
一行は広場のベンチに集まっていた。
ファウラの両手には大量の紙袋。
「買いすぎだろ」
「必要経費です」
「何に使うんだ」
「知らない」
「考えて買え」
ウェントスが頭を抱える。
その時だった。
「ん?」
アギトが違和感を覚える。
広場の向こう。
黒いローブ姿の男。
こちらを見ていた。
しかし。
目が合った瞬間。
人混みに紛れて消える。
「……」
「アギト君?」
「いや」
「何でもない」
気のせい。
そう思おうとした。
だが。
胸騒ぎは消えなかった。
⸻
その頃。
王都の地下。
薄暗い部屋。
長机を囲む数人の男達。
「対象は?」
「監視中です」
「護衛は?」
「確認できず」
「好都合だな」
男は笑う。
机の上には資料。
そこには。
アギト達の名前が並んでいた。
「焦るな」
「王都には人が多い」
「事故は自然に起こるものだ」
部屋に笑い声が響く。
ドミナートル・テネブラーラム。
王国の闇。
その刃は。
既に抜かれていた。
⸻
夕方。
帰路につくアギト達。
街は橙色に染まり始めていた。
「楽しかったー!」
ファウラが満足そうに伸びをする。
「まだ一日目だぞ」
「毎日これでいい」
「勉強しろ」
「嫌です」
「即答か」
そんなやり取りをしながら。
彼らは魔法省へ戻る。
誰も知らない。
今日一日が。
嵐の前の静けさだったことを。
そして。
彼らを狙う者達が。
すぐ近くまで迫っていることを。




