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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第1章学園篇後半
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第46話

カクヨムにもこの作品を投稿しました。内容は変わりませんが、是非そちらの方も読んでいただけると幸いです

森が揺れた。

いや。

正確には。

森の奥にいる「何か」が動いた。

その一歩一歩が地面を震わせ、木々をざわめかせている。


「……」


ウェントスの顔から血の気が引いていた。


「嘘だろ」


「なんだよ……あれ」


ファウラの声にも余裕がない。

二つの巨大な赤い瞳。

暗闇の中に浮かぶそれは、まるで夜そのものがこちらを見下ろしているかのようだった。

そして。


ドン。


一本の木が倒れた。


「!」


姿を現した。

全長十メートルを超える巨大な狼。

全身を黒い瘴気が覆い、紫色の模様が不気味に脈動している。


「そんな……」


アクアが青ざめる。


「こんなの……資料にないよ……」


「主……」


ウェントスが震える声で呟く。


「森の主だ」


「主?」


アギトが聞き返す。


「各地に存在する強力な魔物……」


「だけど、こんな場所にいるはずがない!」


「しかも……」


ウェントスの額に汗が流れる。


「異常個体化してる」


「最悪だ」


巨大狼が唸る。

その瞬間。

周囲の狼型魔物達が一斉に頭を垂れた。

まるで王に跪く家臣のように。


「冗談だろ……」


ファウラが引き攣った笑みを浮かべる。


「逃げる?」


テラが尋ねる。


「逃げられない」


ウェントスが即答する。


「追いつかれる」


絶望。

誰もが理解していた。

勝てない。

実力差は明らかだった。

それでも。


「……」


アギトは一歩前へ出た。


「アギト?」


アクアが目を見開く。


「逃げる時間を作ります」


「馬鹿!」


ウェントスが怒鳴る。


「死ぬぞ!」


「それでも!」


アギトは巨大狼を見据える。


「皆が死ぬよりマシです!」


「……っ」


ウェントスが言葉を失う。

ファウラも。

アクアも。

テラも。

皆が知っていた。

この少年は。

こういう時。

絶対に引かない。

巨大狼が牙を剥いた。


「来る!」


ウェントスが叫ぶ。

瞬間。

轟音。


「なっ!?」


巨大狼の身体が吹き飛んだ。


「え?」


誰も理解できなかった。

ただ。

一人の男が。

いつの間にか。

五人の前に立っていた。

銀色の髪。

紅い瞳。


「全く」


「少し目を離しただけでこれか」


その声を聞いた瞬間。

五人の顔が明るくなる。


「クルデーリス先生!」


しかし。

教師の表情は険しかった。


「下がれ」


「先生?」


「今すぐだ」


彼の視線は。

目の前の巨大狼ではない。

さらに奥。

森の深淵へ向けられていた。


「……面倒なことになった」


珍しく。

クルデーリスの額に汗が浮かんでいた。

その視線の先。

闇の中で。

何者かが。

笑っていた。



同時刻。

木の上から戦場を見下ろしていたグリフォンは、思わず口元を緩めた。


「へぇ」


「クルデーリスか」


「相変わらず無茶をする男だ」


だが。

次の瞬間。

彼の表情から笑みが消えた。


「……は?」


風が止まる。

獣族特有の鋭い感覚。

五百年生きてきた経験。

その全てが警鐘を鳴らしていた。


「まさか」


「なんでお前が……」


赤い瞳が見開かれる。


「あり得ない」


「まだ早いだろ」


珍しく。

グリフォンの声に焦りが混じった。


「デーモンキング……」


「貴様」


「どこまで狂ってやがる」



その頃。

遥か魔界。

玉座に座る存在は、静かに笑った。


「ククク……」


「さあ」


「目覚める時間だ」


黄金の瞳が妖しく輝く。


「人間共」


「絶望する準備はできたか?」

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