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魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇後半
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第47話

「……面倒なことになった」


クルデーリスの低い声が、静まり返った森に響く。

その一言だけで。

五人は悟った。

事態は。

自分達の想像を遥かに超えている。


「先生……?」


アギトが声を掛ける。

だが。

クルデーリスは答えない。

紅い瞳は。

巨大狼のさらに奥。

暗闇の先を睨んでいた。


「全員」


「今すぐ離れろ」


「え?」


「早く!」


普段とは違う。

怒鳴るような声。

ファウラ達も思わず息を呑む。

その瞬間だった。


ズシン。


地面が揺れた。

巨大狼。

異常個体。

その身体が。

突然震え始める。


「グル……」


「グルルル……!」


苦しむような声。


「なんだ?」


ファウラが顔をしかめる。

次の瞬間。


バキバキバキッ!!


「!?」


異常個体の身体が膨張した。

筋肉が膨れ上がり。

骨が軋む。

瘴気が溢れ出す。


「嘘だろ……」


ウェントスの顔から血の気が失せる。


「第二変異……!」


「そんなもの」


「存在するのか!?」


クルデーリスですら目を見開く。

誰も知らない。

資料にもない。

前例もない。


「グオオオオオオオオオ!!」


咆哮。

衝撃波。

周囲の木々が吹き飛ぶ。


「きゃあ!」


テラが転倒する。


「テラ!」


アクアが駆け寄る。


「大丈夫!?」


「う、うん……」


「先生!」


アギトが叫ぶ。


「これは……!」


「下がれ!」


クルデーリスが剣を抜く。

銀色の刀身。

夜空を反射し。

美しく輝く。


「こいつは」


「私がやる」


瞬間。

消えた。


「え?」


アギト達の目には映らなかった。

次に見えた時。

クルデーリスは。

既に巨大狼の眼前にいた。


「──斬れ」


一閃。

夜空に銀の軌跡が走る。


ズドン。


巨大狼の身体が吹き飛んだ。


「すげぇ……」


ファウラが呆然と呟く。

圧倒的。

それしか言葉が出てこない。

だが。


「……」


クルデーリスの顔は険しい。


「浅いか」


「は?」


巨大狼。

いや。

変異した異常個体は。

まだ立っていた。


「グルルル……」


傷口から。

黒い瘴気が溢れ出す。

そして。

ゆっくりと。

再生していく。


「再生……!?」


「冗談だろ!」


ファウラが叫ぶ。


「……厄介だな」


クルデーリスが小さく舌打ちする。

その時。


ドクン。


「っ!」


アギトの胸が熱くなる。

魔性紋。

その熱は。

先程より遥かに強い。


『助けて』


声。

また。

聞こえた。


「……え?」


アギトは目を見開く。


『苦しい』


『痛い』


『助けて』


間違いない。

あの魔物だ。

あの異常個体が。


「そんな……」


「魔物が……?」


ドクン。


さらに熱くなる魔性紋。

そして。

紫色の光。

異常個体の額。

そこに。

何かが埋め込まれていた。


「!」


アギトの顔色が変わる。


「先生!」


「額です!」


「額を見てください!」


「……!」


クルデーリスの瞳が細まる。


「なるほど」


「そういうことか」


「……人為的か」


殺気。

今までとは比較にならないほどの殺気が。

銀髪の男から溢れ出す。


「外道め」


「生物実験か」


その声には。

静かな怒りが宿っていた。

そして。

遥か森の奥。

その気配を感じ取った何者かが。

楽しそうに笑う。


「クク……」


「気付いたか」


「クルデーリス」


「相変わらず鋭いな」


その男の額には。

禍々しい角。

そして。

赤黒い瞳。

魔族。


「だが」


「まだ始まりに過ぎない」


「人間よ」


「絶望を知れ」


男の背後。

巨大な魔法陣が。

静かに輝き始めていた。

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