第52話
『ようやく見つけた』
低い声。
その一言だけで。
森の空気が凍り付いた。
「……っ」
アギトの背筋を冷たいものが走る。
巨大な亀裂。
その向こう側。
闇の中から伸びた腕。
そして。
赤黒い瞳。
姿は見えない。
だが。
分かる。
そこにいる。
「なんだよ……」
ファウラの額から汗が流れる。
「なんなんだよ、あいつ」
「喋ってる……」
アクアの声も震えていた。
「魔物じゃ……ない」
「当たり前だ」
珍しく。
グリフォンの声に余裕はなかった。
「ありゃ化け物だ」
「グリフォン!」
クルデーリスが叫ぶ。
「知っているのか!」
「知ってるも何も……」
獣人の男は苦々しい顔をする。
「五百年前からの腐れ縁だ」
「なっ!?」
ウェントス達が固まる。
しかし。
そんなことを気にする余裕はない。
『成長したな』
赤黒い瞳。
その視線は。
アギトだけに向けられていた。
『魔性の子』
『我が同胞よ』
「同胞……?」
アギトが目を見開く。
「何言ってるんだ」
「俺は」
「人間だ」
『ククク……』
笑う。
不気味に。
楽しげに。
『まだ知らぬか』
『ならば』
『いずれ知ることになる』
『己の運命を』
「!」
アギトの左胸。
魔性紋が熱を帯びる。
ドクン。
ドクン。
『その時を』
『楽しみにしている』
そして。
巨大な腕が。
さらに門から現れようとした。
「させるか!」
クルデーリスが剣を抜く。
轟く紫炎。
夜空を焦がす紫色の炎。
「先生……!?」
「下がっていろ!」
銀髪が揺れる。
燃え盛る紫炎。
それを見た赤黒い瞳の主は。
一瞬。
驚いたように目を細めた。
『ほう』
『まだ生きていたか』
『紫炎使い』
『面白い』
「黙れ」
クルデーリスの声に。
静かな怒りが宿る。
「二度と」
「こちら側へ来させはしない」
『できるかな?』
『人間』
『戦争は』
『既に始まっている』
その瞬間。
世界中のどこかで。
同じように。
空が裂け始めていた。
⸻
【クルデーリス視点】
「……最悪だ」
誰にも聞こえないように呟く。
五百年前。
終わったはずだった。
終わらせたはずだった。
だが。
「あいつが動くなら」
「また始まるのか」
紅い瞳が細まる。
「世界人魔大戦が」




