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魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇後半
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第49話

夜風が吹く。

しかし。

その風は、先程までの心地よいものではなかった。

肌を刺すような冷たさ。

空気そのものが重くなったかのような圧迫感。

そして。

異変は空に現れていた。


「……月?」


アクアが呟く。

雲一つない夜空。

そこに浮かぶ満月が。

赤く染まっていた。


「なんだよ……」


ファウラが顔を引き攣らせる。


「気味悪ぃな」


「紅月……」


ウェントスの顔色が変わる。


「知ってるのか?」


アギトが尋ねる。


「古い伝承だ」


「紅月の夜には災厄が現れるっていう……」


「伝承?」


「昔話だと思ってた」


その時だった。


「グオオオオオオオ!」


変異した異常個体が咆哮を上げる。

大地が震える。

木々が揺れる。

その傷付いた身体から、黒い瘴気が噴き出した。


「先生!」


「分かっている」


クルデーリスは剣を構える。


だが。


その紅い瞳は異常個体だけを見てはいなかった。


「嫌な予感が当たったな」


「え?」


「来るぞ」


「何が……」


答えるように。

森の奥から。


ズシン。


ズシン。

重い足音が響く。


一つではない。


二つ。


三つ。


四つ。


「……嘘だろ」


ウェントスの声が震える。


「まだいるのか」


赤い瞳。

闇の中で次々に灯る光。

それは狼ではない。

熊。

蛇。

巨大な鹿。

そして。

見たこともない魔物達。


「なんで……」


アクアが青ざめる。


「あり得ないよ」


「普通なら縄張り争いするはず……」


「それが群れてやがる」


ファウラも汗を流す。


「最悪だ」


クルデーリスが小さく呟く。


「瘴気に支配されている」


「先生!」


「全員、私の後ろへ!」


魔力が溢れる。

凄まじい威圧感。

普段の優しげな教師の姿はどこにもない。

今そこにいるのは。

数々の戦場を潜り抜けてきた、一人の強者だった。



同時刻。

木々の上。

グリフォンは腕を組みながら、静かに空を見上げていた。


「紅月か」


「久しぶりに見たな」


しかし。

その表情に余裕はない。


「……ちっ」


「笑えない冗談だ」


五百年前。

世界を焼いた戦争。

その記憶が蘇る。


「まさか」


「ここまでとはな」


赤い瞳が細まる。


「デーモンキング」


「随分と派手に始めるじゃないか」


風が止んだ。

その瞬間。

グリフォンの顔色が変わる。


「!」


「なんだ……?」


空。

遥か上空。

そこに。

巨大な魔法陣が浮かんでいた。


「おいおい」


「嘘だろ」


「まだ早い!」


珍しく。

グリフォンの声に焦りが混じる。


「まさか」


「召喚するつもりか?」



遥か魔界。

漆黒の玉座。


「ククク……」


デーモンキングは静かに笑う。


「始まりの鐘だ」


「世界よ」


「恐怖を知れ」


「絶望を知れ」


「そして」


黄金の瞳が妖しく輝く。


「我を知るがいい」


再び。

紅く染まる森。


「先生!」


アギトが叫ぶ。

異常個体の額。

紫色の結晶。

その輝きが強くなっていた。


『助けて』


『助けて』


『助けて』


声。


苦痛。


悲鳴。


そして。


アギトの左胸。

魔性紋が。

かつてないほどの熱を放ち始める。


「ぐっ……!」


「アギト!?」


アクアが駆け寄る。


「大丈夫!?」


「う、あ……」


熱い。

苦しい。

頭が割れそうだ。

そして。

視界が。

紫色に染まった。

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