第60話
馬車の揺れ。
窓の外を流れていく景色。
「暇」
ファウラがぐでっと座席にもたれ掛かる。
「まだ着かないのか?」
「あと少しですよ」
リーベラが微笑む。
「王都コムニースまでは遠いですから」
「遠すぎる〜」
「静かにしろ」
ウェントスがため息をつく。
「お前、さっきからそればっかだな」
「だって暇なんだもん」
「子供か」
「なんだと!」
「やるか!」
「やめてくださいよ……」
アクアが苦笑する。
「元気ですね」
テラも笑った。
「アギト君は疲れてませんか?」
「うーん」
「少しだけ」
アギトは窓の外を見る。
草原。
森。
小さな村。
そして。
遠く。
地平線の向こう。
「!」
巨大な壁。
「見えてきましたよ」
リーベラが言う。
「マグナ王国首都」
「コムニースです」
「!」
馬車の中が静まり返る。
やがて。
誰からともなく。
「でっか……」
ファウラが呟いた。
高くそびえる城壁。
その中心に見える巨大な城。
無数の建物。
そして。
王都を囲う川。
「これが……」
「王都……」
アクアも目を輝かせる。
「凄い……」
ウェントスでさえ息を呑む。
「田舎とは大違いだな」
「綺麗です……」
テラも感嘆の声を漏らした。
ただ一人。
クルデーリスだけは。
懐かしそうに目を細めていた。
「変わらないな」
五百年前。
戦争の後。
復興した王都。
そして。
今。
「先生?」
「何でもない」
小さく笑う。
しかし。
その瞳には。
誰にも気付かれないほどの寂しさがあった。
⸻
王都正門。
「身分証を」
門番達が馬車を止める。
だが。
リーベラが王国紋章の入った書状を見せると。
門番達の顔色が変わった。
「し、失礼しました!」
「通行を許可します!」
ゆっくりと開く巨大な門。
そして。
アギト達は。
マグナ王国の中心。
首都コムニースへ足を踏み入れた。
「おおー!」
ファウラが身を乗り出す。
「店いっぱい!」
「人多!」
「落ち着け!」
「無理!」
「子供か!」
「なんだと!」
「またかよ!」
「ふふっ」
「仲良しですね」
「「どこが!」」
今日も声が揃う。
だが。
そんな賑やかな五人を。
建物の屋上から。
一人の男が見下ろしていた。
黒い外套。
右目を隠す仮面。
そして。
冷たい瞳。
「見つけた」
男は不気味に笑う。
「紅月の英雄達」
「ドミナートル・テネブラーラムの名において」
「始末する」
彼の背後で。
十数人の影が静かに立ち上がった。




