表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇後半
54/65

第53話

紅い月。

裂けた空。

そして。

世界を覆うように広がる禍々しい魔力。

その全てが。

五百年前の悪夢を思い起こさせていた。


「戦争は……既に始まっている」


門の向こうから響いた声。

その余韻だけが、未だ森の中に残っている。


「……」


誰も言葉を発せなかった。

あまりにも。

あまりにも現実味がない。

魔族。

空間の亀裂。

そして。

人間ではない何か。

教科書の中の話。

遠い昔の伝承。

そんなものだと思っていた。

しかし。

それは今。

目の前で起きている。


「先生」


沈黙を破ったのはアギトだった。


「まずは」


「この子を助けましょう」


「!」


クルデーリスが目を細める。


「世界がどうなるかとか」


「戦争がどうとか」


「俺にはよく分かりません」


アギトは変異した異常個体を見つめる。

苦しそうに唸る巨大な狼。

その赤い瞳からは。

先程の敵意は消えていた。

あるのは。

痛み。

苦しみ。

そして。

助けを求める弱々しい光。


「でも」


「苦しんでる奴がいるなら」


「放っておけません」


「……はぁ」


ファウラが呆れたように笑った。


「相変わらずだな」


「馬鹿だよ、お前」


「そうかな」


「そうだよ」


だが。

その顔には笑みがあった。


「だから嫌いになれねぇんだ」


「え?」


「なんでもない!」


顔を赤くしながら、ファウラはそっぽを向く。


「全く……」


ウェントスも小さく息を吐いた。


「世界が終わるかもしれないって時に」


「魔物を助ける話をしてるんだからな」


「帰ったら笑われそう」


「じゃあ」


アクアが優しく微笑む。


「皆で笑われよう?」


「ふふっ」


テラも小さく笑った。

その光景を見て。

クルデーリスは。

ほんの少し。

遠い昔を思い出していた。


「……似ている」


「本当に」


仲間達と共に。

馬鹿みたいな理想を語った。

遠い日のことを。



その頃。

王都。

人々は夜空を見上げていた。


「なんだあれ……」


「空が……」


「裂けてる……?」


市場の喧騒は消え。

誰もが不安そうな顔を浮かべる。

そして。

王城の最上階。

一人の老人が。

静かに目を閉じた。


「始まったか」


王国宰相。


アルバート・レグニス。


「長き平和も」


「終わりだな」


彼の背後。

壁に飾られた一枚の絵。

そこには。

五百年前。

世界人魔大戦を戦い抜いた英雄達の姿が描かれていた。

そして。

その中には。

今より遥かに若い。

銀髪の男の姿もあった。



「先生」


アギトが振り返る。


「結晶を壊せば」


「助けられるんですよね」


「……ああ」


クルデーリスは頷く。


「だが」


「簡単ではない」


紅い瞳が細まる。


「失敗すれば」


「この子は死ぬ」


「!」


「そして」


「暴走も止まらない」


静寂。

重い沈黙。

だが。

アギトの瞳から迷いは消えていなかった。


「なら」


「成功させます」


「先生」


「力を貸してください」


その真っ直ぐな眼差しに。

クルデーリスは。

小さく笑った。


「そうだったな」


「君は」


「そういう子だった」


そして。

銀髪の男は剣を構える。


「総員」


「作戦開始だ」


「この子を救う」


「一匹も」


「見捨てはしない」


その言葉と共に。

紅月の下。

救出作戦が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ