第51話
空が割れた。
紅く染まる夜空。
そこに走る巨大な亀裂は、まるで世界そのものに傷が付いたようだった。
「な……」
ファウラが言葉を失う。
「なんだよ、あれ」
誰も答えられない。
いや。
答えられる者はいた。
「空間魔法……?」
クルデーリスの表情が険しくなる。
「違う」
「こんなものは魔法ではない」
銀髪の男の声に、僅かな緊張が混じる。
「門だ」
「門?」
アクアが震える声で尋ねる。
「何の……?」
「魔界への」
その言葉に。
五人は息を呑んだ。
木々の上。
グリフォンは舌打ちした。
「最悪だ」
「こんな時代に開くとは」
五百年前。
世界を焼いた災厄。
人類と魔人族。
天使と悪魔。
全てを巻き込んだ戦争。
その始まりも。
こうして空が裂けたのだった。
「デーモンキング」
「正気じゃねぇ」
赤い瞳が細くなる。
「いや」
「正気だからこそ厄介か」
「先生!」
アギトが叫ぶ。
異常個体の額。
紫色の結晶。
その輝きが増していた。
『苦しい』
『助けて』
「……待ってろ」
アギトは拳を握る。
「絶対助ける」
「アギト!」
ウェントスが止める。
「今そんな場合じゃない!」
「そんな場合だからだ」
「え?」
「苦しんでるんだ」
「だから」
「助ける」
「馬鹿かお前!」
ウェントスが声を荒げる。
「空が割れてんだぞ!?」
「知るか!」
アギトも負けじと叫ぶ。
「苦しんでる奴を見捨てられるか!」
「……っ」
ウェントスが言葉を失う。
そして。
クルデーリスは。
そんな二人を見て。
小さく笑った。
「全く」
「本当に似ている」
「先生?」
「独り言だ」
だが。
その紅い瞳には。
懐かしむような色が浮かんでいた。
その時。
巨大な亀裂の奥。
漆黒の闇の中から。
何かが動いた。
「!」
グリフォンの表情が変わる。
「嘘だろ」
「まだ早い!」
「出てくるな!」
しかし。
願いは届かない。
ゆっくりと。
一本の腕が。
亀裂の向こうから現れる。
禍々しい魔力。
圧倒的な存在感。
そして。
森全体を震わせる低い声。
『久しいな』
「!」
クルデーリスの瞳が見開かれる。
『人間』
『獣族』
『そして……』
その赤黒い瞳が。
真っ直ぐ。
アギトを見つめた。
『魔性の子よ』
「……え?」
『ようやく見つけた』




