第56話
夜空を裂いて。
一筋の光が放たれる。
否。
それは光ではない。
槍。
禍々しい黒い槍だった。
空気を裂き。
音すら置き去りにしながら。
真っ直ぐ。
アギトへ向かう。
「!」
死。
誰もがそう思った。
「アギト!」
アクアの悲鳴。
「避けろ!」
ファウラの叫び。
だが。
間に合わない。
そのはずだった。
「全く」
静かな声。
「少しは」
「教師を信用しろ」
紫炎。
夜空を焦がすような紫色の炎が。
黒槍を飲み込んだ。
轟音。
衝撃。
そして。
黒槍は跡形もなく消滅した。
「……え?」
アギトが振り返る。
そこにいたのは。
剣を振り下ろした姿勢のまま。
静かに立つクルデーリスだった。
「せ、先生……」
「馬鹿者」
銀髪の教師は小さく笑う。
「生徒を守るのも教師の仕事だ」
「……」
「もっとも」
「少し冷や汗ものだったがな」
その額には。
僅かに汗が浮かんでいた。
だが。
門の奥。
赤黒い瞳の主は。
笑っていた。
『ククク』
『やはり』
『貴様か』
『紫炎使い』
「……」
『懐かしいな』
『○○』
「!」
グリフォンの顔色が変わる。
しかし。
クルデーリスの表情は変わらない。
「その名は」
「もう捨てた」
『そうか』
『寂しいものだ』
『五百年ぶりだというのに』
五人は固まる。
「ご……」
「五百年?」
ウェントスが震える。
「先生?」
「何言ってんだ」
ファウラも困惑する。
アクアも。
テラも。
理解が追い付かない。
だが。
当の本人は。
ただ。
面倒そうにため息をついた。
「昔話だ」
「今は」
「そんなことより」
紅い瞳が細まる。
「アギト」
「はい!」
「結晶を壊せ」
「この子を救うぞ」
「!」
その一言で。
アギトの迷いは消えた。
「はい!」
再び駆け出す。
巨大狼。
紫色の結晶。
そして。
胸の魔性紋。
ドクン。
「!」
炎。
赤い炎。
その中に。
微かに混じる紫。
それを見たクルデーリスは。
目を見開いた。
(何故だ)
(何故、君が)
(その炎を……)
そして。
初めて。
銀髪の教師の顔に。
焦りが浮かんだ。




